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7.実戦課題
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◇
試験から一週間後。
マロゥ、カイル、ミーナの三人は、いよいよ明日に迫った実戦課題のブリーフィングのため、ミスティアのもとへと訪れていた。
「お前たちには、この課題をやり遂げてもらう」
緊張ぎみで席に着くマロゥたちの前に、ミスティアがはらりと羊皮紙を置いた。自然と三人の目線は羊皮紙へと向けられる。
「マティカ村という小村で、ゴブリンによる被害が報告されている。お前たちの課題は、この村をゴブリンから救うことだ。
危険度はそう高くないが……チームとしての実力を見るため、原則として教師や上級生の同行はない」
課題内容を言い渡されたマロゥたちは顔を見合わせながら、小声で話し始める。
「ゴブリンか……討伐難度は下から二番目、Fランクの魔物だよな。どんな課題がくるか緊張してたけど、これなら余裕そうだな」
「小鬼どもとの戯れか……彼奴らに深淵を覗く資格があればいいが」
一般的に、ゴブリンは弱い魔物として知られている。子供と同じぐらいの背丈と筋力で、獣より多少マシな程度の知能。
武装した大人ならば、容易に討伐ができる。魔術師なら尚更だ。マロゥとカイルが甘く見てしまうのも無理はない。
――ゴホン。
ミスティアの咳払いで、マロゥとカイルは慌てて姿勢を正した。
「何事にもイレギュラーはつきものだ。ゴブリン相手とはいえ、決して油断するな。
……それに、学生の身分とはいえ、学外に出れば星降りの杖の一員として見られることになる。星降りの杖の名を背負っていることを忘れぬよう、誇りをもって行動するように」
「「は、はいっ!!」」
ミスティアに気の緩みを見抜かれたマロゥとカイルは、姿勢とともに心持ちも正した。
「はぁ……大丈夫かしら」
ミーナはそんな二人を横目に、深いため息をつくのであった。
◇
「悠久なる地を渡り、果てに待つ楽園へといざ行かん。さあ、出番だシュナイダー! ――ぐえっ!」
「何言ってんの。あたしたちが地竜を使えるわけないでしょ。ほら行くわよ」
「わ、わかった! わかったからマントを引っ張るのをやめろ! これ以上破れたら黄金比が崩れる!」
出発の時間となり、厩舎に向かおうとしたマロゥのマントをミーナが強引に引っ張っていく。
女性としてはかなり力が強い方のミーナは、マロゥの抵抗を無視して身体ごと引きずっていく。
「マティカ村まで馬車で丸一日だっけ? アグドラに乗れたら二、三時間ぐらいだもんなー。気持ちはわかるぜ、マロゥ」
「――ぬ、ぐぅ」
カイルに話を振られるも、マントを引っ張られいるせいで首が絞められているマロゥは、苦しげな表情で返答ができないでいた。
「おいおい、ミーナ。それ以上引っ張るとマロゥが死んじまうって」
「あ、ごめん。もう……苦しいなら早く言ってよね」
カイルに言われ、ミーナはパッと手を放す。
「はぁ……はぁ……危うく闇に堕ちるところだったぞ」
言いたくても言えなかったんだ。……などと文句を言いたかったが、どんな報復が待っているのか想像もつかなかったマロゥは、呼吸を整えながら、とぼとぼと二人の後へ続く。
――そして、広大な敷地を歩き、三人はようやく校門へとたどり着く。
そこにはかなりの数の馬車が停留しており、学生たちの到着を待っていた。
「……こういう光景を見ると、やっぱり星降りの杖ってスゲェんだなぁって思うよな。俺の故郷じゃこんなん見れなかったぞ」
「何言ってんの。そりゃ世界最大の魔術師団なんだから当たり前じゃない」
「そんなこと言って……ミーナだって足が震えてないか?」
「はぁ!? そ、そんなわけないし!」
大量の馬車が並ぶ光景に緊張するカイルだったが、それは小さな農村出身のミーナの方が顕著に現れていた。
強がってはいるものの、緊張の色は隠せていない。
「フフ、このうちのひとつが俺たちを楽園へと誘う方舟となるのか……よし、お前に決めたぞ」
なかなか見れない光景を前に立ち尽くす二人をよそに、マロゥはずかずかと手近な馬車へと近寄っていく。
そして、車体に手を当て、意味ありげに微笑する。
「ちょっと、バカマロゥ! それぞれ行き先が違うんだから、あたしたちが乗る馬車は決められてるの!」
「――ぬぐぉっ! だ、だからマントを引っ張るんじゃない……!」
「……はは、マロゥの強心臓が羨ましいぜ」
マロゥの突飛な行動のおかげで、カイルとミーナの緊張は、いつの間にかほぐれていた。
――こうして、大きな期待とわずかな不安を残しつつ、三人の乗る馬車は目的地へと向かい、走り始めた。
