千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第一章 器用貧乏な少年、ユーリ

9.実験中の器用貧乏




「ほらほら、逃げてばっかじゃ勝てないぞー?」
「そ、そんなこと言ったって……! こんなのあんまりですよぉ!」

 レニさんに協力すると決めてから五分としないうちに、早速『実験』が始まった。

 ある程度の準備時間が必要だと思っていたので面食らったけど、問題はそこじゃなかった。肝心の実験の内容がとんでもなかったのだ。

 どれほど酷いかというと、一度も使ったことのない槍を武器として持たされて、レニさんが魔法で造り出したゴーレムと戦うという、とても七歳の子供にやらせるような内容じゃなかった。
 しかも、レニさんの張った直径十メートルぐらいの結界の中しか行動範囲がないという制限付きだ。

 土から生まれたゴーレムの全長は、僕の身長の倍にしたくらいじゃ足りないほど大きい。というか、その辺の大人よりよっぽど大きい。多分三メートル弱はあるし、腕なんか僕の胴体よりも太い。

 そんな豪腕をぶんぶんと振り回しながら僕へと接近する姿は、以前対峙したウルフの比じゃないぐらいの威圧感だ。
 迫りくる恐怖に立ち向かう勇気がなく、僕は一心不乱にゴーレムから逃げ回っていた。

「だいじょーぶだって。少年が強さに設定してあるから」
「それって大丈夫じゃないですよね!?」

 そういうのって、ギリギリ勝てるようにするのが普通じゃないの!?

「――うわっ!」

 ゴーレムの腕が僕の身体の十数センチ横を通過し、拳の風圧で服と髪がなびいた。
 あんなの、人間大の岩を投げつけられているのと同じだ。パンチが一発当たった時点で全身の骨が砕けておしまいだろう。最悪弾けて死ぬ。

 ゴーレムの動きは鈍重だが、疲れ知らずだ。この広くない結界内で延々と逃げ回るのは難しい。必ず行き止まりに追い込まれて、今みたいに攻撃されてしまう。

「レニさん! あんなのまともに当たったら死にますって!」
「心配すんな、大抵の怪我なら治療できるから。……原型を留めないレベルで爆散とかしなければ」
「それは暗に今後爆散するようなことをやらせる可能性があるってことですかね!?」
「ははは。頑張れー、しょうねーん!」
「露骨に話題を逸らされた……!?」

 これ以上レニさんに何かを言っても無駄だろうと思い、逃げ一辺倒だった僕は改めてゴーレムへと向き直る。
 僕がギリギリ勝てないように設定したってことは……少なくともまったく歯が立たないなんてことはないはずだ。慣れない槍だけど、やれるとこまでやるしかない。

「いくぞ、ゴーレム!」

 どたどたとした足取りで追いかけてくるゴーレムの隙を見て、胴体へと突きを放つ。

 ギィィン!

「……かったっ!」

 土塊から生まれたとはいえ表層は固められており、石と大差ない固さだ。生半可な得物じゃ今みたいに弾かれてしまう。
 せめて、剣ならばと思う。【剣術】レベル3の効果が適用される剣を装備していたなら、あのゴーレム相手でもダメージを与えられたはずだ。
 というのも、スキルレベルというのは単純に所持者の技量を示すだけのものではない。レベルに応じて様々な恩恵があるのだ。
 例えば【剣術】であればレベルが上がるごとに、装備した剣の切れ味や耐久度の上昇など、スキルがあるとないのとでは天地の差がある。

 僕はずっと剣を振り続けていたため、もちろん【槍術】スキルなんて持っていない。
 そんな素人同然の槍で勝つなんてのは、夢のまた夢だ。レニさんはいったい何を考えて僕にこんなことをさせているんだ……?

「ふぅーっ……」

 兎にも角にも、真剣にやらなければ本当に死んでしまう。僕は息を大きく吐くことで余計な思考を削ぎ落とし、目の前のゴーレムへと全神経を集中させる。

 逃げてばかりじゃダメだ。
 攻めろ、見極めろ。どこかに弱点があるはずだ。

「はぁぁぁっ!!」

 ギィィン!

 ザシュッ!

 ズバァッ!

 ゴーレムの攻撃を紙一重で躱し、その隙に槍をねじ込む。そんな攻防を幾度と繰り返したころ、ふと何かを掴んだような感覚があった。天啓と言ってもいい。
 その感覚に身を委ね、足首から手首まで身体全体を使い、流れるような捻りを加えた渾身の突きを繰り出す。

 ズン、と固いものを貫く感触が腕に伝わる。それと同時に、僕の意識は極限の集中から解放された。

「……はぁ、はぁ」

 気が付けば、僕の槍はゴーレムの心臓とも言える核を的確に貫き、その活動を停止させていた。
 核を失ったゴーレムは土塊に戻り、徐々に崩れ落ちていく。

「勝っ……た?」

 完全に動かなくなり、大地へと還っていくゴーレムを見て、僕の全身から力が抜けていった。
 からん、と槍が手放されたあとの両の手の平を顔の前へと持ってくると、極度の緊張から解放されたからなのか、小さな震えが止まらないでいる。

