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約束の前日
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「フンフフ~ン。ふふっ、リックったらまた怪我しちゃって」
そんなこんなでいつも通りの日常を送り、ついにサイラス様との約束の日の前日。今日も今日とていつも通りにリックがまた治療を受けに来ていた。
でも今の私は超幸せモード。無料の手当てだろうが笑顔でなんだってやってあげちゃう!
「はい、終ーわりっ! お疲れ様でーす!」
「……どうしたんだアイリス? いつにも増してだらしない顔して……変なものでも食ったか?」
あれ、幸せオーラ出ちゃってたかな? ていうかさりげなく悪口言われた気がするけど、気分がいいので不問としてやろう。
「え、わかる? ちょっと良いことがあってね」
「……そうか。最近物騒な話を聞くから、あまり気を緩めるなよ」
いや何があったか聞かんのかい!
お母さんも私が浮かれているのに気付いてはいるみたいだけど、特に何も聞いてこないから誰かに喋りたかったんだけどな。
ま、まだ一回会っただけだし、誰かに話すのはもっとサイラス様と仲良くなってからでいいか。というかリックにそんな話しても誰得って感じだしね。
「――――ふぁ……ふわーっくしょい!!」
うぉい。急に近くで大きいくしゃみされたから、心臓止まるかと思ったよ。
またいつものやつかな?
「もう……我慢するぐらいだったら、うち以外のとこで治療受けたらいいのに」
「あー……まあ少し苦手なだけだから問題ないって」
ずびびと鼻をすすりながら、リックが何を苦手かと言っているかというと、臭いである。
私は調薬のため、薬品に使う薬草をすり潰したり、時には燻いぶしたりと色々な手段で加工をしているのだ。
調合する時なんかも色々な手順が必要となるので、その過程でどうしても薬草などの強い香りを放つ素材の臭いが服や髪、体などに染み着いてしまう。
しかも扱う素材の種類は千差万別。それぞれが混ざりあって何とも言えない臭いがするそうだ。
私自身は慣れてるからあまり感じないのだけど。
リックはこの臭いが苦手らしく、今のようにくしゃみをしてしまうのだ。
平気な時もあることから、どうにも苦手な臭いや成分の素材があるのだと思う。毎日大量に素材を扱うので、どれか原因なのかはわからないんだけどね。
しかしこの臭いは年頃の乙女には結構きつい。家業のためとはいえ、臭いのせいで他人に嫌な顔をされることも一度や二度じゃなく、何度も心が折れそうになったものだ。
でも今は私が長年かけて開発した臭い消し効果のある香水があるので、出掛けるときなんかはそれを使っている。おかげで今は昔ほど気にする必要も無くなった。
それでも今みたいに家の中では使ってないし、至近距離だと多少は臭うみたいなんだけど。
ちなみにお母さんは料理はできる割に、それ以外のことは不器用なので、この店に並ぶ薬の調薬に関してはほぼほぼ私が担当している。
「はいはい、どうせ私はくさい女ですよーだ! こんなのが幼馴染みで悪かったわね!」
「おい、そう怒るなよ。別に俺は――」
「アーちゃーん! ちょっと来てくれるー?」
リックの言葉を遮るように、お母さんからお呼びがかかる。なんだろう、急病人でも来たのかな?
「あ、はーい! ……ごめんねリック、私行かなきゃ」
「あ、ああ。邪魔したな。ソフィおばさんによろしく言っといてくれ」
リックと別れ、お母さんのところへ行ったのだけど、急患とかではなかった。見るからにお金持ちそうなおじさんがいて、なんでも私の作った薬に興味を持ったらしい。
その後しばらく作り方やらを色々聞かれて、私はそれに答えてただけだ。時々おじさんは驚いた様子で目を丸くしてたけど、私は何も特別なことはしてないし、大げさだと思うんだけどなあ。
そんなこんなで夜になり、今日も平凡な一日が終わろうとしていた。
早めの時間にベッドに入ったんだけど、明日の約束のことを想うとドキドキして寝れそうにない。
明日はお店のことはお母さんに頼んで一日お休みをもらったし、早起きして目一杯お洒落しなきゃいけないんだけどなあ。
あ、そうだ。こんな時は何かを数えてると眠くなるって聞いたことあるわ。
えーと何を数えるんだったっけな……うーん。思い出せそうにない。
仕方なく一旦ベッドから出ると、あるものを準備し始める。
眠れない時はこれ! パパラパーン! ハーブティー!
もちろんただのハーブティーじゃございません。誘眠作用のある薬草を混ぜたハーブティーでござい。
いやー、実家が薬屋でよかった。あ、もちろん効果は軽めのやつだから安心安全! 私のお墨付き!
効きすぎて寝坊したら大変だもんね。
「ふぃー」
ハーブティーを胃に流し込み一息。効き目が出るまで少し時間があるからあの本でも読んでようかな。
パラリと表紙をめくりながら騎士様へと想いを馳せる。
ずっと、ずーっと憧れてた騎士様。このままサイラス様と仲良くなっちゃって、ゆくゆくは結婚できちゃったり……?
「ムフフ!」
あ、やっば。気持ちが昂りすぎてつい声が漏れちゃったけど、今のは気持ち悪いよね。サイラス様の前ではしっかりしないと……あれ、ちゃんとしなきゃって思うとワクワクより緊張の方が強くなってきた。
どうしよう、急に不安になってきた。と言っても出来ることなんて明日への心構えぐらいしかないものね。
私はできる子。私はできる子。私はで……あ、眠くなって……ムニャムニャ……
「ああああああああーーっ!」
翌朝、私は思わぬ事態に、叫び声を上げてしまったのだった。
そんなこんなでいつも通りの日常を送り、ついにサイラス様との約束の日の前日。今日も今日とていつも通りにリックがまた治療を受けに来ていた。
でも今の私は超幸せモード。無料の手当てだろうが笑顔でなんだってやってあげちゃう!
