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【三章】技術大国プラセリア
4.危険走行はおやめください
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「オラオラ、行くぜぇぇぇっ!」
「うわぁぁぁっ! 速い、怖い!」
……俺は今安易な気持ちでこいつに乗ったことを絶賛後悔している最中だった。
カティアに『乗り換える』と言われ、馬車を降りた先にあったのは、俺の知っている『バイク』そのものだった。
と言ってもよく見ると排気管とかが付いてなかったし、ガワは同じでも実際は同じじゃないのだろう。
なるほどこれなら速いな、なんて楽観視していたのが運の尽き。
冷静に考えればこの世界にきちんと整備された車道があるわけもなく、今俺はこのバイクのようなもので森の中を爆走していた。
まあ実際運転してるのはカティアで、俺はタンデムシートがないのでカティアの真後ろに座り、腰に手を回して密着している状態だ。
「木が! いやぁぁぁ! 当たるぅぅぅっ!」
「るっせぇ! 変な声出さねぇで黙ってろ! あとどさくさに紛れて余計なとこ触るんじゃねぇぞ!」
いくつもの木の幹が猛スピードで視界の右へ左へと流れてゆく。
もちろん地面も平坦じゃないので、時折車体が浮いたりもする。俺の身を守るのは貸してもらったヘルメット一つだけだ。
遊園地のジェットコースターなんて目じゃないレベルのスリルを味わっていた。
「なんで森の中をぉぉぉ!?」
せめて街道とかを通ればこんな危険はないだろうに、なぜこんな獣道を行くのだろうか。
俺の素朴な疑問に対する返答は、至極単純なものだった。
「こっちのが近道なんだよ!」
……あ、そうですか。なら仕方がない――
「ってなるかぁーーいっ!」
「おい、黙ってろって言ったよなぁ……?」
俺を睨み付けるため後ろを向くカティア。
バイザーの奥からでもわかるほど真っ赤な瞳が、怒りを湛えて俺を見据えていた。
怖っ! そんなに怒らなくたってよくない!?
「わ、わかった! わかったから前向いてぇぇぇっ!」
◇
――そんなこんなでやってきました、プラセリアの首都メイクス。
え? あのあとどうなったかって?
そりゃもう一言も喋りませんでしたよ、ええ。一番怖いのが何かわかったからね。
「さ、こっからは歩きだ。降りな」
バイクから降り、改めて街並みを見渡す。
「おお……」
居住区というより工業地帯と言った方が適切に思える街並みだ。
何かのタンクのような数メートルの大きさの円筒がいくつも並んでいて、大きいものになると魔動人形を超えるものまである。
建物もそれに負けないぐらいの大きさで、遠目からも見えた煙突が建物一つに複数個付いている。
そこからはもくもくと黒煙が立っており、今この時もせわしく稼働しているのだなと感じた。
「これがプラセリアの首都かぁ、すごいな」
「……ま、ここまで極端なのはメイクスだけだ。他は畑を耕してるだけの田舎だよ」
そうなのか。技術大国ってぐらいだから全部こんな感じだと思っていたけど、実際は違うみたいだな。
「んじゃ、早速ウチのカンパニーへ行くとすっか」
「了解。――? どうしたんだ? 行かないのか?」
移動を促したのはカティアなのに、一向に動こうとせずジトッとした目で俺を見ていた。
いや、先導してくれなきゃ道わからないんですけど……。
「――ああいやすまねェ。今更だがアンタ怒ってないのか……? 無理矢理連れてこられたのに、やけに楽しそうだから気になっちまってな」
……ああ、そういうことね。
「まあ思うところはあるけど……一度プラセリアには来てみたかったんだ。実際力ずくにでもじゃなきゃここまで来るのは難しかったと思うし、カティアに対しては怒るっていうか……むしろ感謝してるよ」
「…………おかしな奴だな」
