千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第二章 王都アニマ

14.助太刀する器用貧乏

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「ん? あれは……?」

 空を飛びながら移動することおおよそ二時間。ちょうど森を抜けたころだった。
 少し先から喧騒が聞こえたので周囲を見回すと、開けた場所で数台の馬車が足を止めているのが確認できた。
 そして、その乗組員と思わしき人間たちが、複数の魔物と戦闘を繰り広げている真っ只中のようだ。

「ウルフの群れか」

 犬に酷似した四足獣の魔物、ウルフだ。だが以前俺が対峙した個体とは違い、体毛が灰色ではなく真っ黒だ。そして身体も一回り以上大きく、体長二メートル近くはある。
 となると、あれはウルフの上位個体、ブラッドウルフだな。師匠のとこで魔物の知識は叩き込まれているし、実際に戦ったこともあるから間違いない。
 
 ブラッドウルフの群れの数は十二。それを迎撃している人間は四人だ。

 他人が横槍を入れるべきではないだろうと、しばらく俯瞰して見ていたが、ブラッドウルフの群れは馬車を包囲しており、完全に防戦一方のようだ。
 どう見ても人間側の劣勢……放っておけば全滅は免れないだろう。この状況、さすがに見過ごすわけにもいかないか。
 
 俺は馬車の方へと進路を変更し、一足飛びに戦場へ飛んだ。

「残りの魔力は……ちょっと心許ないか。よし、ここは剣だけで戦おう」

 移動中は魔法を使いっぱなしだったので、さすがに魔力が尽きかけていた。
 魔力が尽きれば気を失ってしまうので、この場は魔法無しでなんとかするしかない。

 使用し続けていたグラビティコントロールの魔法効果を解除し、次元収納からひと振りの剣を取り出す。
 羽のようにふわりと浮いていた身体が、適正な重力を受けることで急激に落下していく。そのままの勢いで、俺は馬車の前へと着地した。

「手を貸すぞ」
「なっ、誰――――いや……申し訳ない、援護を頼みます!」

 急に空から見知らぬ人が降ってきて驚いたのだろう。戦闘していた男のうちのひとりが、目を見開き驚いていた。
 だが、突然現れた怪しい人物にすら、すがらなければならないほどに窮地に立たされていたのだろう。俺の言葉に一瞬だけ迷いを見せたが、すぐに表情を引き締め、助けを求めてくる。

「魔物は俺が相手する。あんたたちは馬車を守っていてくれ」

 まずはさっと戦場を見回す。ブラッドウルフの群れは、俺という突然の乱入者に対応しきれておらず、連携が乱れていた。
 その隙を逃さぬよう、ぐっと地面を蹴り、一気に加速しながら最も近い位置にいた一匹へと突撃する。

「まずはひとつ……はあっ!」

 すれ違いざまに素早く一閃。
 俺の乱入に対応しきれていなかったブラッドウルフの胴を、素早く下から斬り上げる。

 鮮血が舞い、一匹のブラッドウルフは力なく倒れる。

 ……ふむ、両断するつもりだったんだが、想定より刃が通らなかったな。さすがに魔法のサポートなしだと厳しいか。

 俺の【剣術】スキルレベルは3。【筋力上昇】などの身体能力強化系の常時発動型パッシブスキル込みで、ブラッドウルフを倒せるぐらいの力はある。それがわかっただけでも収穫だ。

「グルルルルル……!」

 仲間をやられたことで、群れ全体の敵意が俺へと集中するのを感じる。
 その結果、馬車を対象としていた包囲網が、俺個人へ向けられるのにそこまで時間はかからなかった。
 群れはあっという間に俺の周囲に集まり、警戒しながらも着実ににじり寄ってくる。

「この感じ……懐かしいな」

 ふと思い出したのは、八年前にウルフの群れに囲まれた時のことだ。

 普通ならトラウマになっていてもおかしくない状況だったが、どこか懐かしさを感じられるほどに、今の俺には余裕がある。
 なせならば、これ以上の過酷な状況下に幾度となく立たされた経験があるからだ。数があのときの倍に増えていて、上位種族になったぐらいでは、今の俺は毛ほども恐怖を感じない。

