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運命の出会い
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次の日、私は食料品の買い出しのためにいつもの市場に訪れていた。
「フンフフ~ン。今日のごっはんは~なんじゃらほーいっと」
昨日の落ち込みなんてなかったかのように軽快な足取りで店を回る私。悩んでるだけじゃ何も解決しないものね。気分転換を兼ねて外へ買い出しに来た時ぐらい楽しまなくちゃ!
美味しい晩御飯を想像しながらウキウキ気分で歩いていると、何もない所だというのに足がもつれてしまい、盛大にバランスを崩してしまう。あ、ヤバ……転んじゃう!?
「あっ!」
こりゃ痛いぞと、転んだ後の痛みを覚悟して目をつぶっていたけど、不思議といつまで経っても痛みを感じなかった。
それどころか、ふわりとした感触と共に体が宙に浮いているような感覚が……って浮いてる!?
「大丈夫ですか? お嬢さん」
「えっ!? えっ!? どうなってるのこれ!?」
誰かに声を掛けられた気がするんだけど、自分の置かれた状況がわからず頭に入ってこなかった。
「おっと失礼」
パチン、と指を鳴らす音がすると、自分の身長ぐらいの高さで宙に浮いてた私は、ゆっくりと地面へと降りていく。
あ……これ魔法だ。こんな事が出来るのは魔法だけだよね。
初めて体感する魔法の凄さに感動する私。だって、魔法が使える人なんて滅多にいないんだもの。
いや、そんなことより一体誰が……?
「改めて、大丈夫でしたか? お嬢さん?」
フワッと爽やかな風と共に私の前に現れたのは、超が付くほどの美男子だった。
風になびくサラサラの金髪。声から男性だとわかるのだけど、髪の長さは背中あたりまで伸びていて、その美しい顔立ちも相まってどこか中性的な印象がある。
服装もそれに合わせたようにスマートで、そして……その胸に輝くのはこの国のシンボルである太陽をモチーフとした『騎士団勲章』。この方が騎士団に所属しているという証である。
「きっ、ききききき……騎士様っ!?」
え? そんなことってある? 偶然助けられた相手が騎士様で、しかも優しくて超絶美形……私の理想ピッタリだなんて!?
あっ、そっか。そう、これは夢よね。夢に違いないわ。ちょっと確認してみよう。
「ちょっ、君! 何をしてるんだい!?」
夢か現実かを確認するために、自分の頬をつねっていると、騎士様は慌てて私の腕を掴んだ。
あれ? 頬はただ痛いだけだし、腕を掴まれた感触もある。まさか、夢じゃないの?
「あ、いえ。夢かと思いまして……」
「――プッ、ハハハ! なんだい? 僕が幽霊か何かにでも見えたのかい?」
「その……こんなにカッコいい騎士様に出会えるだなんて、夢かなって思って……」
あ、つい正直に言っちゃった。初対面の人に言うようなことじゃないのに。変な子だと思われないかな……?
「ふふ、お褒めいただき光栄だよ、お嬢さん。いやあ、久々に笑わせてもらったよ。僕はサイラス・クロフォード。君の見立て通り騎士団に所属しているよ」
サイラス様……容姿にぴったりの素敵なお名前!
「あっ、わた……わたひはアイリスでしゅ!」
あーっ! 盛大に噛んだー! 恥ずかしー!
でも悪戯っぽく笑ったサイラス様の顔、癒されるぅー!
「アイリス。素敵な名前だね」
「あ、ありがとうございまふ!」
サイラス様はそう言いながら、私が自分でつねったせいでほんのりと赤くなった頬に触れる。
何なのこの人!? いちいち所作が美しすぎるんだけど!? これが夢でなければ、私の理想が具現化した存在なの!? っていうかまた噛んだー!