この先に待つ出来事が、世界を揺るがすような事態に関わってくることを知るよしもなく……。
試験から一週間後。
マロゥ、カイル、ミーナの三人は、いよいよ明日に迫った実戦課題のブリーフィングのため、ミスティアのもとへと訪れていた。
「お前たちには、この課題をやり遂げてもらう」
緊張ぎみで席に着くマロゥたちの前に、ミスティアがはらりと羊皮紙を置いた。自然と三人の目線は羊皮紙へと向けられる。
「マティカ村という小村で、ゴブリンによる被害が報告されている。お前たちの課題は、この村をゴブリンから救うことだ。
危険度はそう高くないが……チームとしての実力を見るため、原則として教師や上級生の同行はない」
課題内容を言い渡されたマロゥたちは顔を見合わせながら、小声で話し始める。
「ゴブリンか……討伐難度は下から二番目、Fランクの魔物だよな。どんな課題がくるか緊張してたけど、これなら余裕そうだな」
「小鬼どもとの戯れか……彼奴らに深淵を覗く資格があればいいが」
一般的に、ゴブリンは弱い魔物として知られている。子供と同じぐらいの背丈と筋力で、獣より多少マシな程度の知能。
武装した大人ならば、容易に討伐ができる。魔術師なら尚更だ。マロゥとカイルが甘く見てしまうのも無理はない。
――ゴホン。
ミスティアの咳払いで、マロゥとカイルは慌てて姿勢を正した。
「何事にもイレギュラーはつきものだ。ゴブリン相手とはいえ、決して油断するな。
……それに、学生の身分とはいえ、学外に出れば星降りの杖の一員として見られることになる。星降りの杖の名を背負っていることを忘れぬよう、誇りをもって行動するように」
「「は、はいっ!!」」
ミスティアに気の緩みを見抜かれたマロゥとカイルは、姿勢とともに心持ちも正した。
「はぁ……大丈夫かしら」
ミーナはそんな二人を横目に、深いため息をつくのであった。
◇
「悠久なる地を渡り、果てに待つ楽園へといざ行かん。さあ、出番だシュナイダー! ――ぐえっ!」
「何言ってんの。あたしたちが地竜を使えるわけないでしょ。ほら行くわよ」
「わ、わかった! わかったからマントを引っ張るのをやめろ! これ以上破れたら黄金比が崩れる!」
出発の時間となり、厩舎に向かおうとしたマロゥのマントをミーナが強引に引っ張っていく。
女性としてはかなり力が強い方のミーナは、マロゥの抵抗を無視して身体ごと引きずっていく。
「マティカ村まで馬車で丸一日だっけ? アグドラに乗れたら二、三時間ぐらいだもんなー。気持ちはわかるぜ、マロゥ」
「――ぬ、ぐぅ」
カイルに話を振られるも、マントを引っ張られいるせいで首が絞められているマロゥは、苦しげな表情で返答ができないでいた。
「おいおい、ミーナ。それ以上引っ張るとマロゥが死んじまうって」
「あ、ごめん。もう……苦しいなら早く言ってよね」
カイルに言われ、ミーナはパッと手を放す。
「はぁ……はぁ……危うく闇に堕ちるところだったぞ」
言いたくても言えなかったんだ。……などと文句を言いたかったが、どんな報復が待っているのか想像もつかなかったマロゥは、呼吸を整えながら、とぼとぼと二人の後へ続く。
――そして、広大な敷地を歩き、三人はようやく校門へとたどり着く。
そこにはかなりの数の馬車が停留しており、学生たちの到着を待っていた。
「……こういう光景を見ると、やっぱり星降りの杖ってスゲェんだなぁって思うよな。俺の故郷じゃこんなん見れなかったぞ」
「何言ってんの。そりゃ世界最大の魔術師団なんだから当たり前じゃない」
「そんなこと言って……ミーナだって足が震えてないか?」
「はぁ!? そ、そんなわけないし!」
大量の馬車が並ぶ光景に緊張するカイルだったが、それは小さな農村出身のミーナの方が顕著に現れていた。
強がってはいるものの、緊張の色は隠せていない。
「フフ、このうちのひとつが俺たちを楽園へと誘う方舟となるのか……よし、お前に決めたぞ」
なかなか見れない光景を前に立ち尽くす二人をよそに、マロゥはずかずかと手近な馬車へと近寄っていく。
そして、車体に手を当て、意味ありげに微笑する。
「ちょっと、バカマロゥ! それぞれ行き先が違うんだから、あたしたちが乗る馬車は決められてるの!」
「――ぬぐぉっ! だ、だからマントを引っ張るんじゃない……!」
「……はは、マロゥの強心臓が羨ましいぜ」
マロゥの突飛な行動のおかげで、カイルとミーナの緊張は、いつの間にかほぐれていた。
――こうして、大きな期待とわずかな不安を残しつつ、三人の乗る馬車は目的地へと向かい、走り始めた。
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