無詠唱魔術が最強の時代、俺はあえて詠唱することを選ぶ。だってそのほうがカッコいいから。

大豆茶

文字の大きさ
7 / 12

7.実戦課題

しおりを挟む


 試験から一週間後。

 マロゥ、カイル、ミーナの三人は、いよいよ明日に迫った実戦課題のブリーフィングのため、ミスティアのもとへと訪れていた。

「お前たちには、この課題をやり遂げてもらう」

 緊張ぎみで席に着くマロゥたちの前に、ミスティアがはらりと羊皮紙を置いた。自然と三人の目線は羊皮紙へと向けられる。

「マティカ村という小村で、ゴブリンによる被害が報告されている。お前たちの課題は、この村をゴブリンから救うことだ。
 危険度はそう高くないが……チームとしての実力を見るため、原則として教師や上級生の同行はない」

 課題内容を言い渡されたマロゥたちは顔を見合わせながら、小声で話し始める。
 
「ゴブリンか……討伐難度は下から二番目、Fランクの魔物だよな。どんな課題がくるか緊張してたけど、これなら余裕そうだな」
「小鬼どもとの戯れか……彼奴らに深淵を覗く資格があればいいが」

 一般的に、ゴブリンは弱い魔物として知られている。子供と同じぐらいの背丈と筋力で、獣より多少マシな程度の知能。
 武装した大人ならば、容易に討伐ができる。魔術師なら尚更だ。マロゥとカイルが甘く見てしまうのも無理はない。
 
 ――ゴホン。

 ミスティアの咳払いで、マロゥとカイルは慌てて姿勢を正した。

「何事にもイレギュラーはつきものだ。ゴブリン相手とはいえ、決して油断するな。
 ……それに、学生の身分とはいえ、学外に出れば星降りの杖の一員として見られることになる。星降りの杖の名を背負っていることを忘れぬよう、誇りをもって行動するように」
「「は、はいっ!!」」

 ミスティアに気の緩みを見抜かれたマロゥとカイルは、姿勢とともに心持ちも正した。

「はぁ……大丈夫かしら」

 ミーナはそんな二人を横目に、深いため息をつくのであった。



「悠久なる地を渡り、果てに待つ楽園エデンへといざ行かん。さあ、出番だシュナイダー! ――ぐえっ!」
「何言ってんの。あたしたちが地竜を使えるわけないでしょ。ほら行くわよ」
「わ、わかった! わかったからマントを引っ張るのをやめろ! これ以上破れたら黄金比が崩れる!」

 出発の時間となり、厩舎に向かおうとしたマロゥのマントをミーナが強引に引っ張っていく。
 女性としてはかなり力が強い方のミーナは、マロゥの抵抗を無視して身体ごと引きずっていく。

「マティカ村まで馬車で丸一日だっけ? アグドラに乗れたら二、三時間ぐらいだもんなー。気持ちはわかるぜ、マロゥ」
「――ぬ、ぐぅ」

 カイルに話を振られるも、マントを引っ張られいるせいで首が絞められているマロゥは、苦しげな表情で返答ができないでいた。

「おいおい、ミーナ。それ以上引っ張るとマロゥが死んじまうって」
「あ、ごめん。もう……苦しいなら早く言ってよね」

 カイルに言われ、ミーナはパッと手を放す。
 
「はぁ……はぁ……危うく闇に堕ちるところだったぞ」

 言いたくても言えなかったんだ。……などと文句を言いたかったが、どんな報復が待っているのか想像もつかなかったマロゥは、呼吸を整えながら、とぼとぼと二人の後へ続く。

 ――そして、広大な敷地を歩き、三人はようやく校門へとたどり着く。

 そこにはかなりの数の馬車が停留しており、学生たちの到着を待っていた。

「……こういう光景を見ると、やっぱり星降りの杖ってスゲェんだなぁって思うよな。俺の故郷じゃこんなん見れなかったぞ」
「何言ってんの。そりゃ世界最大の魔術師団なんだから当たり前じゃない」
「そんなこと言って……ミーナだって足が震えてないか?」
「はぁ!? そ、そんなわけないし!」

 大量の馬車が並ぶ光景に緊張するカイルだったが、それは小さな農村出身のミーナの方が顕著に現れていた。
 強がってはいるものの、緊張の色は隠せていない。

「フフ、このうちのひとつが俺たちを楽園エデンへと誘う方舟となるのか……よし、お前に決めたぞ」

 なかなか見れない光景を前に立ち尽くす二人をよそに、マロゥはずかずかと手近な馬車へと近寄っていく。
 そして、車体に手を当て、意味ありげに微笑する。

「ちょっと、バカマロゥ! それぞれ行き先が違うんだから、あたしたちが乗る馬車は決められてるの!」
「――ぬぐぉっ! だ、だからマントを引っ張るんじゃない……!」
「……はは、マロゥの強心臓が羨ましいぜ」

 マロゥの突飛な行動のおかげで、カイルとミーナの緊張は、いつの間にかほぐれていた。

 ――こうして、大きな期待とわずかな不安を残しつつ、三人の乗る馬車は目的地へと向かい、走り始めた。
 この先に待つ出来事が、世界を揺るがすような事態に関わってくることを知るよしもなく……。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...