千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第一章 器用貧乏な少年、ユーリ

7.救われた器用貧乏

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「……ん、うぅ」

 ふと、意識が覚醒する。
 目を開くと、僕は見知らぬベッドで横になっていた。

「ここは……?」

 ゆっくりと身体を起こし、ここがどこなのかを確認するため、右へ左へと首を振る。

 埃っぽい空気と、乱雑に積み重なっている本やら木箱に、その他もろもろ。なにやら既視感のある光景……そうだ、僕がここ一ヶ月のあいだ暮らしていた物置小屋にそっくりなんだ。
 まさか、僕の記憶を反映した夢の世界?
 ……いや、それにしたってここまで散らかってはいなかったような……。

「やあ、起きたか少年」

 その落ち着いたアルトの声色で、今置かれている状況が夢や幻ではないことがはっきりとした。

 陽光を反射する美しい銀色の髪、見覚えがある。ウルフの群れに囲まれていた僕を助けてくれたあの人だ。
 あのとき気を失ってしまった僕を、この場所へ連れてきてくれたのだろう。

「あ、あの、えーと……ここはいったい……」
「ん? ああ、ここはあたしの家だ。森の深いところにあって、誰も近寄れないけどな」
「家……?」
「そんなことより外を見てみろよ。いい景色だと思わないか?」

 家というより物置の間違いでは? と、つっこみたくなるところを抑え、彼女が指差した方向に視線を移す。
 すると、そこには大きな窓があり、その向こうには大きな湖が広がっていた。さらに奥には木々が生い茂っている。どうやらこの建物は森に囲まれた湖の湖畔に建てられているらしい。

 ……美しい景観に比べて、家の中のこの乱雑さがじつにミスマッチだ。掃除とかしないんだろうか。

「んー? 何か文句でもありそうな顔してるなぁ?」
「あっ、いえ! そんなことないです!」

 不満そうな顔を向けられてしまったので、僕はがばっとベッドから飛び起きて命の恩人に向けて姿勢を正す。

「まあ……それだけ動ければ大丈夫そうだな。元気になったみたいでなによりだよ」
「え……あれ、そういえば身体の痛みがなくなってる……? 傷痕もない……?」

 慌てて飛び起きたにも関わらず、どれだけ動いてもまったく痛みがなかった。骨折に裂傷、そして打撲……簡単には癒えない重傷だったはずなのに……。
 痛みもそうだけど、木剣で打たれた痣なんかも、痕が残ることなくきれいさっぱりなくなっていた。

 ……まるで、あの出来事は夢だったかのように。

「ふふ、夢じゃないよ。少年が寝ていたのは丸一日ぐらいかな。怪我はあたしがぱぱーっと治しといたよ」

 心を読んだかのようにそう告げられ、思わず頬が熱を持つ。そ、そんなにわかりやすい顔してたのかな……?

「あのっ、改めてお礼をさせてください。僕の名前はユーリ・グラ――――いえ、ユーリです。この度は助けていただきありがとうございます」

 恥ずかしい気持ちを振り切り、まずはちゃんとお礼をと思い、命の恩人に向け深く頭を下げた。

「あたしはレニってんだ、よろしくな少年。それと、助けてやったことに関してはあまり恩義を感じなくてもいい。善行がしたかったわけでも、気まぐれでもない。ある目的があったからそうしただけだよ」
「目的……?」
「ああそうさ。……っと、それより腹減っただろ? 腹が減ってちゃ話に集中できないよな。続きは飯を食ったあとにしよう」

 そう言われて、自分が空腹だったことを思い出した。怪我の痛みがなくなったぶん、余計にお腹の虫が空腹を主張してくる。

「すいません何から何まで……ご馳走になります」
「かまわないよ。じゃあテーブルに着いて待ってな」
「はい……ええと、テーブル?」

 テーブルを探すが、それらしきものは見当たらない。……というか、改めて見ると本当に汚いなこの家。どこもかしこも物だらけだ。

「ここだ、ここ」

 レニさんは、おもむろに山積みの本に手をかけ、「どっこいしょー!」と言いながら、ラリアットの要領で豪快に本の山を辺りにぶちまけた。
 すると、本が積んであった場所からテーブルの天板が姿を現した。なるほど、ここがテーブルだったのか。
 ……いや、どれだけ使ってなかったらああなるんだろう。

「いやー、悪い悪い。しばらく客なんかこなかったからさ。あ、椅子は無いからその辺にあるものを適当に椅子がわりに使ってくれていいぞ」
「は、はあ……」

 言われるがまま、僕はいい感じの高さの木箱をテーブル近くに寄せ、椅子に見立てて腰かける。そして、数秒もしないうちに料理がテーブルへと運ばれてきた。

「さ、おあがりよ!」
「…………い、いただきます」

 料理……と言ったのは訂正しよう。なんせ、出てきたのは切り分けてもいないし、皿にも盛り付けられていない、素材そのままの木の実やら果実やらが出てきたからだ。これを料理と呼ぶのにはさすがに抵抗がある。

 とはいえ、贅沢を言える立場でもないし、今は食べれるならなんだってかまわない。
 僕は楕円形の果実をひとつ手に取って、埃が付着していないかをよく確認してから、がぶりとかぶりついた。

「むぐむぐ――――っ!?!?!? ゲホッ、ゲホッ! なにこれ酸っぱい!!」

 緑色に薄く青の縞模様が入った果実を一口かじると、口の中が溶けたのではと錯覚するほどの酸味が口いっぱいに広がった。

 ――な、なんだこれ!? 本当に人が食べられるものなのか!?

「あれ? マズかったか? …………あー、これ採ってきたのいつだったかな。半年ぐらい前だったか?」
「いや、さすがにこの環境下で果実を何ヵ月も放置しておくのはどうかと……」

 そしてそれを人に出すのはどうかと……と続けて言いたいところだったけど、やたらと出る唾液とともに飲み込んでおく。
 ゲテモノ果実を出した張本人は「そうか?」と言いながら、次の瞬間には僕の苦言など忘れていそうな、からっとした表情をしていた。随分と大雑把な性格をしているんだな、この人……。

「ささ、どんどんお食べ」

 レニさんがやたらと急かしてくるけど、よくわからないものを食べる身としては慎重にならざるを得ない。
 と言っても、さっきの果実のせいで舌がピリピリしてて、次に口にしたものの味なんてわからないだろうなぁと思いながら、比較的安全そうな木の実を選別し、口へと放り込む。

 カリカリとした食感の、一般的な木の実だとは思うんだけど……うん、やっぱり味がわからない。

「さて、腹も満たされたことだろうし、本題に入ろうか」

 木の実をいくつか腹に入れ、ある程度空腹が満たされたところで、レニさんが話を切り出してくる。……ああ、やたらと食べるのを急かしてたのは早く話をしたかったからなのかな。

「そういえば、僕を助けたことに目的があるって、さっきそう言ってましたね」
「ああ、そうだ」
「その目的っていうのは……?」
、だよ」

 そう言いながら、彼女はにやりと怪しげな笑みを浮かべた。
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