「アイリス嬢。今後は気を付けるんだよ? あ、街中で魔法を使ったことは内緒にしておいてね。では、僕はこれで失礼するよ」
ああっ、行ってしまう……! これは絶対運命的な出会いってやつよ! ここでそのまま別れたらもう二度と彼とは会えないかもしれない! 勇気を出すのよ、アイリス!
「あっ! あの……! サイラス様。今日のお礼をしたいので、後日またお会いできますか……?」
言った……よく言ったわ私! ぐっじょぶ!
「……お礼? ああ、気にしないでいいよ。大したことはしていないんだから」
あああー! 断られた泣きそう!
謙虚! キングオブ謙虚! 謙虚なのは美点ではあるんだけど、ここは欲を出して欲しかった!
「――そうだね、でも……君に少し興味が湧いてきかな。そうだな……お礼はいらないけど、今度少し話でもしようか。美味しいご飯でも食べながらね」
ぱちりと片目を閉じながらそんなことを言うサイラス様。下げてから上げるやつーー! 効果は抜群だーー!
「はいっ! もちろんですっ!」
当然、断る理由なんてない。私はその提案に二つ返事で承諾する。
「じゃあ、次の僕の休日……五日後のお昼に、僕たちが出会ったこの場所で待ち合わせしようか」
「は、はいっ! わかりました!」
「それじゃ、またね」
サイラス様は手を振りながら颯爽と立ち去ってしまった。ああ……後ろ姿も凛々しくていらっしゃる。
その美しい後ろ姿を見送った後も、私はしばらくぼーっとその場に突っ立っていた。その間も胸の鼓動が鳴り止むことはなく、私にこの出会いが現実だったんだと教えてくれる。
「約束……しちゃった」
まだ多少言葉を交わしただけなんだけど、長年追い求めてきた理想の騎士様と出会い、約束まで取りつけた。
これって、奇跡みたい。夢を諦めかけてた時にこんな出会いを果たすだなんて、奇跡としか言えないよね。
サイラス様のおかげで、昨日の落ち込みが嘘のだったかのように、心が晴れやかだ。
今日は心地よく眠れそう。おやすみなさい。サイラス様……。
「フンフフ~ン。今日のごっはんは~なんじゃらほーいっと」
昨日の落ち込みなんてなかったかのように軽快な足取りで店を回る私。悩んでるだけじゃ何も解決しないものね。気分転換を兼ねて外へ買い出しに来た時ぐらい楽しまなくちゃ!
美味しい晩御飯を想像しながらウキウキ気分で歩いていると、何もない所だというのに足がもつれてしまい、盛大にバランスを崩してしまう。あ、ヤバ……転んじゃう!?
「あっ!」
こりゃ痛いぞと、転んだ後の痛みを覚悟して目をつぶっていたけど、不思議といつまで経っても痛みを感じなかった。
それどころか、ふわりとした感触と共に体が宙に浮いているような感覚が……って浮いてる!?
「大丈夫ですか? お嬢さん」
「えっ!? えっ!? どうなってるのこれ!?」
誰かに声を掛けられた気がするんだけど、自分の置かれた状況がわからず頭に入ってこなかった。
「おっと失礼」
パチン、と指を鳴らす音がすると、自分の身長ぐらいの高さで宙に浮いてた私は、ゆっくりと地面へと降りていく。
あ……これ魔法だ。こんな事が出来るのは魔法だけだよね。
初めて体感する魔法の凄さに感動する私。だって、魔法が使える人なんて滅多にいないんだもの。
いや、そんなことより一体誰が……?
「改めて、大丈夫でしたか? お嬢さん?」
フワッと爽やかな風と共に私の前に現れたのは、超が付くほどの美男子だった。
風になびくサラサラの金髪。声から男性だとわかるのだけど、髪の長さは背中あたりまで伸びていて、その美しい顔立ちも相まってどこか中性的な印象がある。
服装もそれに合わせたようにスマートで、そして……その胸に輝くのはこの国のシンボルである太陽をモチーフとした『騎士団勲章』。この方が騎士団に所属しているという証である。
「きっ、ききききき……騎士様っ!?」
え? そんなことってある? 偶然助けられた相手が騎士様で、しかも優しくて超絶美形……私の理想ピッタリだなんて!?