そう言いながらカティアは俺に背を向け、バイクを押しながら歩き始める。
振り向き様に一瞬見えた口元は、俺には笑っているように見えた。
「うわぁぁぁっ! 速い、怖い!」
……俺は今安易な気持ちでこいつに乗ったことを絶賛後悔している最中だった。
カティアに『乗り換える』と言われ、馬車を降りた先にあったのは、俺の知っている『バイク』そのものだった。
と言ってもよく見ると排気管とかが付いてなかったし、ガワは同じでも実際は同じじゃないのだろう。
なるほどこれなら速いな、なんて楽観視していたのが運の尽き。
冷静に考えればこの世界にきちんと整備された車道があるわけもなく、今俺はこのバイクのようなもので森の中を爆走していた。
まあ実際運転してるのはカティアで、俺はタンデムシートがないのでカティアの真後ろに座り、腰に手を回して密着している状態だ。
「木が! いやぁぁぁ! 当たるぅぅぅっ!」
「るっせぇ! 変な声出さねぇで黙ってろ! あとどさくさに紛れて余計なとこ触るんじゃねぇぞ!」
いくつもの木の幹が猛スピードで視界の右へ左へと流れてゆく。
もちろん地面も平坦じゃないので、時折車体が浮いたりもする。俺の身を守るのは貸してもらったヘルメット一つだけだ。
遊園地のジェットコースターなんて目じゃないレベルのスリルを味わっていた。
「なんで森の中をぉぉぉ!?」
せめて街道とかを通ればこんな危険はないだろうに、なぜこんな獣道を行くのだろうか。
俺の素朴な疑問に対する返答は、至極単純なものだった。
「こっちのが近道なんだよ!」
……あ、そうですか。なら仕方がない――
「ってなるかぁーーいっ!」
「おい、黙ってろって言ったよなぁ……?」
俺を睨み付けるため後ろを向くカティア。
バイザーの奥からでもわかるほど真っ赤な瞳が、怒りを湛えて俺を見据えていた。
怖っ! そんなに怒らなくたってよくない!?
「わ、わかった! わかったから前向いてぇぇぇっ!」
◇
――そんなこんなでやってきました、プラセリアの首都メイクス。
え? あのあとどうなったかって?
そりゃもう一言も喋りませんでしたよ、ええ。一番怖いのが何かわかったからね。
「さ、こっからは歩きだ。降りな」
バイクから降り、改めて街並みを見渡す。
「おお……」
居住区というより工業地帯と言った方が適切に思える街並みだ。
何かのタンクのような数メートルの大きさの円筒がいくつも並んでいて、大きいものになると魔動人形を超えるものまである。
建物もそれに負けないぐらいの大きさで、遠目からも見えた煙突が建物一つに複数個付いている。
そこからはもくもくと黒煙が立っており、今この時もせわしく稼働しているのだなと感じた。
「これがプラセリアの首都かぁ、すごいな」
「……ま、ここまで極端なのはメイクスだけだ。他は畑を耕してるだけの田舎だよ」
そうなのか。技術大国ってぐらいだから全部こんな感じだと思っていたけど、実際は違うみたいだな。
「んじゃ、早速ウチのカンパニーへ行くとすっか」
「了解。――? どうしたんだ? 行かないのか?」
移動を促したのはカティアなのに、一向に動こうとせずジトッとした目で俺を見ていた。
いや、先導してくれなきゃ道わからないんですけど……。
「――ああいやすまねェ。今更だがアンタ怒ってないのか……? 無理矢理連れてこられたのに、やけに楽しそうだから気になっちまってな」
……ああ、そういうことね。
「まあ思うところはあるけど……一度プラセリアには来てみたかったんだ。実際力ずくにでもじゃなきゃここまで来るのは難しかったと思うし、カティアに対しては怒るっていうか……むしろ感謝してるよ」
「…………おかしな奴だな」
そう言いながらカティアは俺に背を向け、バイクを押しながら歩き始める。
振り向き様に一瞬見えた口元は、俺には笑っているように見えた。
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