「はい、終ーわりっ! お疲れ様でーす!」
「……どうしたんだアイリス? いつにも増してだらしない顔して……変なものでも食ったか?」
あれ、幸せオーラ出ちゃってたかな? ていうかさりげなく悪口言われた気がするけど、気分がいいので不問としてやろう。
「え、わかる? ちょっと良いことがあってね」
「……そうか。最近物騒な話を聞くから、あまり気を緩めるなよ」
いや何があったか聞かんのかい!
お母さんも私が浮かれているのに気付いてはいるみたいだけど、特に何も聞いてこないから誰かに喋りたかったんだけどな。
ま、まだ一回会っただけだし、誰かに話すのはもっとサイラス様と仲良くなってからでいいか。というかリックにそんな話しても誰得って感じだしね。
「――――ふぁ……ふわーっくしょい!!」
うぉい。急に近くで大きいくしゃみされたから、心臓止まるかと思ったよ。
またいつものやつかな?
「もう……我慢するぐらいだったら、うち以外のとこで治療受けたらいいのに」
「あー……まあ少し苦手なだけだから問題ないって」
ずびびと鼻をすすりながら、リックが何を苦手かと言っているかというと、臭いである。
私は調薬のため、薬品に使う薬草をすり潰したり、時には燻いぶしたりと色々な手段で加工をしているのだ。
調合する時なんかも色々な手順が必要となるので、その過程でどうしても薬草などの強い香りを放つ素材の臭いが服や髪、体などに染み着いてしまう。
しかも扱う素材の種類は千差万別。それぞれが混ざりあって何とも言えない臭いがするそうだ。
私自身は慣れてるからあまり感じないのだけど。
リックはこの臭いが苦手らしく、今のようにくしゃみをしてしまうのだ。
平気な時もあることから、どうにも苦手な臭いや成分の素材があるのだと思う。毎日大量に素材を扱うので、どれか原因なのかはわからないんだけどね。
しかしこの臭いは年頃の乙女には結構きつい。家業のためとはいえ、臭いのせいで他人に嫌な顔をされることも一度や二度じゃなく、何度も心が折れそうになったものだ。
でも今は私が長年かけて開発した臭い消し効果のある香水があるので、出掛けるときなんかはそれを使っている。おかげで今は昔ほど気にする必要も無くなった。
それでも今みたいに家の中では使ってないし、至近距離だと多少は臭うみたいなんだけど。
ちなみにお母さんは料理はできる割に、それ以外のことは不器用なので、この店に並ぶ薬の調薬に関してはほぼほぼ私が担当している。
「はいはい、どうせ私はくさい女ですよーだ! こんなのが幼馴染みで悪かったわね!」
「おい、そう怒るなよ。別に俺は――」
「アーちゃーん! ちょっと来てくれるー?」
リックの言葉を遮るように、お母さんからお呼びがかかる。なんだろう、急病人でも来たのかな?
「あ、はーい! ……ごめんねリック、私行かなきゃ」
「あ、ああ。邪魔したな。ソフィおばさんによろしく言っといてくれ」
リックと別れ、お母さんのところへ行ったのだけど、急患とかではなかった。見るからにお金持ちそうなおじさんがいて、なんでも私の作った薬に興味を持ったらしい。
その後しばらく作り方やらを色々聞かれて、私はそれに答えてただけだ。時々おじさんは驚いた様子で目を丸くしてたけど、私は何も特別なことはしてないし、大げさだと思うんだけどなあ。
そんなこんなで夜になり、今日も平凡な一日が終わろうとしていた。
早めの時間にベッドに入ったんだけど、明日の約束のことを想うとドキドキして寝れそうにない。
明日はお店のことはお母さんに頼んで一日お休みをもらったし、早起きして目一杯お洒落しなきゃいけないんだけどなあ。
あ、そうだ。こんな時は何かを数えてると眠くなるって聞いたことあるわ。
えーと何を数えるんだったっけな……うーん。思い出せそうにない。
仕方なく一旦ベッドから出ると、あるものを準備し始める。
眠れない時はこれ! パパラパーン! ハーブティー!
もちろんただのハーブティーじゃございません。誘眠作用のある薬草を混ぜたハーブティーでござい。
いやー、実家が薬屋でよかった。あ、もちろん効果は軽めのやつだから安心安全! 私のお墨付き!
効きすぎて寝坊したら大変だもんね。
「ふぃー」
ハーブティーを胃に流し込み一息。効き目が出るまで少し時間があるからあの本でも読んでようかな。
パラリと表紙をめくりながら騎士様へと想いを馳せる。
ずっと、ずーっと憧れてた騎士様。このままサイラス様と仲良くなっちゃって、ゆくゆくは結婚できちゃったり……?
「ムフフ!」
あ、やっば。気持ちが昂りすぎてつい声が漏れちゃったけど、今のは気持ち悪いよね。サイラス様の前ではしっかりしないと……あれ、ちゃんとしなきゃって思うとワクワクより緊張の方が強くなってきた。
どうしよう、急に不安になってきた。と言っても出来ることなんて明日への心構えぐらいしかないものね。
私はできる子。私はできる子。私はで……あ、眠くなって……ムニャムニャ……
「ああああああああーーっ!」
翌朝、私は思わぬ事態に、叫び声を上げてしまったのだった。
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