あっ、そっか。そう、これは夢よね。夢に違いないわ。ちょっと確認してみよう。
「ちょっ、君! 何をしてるんだい!?」
夢か現実かを確認するために、自分の頬をつねっていると、騎士様は慌てて私の腕を掴んだ。
あれ? 頬はただ痛いだけだし、腕を掴まれた感触もある。まさか、夢じゃないの?
「あ、いえ。夢かと思いまして……」
「――プッ、ハハハ! なんだい? 僕が幽霊か何かにでも見えたのかい?」
「その……こんなにカッコいい騎士様に出会えるだなんて、夢かなって思って……」
あ、つい正直に言っちゃった。初対面の人に言うようなことじゃないのに。変な子だと思われないかな……?
「ふふ、お褒めいただき光栄だよ、お嬢さん。いやあ、久々に笑わせてもらったよ。僕はサイラス・クロフォード。君の見立て通り騎士団に所属しているよ」
サイラス様……容姿にぴったりの素敵なお名前!
「あっ、わた……わたひはアイリスでしゅ!」
あーっ! 盛大に噛んだー! 恥ずかしー!
でも悪戯っぽく笑ったサイラス様の顔、癒されるぅー!
「アイリス。素敵な名前だね」
「あ、ありがとうございまふ!」
サイラス様はそう言いながら、私が自分でつねったせいでほんのりと赤くなった頬に触れる。
何なのこの人!? いちいち所作が美しすぎるんだけど!? これが夢でなければ、私の理想が具現化した存在なの!? っていうかまた噛んだー!
「アイリス嬢。今後は気を付けるんだよ? あ、街中で魔法を使ったことは内緒にしておいてね。では、僕はこれで失礼するよ」
ああっ、行ってしまう……! これは絶対運命的な出会いってやつよ! ここでそのまま別れたらもう二度と彼とは会えないかもしれない! 勇気を出すのよ、アイリス!
「あっ! あの……! サイラス様。今日のお礼をしたいので、後日またお会いできますか……?」
言った……よく言ったわ私! ぐっじょぶ!
「……お礼? ああ、気にしないでいいよ。大したことはしていないんだから」
あああー! 断られた泣きそう!
謙虚! キングオブ謙虚! 謙虚なのは美点ではあるんだけど、ここは欲を出して欲しかった!
「――そうだね、でも……君に少し興味が湧いてきかな。そうだな……お礼はいらないけど、今度少し話でもしようか。美味しいご飯でも食べながらね」
ぱちりと片目を閉じながらそんなことを言うサイラス様。下げてから上げるやつーー! 効果は抜群だーー!
「はいっ! もちろんですっ!」
当然、断る理由なんてない。私はその提案に二つ返事で承諾する。
「じゃあ、次の僕の休日……五日後のお昼に、僕たちが出会ったこの場所で待ち合わせしようか」
「は、はいっ! わかりました!」
「それじゃ、またね」
サイラス様は手を振りながら颯爽と立ち去ってしまった。ああ……後ろ姿も凛々しくていらっしゃる。
その美しい後ろ姿を見送った後も、私はしばらくぼーっとその場に突っ立っていた。その間も胸の鼓動が鳴り止むことはなく、私にこの出会いが現実だったんだと教えてくれる。
「約束……しちゃった」
まだ多少言葉を交わしただけなんだけど、長年追い求めてきた理想の騎士様と出会い、約束まで取りつけた。
これって、奇跡みたい。夢を諦めかけてた時にこんな出会いを果たすだなんて、奇跡としか言えないよね。
サイラス様のおかげで、昨日の落ち込みが嘘のだったかのように、心が晴れやかだ。
今日は心地よく眠れそう。おやすみなさい。サイラス様……。
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