「いやー、お見事だね少年。実験は成功だ」

 ぱちぱちと手を叩きながらレニさんがこちらへと歩み寄ってくる。結界はいつの間にか解除したようだ。

「予想通り……いや、予想以上の成果だよ」
「レニさん……僕は勝った……んですか? 自分でも実感がなくて……というか、僕じゃギリギリ勝てないって言ってましたよね? 勝っちゃたんですけど、これって実験成功って言えるんですか?」
「ああ、ギリギリ勝てない……確かにそう言ったね。でも、それは『戦いが始まる前の少年の実力』では……って付け加えたほうが適切だったかな」
「ええと、それってつまり……」
「そう、少年はこの戦いの中で成長したんだよ。それも異常な速さでね。ほれ、もう一度槍を持ってみな、そうすればわかる」

 レニさんが拾い上げた槍を受け取った僕は、奇妙な感覚に陥った。今日初めて槍を握ったばかりだというのに、とても手に馴染んでいるのだ。それこそ今まで振り続けてきた剣と同じくらいに。

「こ、この感覚……」
「そうだ。少年の【槍術】レベルは3まで上昇している。あたしもこれには驚いているよ」
「ええっ!? スキルレベル3って、そんなに簡単に上がるものなんですか!? だ、だって僕が【剣術】をレベル3にするのだって何ヵ月もかかったのに……!」
「少年はごく最近似たような体験をしたはずだぞ? よーく思い出してみるといい」

 そんな体験したことなんて……いや、ある、あったぞ。
 ウルフに襲われた時のことだ。あの時はその場に落ちていた枝を使って戦ったんだけど、最初の一匹との戦闘が終わる頃には、手に持った枝がやたらしっくりきたんだよな……。
 もしかしたらあの時も戦闘中に何らかのスキルをレベル3までに上げたのかもしれない。というか、そうじゃなければただの木の枝でウルフを倒せた説明がつかない。

「その顔、どうやら思い出したみたいだね。まあ少年の加護による補正があっても、生温い鍛練じゃあひとつのスキルのレベルを3まで上げるのに何ヵ月もかかってしまうんだろう。……まあ、それでも相当凄いんだけどな。
 しかーし、裏技的な方法がひとつある。大雑把に説明すると、命を懸けた極限状態で格上と戦うことでスキルレベルアップに必要な経験値が大幅に貯まりやすくなるんだ。
 だからあたしは少年が使い慣れていない槍を渡し、【槍術】レベル3がないと倒せないようなゴーレムを作って戦わせた……ってわけさ」

 なるほど、つまりあえて極限状態を作り出すことでスキルレベルの成長速度を高めるための実験だったってことか……。

「じゃあ、実験は成功……ってことですかね?」
「ああ、成功も成功、大成功さ。あたしの目論見では【槍術】の成長だけを想定してたんだけど、その他にも【弱点看破】や【直感】、【見切り】のスキルなんかも習得・成長している。ゴーレムに勝つために必要なスキルを無意識に成長させるだなんて、やるなあ少年。これは予定よりずっと早く目的が達成できそうだ」
「はは……お役に立ててなによりです。それじゃあ、そろそろ日が落ちそうですし今日は終わりにしましょうか」

 怪我こそないけれど、極度の緊張感に苛まれ続けたため、心も身体も悲鳴を上げていた。
 気付けば空も赤みを帯びてきたので、切り上げるのにいい時間帯だ。そう思い、僕はレニさんへ実験の切り上げを持ちかけた。

「じゃあ次は斧とかいってみよっか」
「…………え?」

 にこやかに笑うレニさんの手には、いつのまにか小ぶりな斧が出現していた。そして有無を言わさずにその斧を僕へと押し付けてくる。

「ええと、その……レニさん? ちょっと僕今日は疲れちゃって――――って、ええっ!?」
「実験の第一段階は、あたしの知る限りのスキルを叩き込むことから始まる! その数、千は超えるから休んでる暇なんてないぞー!
 さあさあ、ビシバシいくからなー。あ、そうだ。いいか少年、今後あたしのことは師匠と呼ぶように! 一回呼ばれて見たかったんだよね!」

 無理矢理斧を持たされると同時に、すぐ目の前にいたはずのレニさんの姿が消え、少し離れた先で僕へと檄を飛ばしていた。そしていつの間にやら結界とゴーレムが復活している。
 ……あの人、僕を逃がさないために時止めたな。

「はあ……」

 もはやため息しか出てこない。
 ……いいさ、実験に協力すると言ったのは僕自身だ。こうなったらとことんまでやってみせようじゃないか。

「いくぞ、ゴーレム」

 僕は、今の僕がギリギリ勝てない強さに設定されているであろうゴーレムを見据えて、今度は最初から真正面で迎え撃つ覚悟を決めた。

 ――――爆散だけはしないようにと祈りを込めて。
 
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