「俺をビビらせたければ師匠のゴーレムを百体は連れてこいってんだ」

 実際にゴーレム百体と対峙した場面を頭の中で思い浮かべ、思わず失笑してしまう。人間ってのは、マジで理不尽な場面だと笑うしかないんだな。
 ……などと考えている間に、俺の失笑を挑発と受け取ったのか、ブラッドウルフの群れは合図も無しに一斉に俺へと襲いかかってきた。

「ガァウ!」
「グルァ!」

 余計なことを考えていたが、もちろん意識は常に敵へ向けられていた。襲撃に反応し、すぐさま迎撃体勢をとる。

 首筋に食らいつかんとする獰猛な牙、そして心臓を引き裂かんとする鋭利な爪。俺を殺すために、的確に急所を狙いながら飛びかかる二匹のウルフの同時攻撃を見極め、最小限の動きで躱す。

「ふっ!」

 そして、すれ違いざまに一匹のウルフを素早く斬りつける。【弱点看破】を駆使して、あばら骨の合間を縫い、心臓を切り裂くようにした一撃だ。
 魔法は使わないと決めたが、他にも有用なスキルは山ほどある。遠慮なく使わせてもらおう。

 急所を斬られ、空中で息絶えたウルフは、着地がままならずに地面をゴロゴロと転がっていく。

「ふたつ」

 続けて襲い来る爪を剣で受け流し、体勢を崩したところで喉元を一閃。

「みっつ」

 ブラッドウルフの襲撃はまだ終わらない。
 百六十センチある俺の身長を優に超える跳躍で、頭蓋を噛み砕かんと上空から襲来する牙には、剣を喰わせてやる。
 口内から脳天を貫かれたウルフは、当然即死だ。

「よっつ」

 剣を引き抜き、ウルフの身体はずさりと音を立てて大地に転がる。
 この時点で、ウルフたちの追撃は止まっていた。

 彼我の実力差を認識したのだろう。俺がこの場に降り立ってから、わずか一分足らずの戦闘であったが、四匹の仲間を葬られたことで『この人間を襲うのは割に合わない』と思わせるに至ったようだ。

 よし、これなら最後にもうひと押しすれば大丈夫だろう。
 俺はウルフの群れへ向けて【威圧】スキルを発動させる。

「失せな……!」

 俺の一言に、ブラッドウルフたちは毛を逆立ててピタッと動きを止めた。やつらに人間の言葉を理解する知能はないだろうが、意思は伝わったようだ。

 やがて【威圧】に耐えきれず群れの中の一匹が逃げ出すと、それに続くように残りも尻尾を巻いて去っていった。

 ……よしよし、初めて【威圧】スキルが役に立ったぞ。
 このスキルは、相手に精神的な圧力を与え、畏縮させる効果がある。場合によっては今のように逃亡してしまうというわけだ。

 使い得なスキルではあるが、いかんせん俺のスキルレベルは3しかない。敵と対峙していきなり使ったとしても、効果は殆どないだろう。だから、今のように実力差を見せつけてた後で使用する必要がある。

 ……よく考えたらあんま使いどころないかもな。師匠のゴーレムのような非生物はもちろん、一定以上の実力者には効果ないし。今回のようにウルフ雑魚の群れを散らすぐらいにしか使えないんじゃないか?

「お、おお……! あのブラッドウルフをこうもあっさり……なんてすごいんだ!」
「ああ……助かった」
「死ぬかと思った……」

 ふと、馬車のほうから安堵の声が聞こえた。
 どうやら本当にまずい状況だったらしい。馬車を守るようにして戦っていた四人は、それぞれ九死に一生を得た表情をしている。

「無事だったか?」

 俺は、俺に援護を要請した人物……四十代手前だと思われる柔和な顔のおっさんに声をかけた。
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