オオカミの背を追いかけて

ツヅラ

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1話 女子高生追跡魔

04

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 駅前のとある一角に、規制線が引かれ、パトカーが止まっていた。

 人々の視線が集まる中、捜査一課である雨宮は、踊り場を見下ろしていた。

「被害者は近所に住む大学生。足を滑らせて、転倒、打ち所が悪く、長時間放置されたため、搬送後死亡が確認されたそうです」

 ここ最近、近所で増えている女子高生や女子大生を狙ったストーカー被害。
 今までは、多少の口論や障害に発展することはあっても、死者が出るものはなかった。
 だが、被害者の年齢や状況は、ストーカー被害に類似する点は多い。関係している可能性は否定できない。

「最近、この辺は女子高生が襲われる事件が多いですから、同一犯の可能性も含め、被害者の足取りを追っています」
「わかった。事故と他殺の両方で進めてくれ」
「そうだね。少なくとも、もうひとり、ここにはいたようだから、目撃者として、その人物を探す方が早いだろうね」

 突然増えた声に、報告を聞いていた雨宮も報告をしていた日野も、驚いたように振り返った。

「蛭子警部!?」

 そこには、ゆっくりと階段を観察しながら、被害者のいた場所まで上ってくる蛭子の姿。

「久しぶりだね」
「いつお戻りに?」
「昨日だよ。今日、本部で挨拶の予定だったが、事件が起きたと連絡があったからね。こんなところで、挨拶となってしまって申し訳ない」

 蛭子は、ここ数年、海外へ出向していたため、最近、捜査一課へ配属された日野は、面識はなかった。
 ただ、蛭子の噂は、警察内部でも有名であり、日野もその名前を聞いたのは、一度や二度ではない。

「初めまして。蛭子です」
「雨宮です。一課には、二年前から。お噂はかねがね」
「噂は尾ひれがついているものだ。できることなら、忘れてくれると助かる」

 踊り場まで上がってきた蛭子は、雨宮のことを足先から頭の上まで軽く観察すると、手を差し出した。

「荒事になるようなら、君にお任せした方がいいかな?」
「ははは……まぁ、体力には多少自信はありますから、任せてもらって問題ないですよ」

 少しだけ強張った笑みで返事をする日野は、蛭子に握手を返すと、蛭子は踊り場から、また階段を上がり、その途中で足を止めた。
 鑑識が新しい傷として、チェックしている部分だ。

「被害者が落ちかけ掴んだ際にできた傷ですか?」

 指紋としてはほとんど意味を成さないが、強く擦れた指紋が取れている。
 おそらく、被害者が落ちないように、手すりを掴んだが、自分の体を支えきれず、落ちたのだろう。

「……被害者の身長は?」
「168㎝。女性にしては、高いです」
「だとすれば、やはりこの傷の高さは、少々低すぎる」

 階段から転倒しているのだから、本来の手の位置よりも低い位置に傷がついていることに不思議はない。
 だが、膝上程度の高さにある鋭い引っ掛けたような傷。

「鑑識に、この階段に残っている新しい傷から、被害者の転倒のシミュレーションを作るように伝えてくれるかな? おそらく、それで、この階段にもう一人いたことが証明できるだろう」
「は、はい」

 日野が鑑識へ伝えに行っている間も、蛭子は他に情報が残っていないかと、階段を見渡す。

「警部がいたら、今日中に解決してしまいそうですね」
「そうしたいものだね」

 事件が早く解決することは、警察であれば誰もが望んでいることだ。
 実際に可能かどうかは置いといて。

「女子高生の襲撃事件の方の捜査の進展は?」
「その線も疑っておられるのですか?」
「そうだね。あくまで可能性のひとつと思っているが、個人的な意見では、そちらの方を早々に片付けたいものだよ」

 今回の事件との繋がりについては、蛭子であってもまだ繋がりは想定していない。
 だが、ここは千秋のバイト先も近い。女子高生を襲う不審者など、早々に捕まえておきたい。

「雨宮君たちは、怨恨やストーカーの被害届を出していないかなどの被害者の方から探ってくれるかな?」
「了解しました。警部は?」
「私は、個人的な理由で申し訳ないが、各所に挨拶をしながら、周辺に不審人物の情報がないかを探らせてもらうよ」

 本来であれば、出向から戻ってきたと、各所に挨拶周りをしなければいけないのだが、事件が起きてはそうもいかない。
 他の部下にでも任せればいい各所への連絡ついでに、挨拶を済ませてしまおうという蛭子に、雨宮も乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 被害者はこの近辺でバイトをしていたのだという。
 雨宮たちは、そこで何か聞いていないかと、その飲食店へ聞き込みに向かった。

「そんな……実は、彼女、昨日はバイトを休んでて」
「連絡はありませんでしたか?」
「彼女、上京してきて一人暮らしと聞いていましたから、一応、連絡もしましたが、返事もなく……」

 悩みや交流関係は、同世代の方が聞いているかもしれないと、店長が声をかけてくれるが、情報としてはいまひとつのものばかり。

「でも、確かに、最近物騒だから、路地に入らないようにしてるとは言ってましたよ」
「締めまでいると、遅くなるし」
「あ、でも前に、彼氏できたって言ってましたよ」
「彼氏、ね。同じ大学?」
「いや、そこまでは聞いてないですけど……」
「わかりました。ありがとうございます」

 蛭子の言う通り、もう一人の人物がいると想定するなら、痴情のもつれが関わってくる可能性もある。
 大学の友人たちに聞き込みをする必要があるかもしれない。

 時間としては、17時を回った辺り。移動時間も含めると、今から大学に行っても、二度手間になる可能性が高い。
 切り上げるかと、店を出た時だ。目の前にいた、女子高生にぶつかりそうになり、慌てて後ろに下がった。

「あれ」
「……あ、どうも」

 そこにいたのは、荻原千秋。知り合いだった。
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