転生竜騎士は初恋を捧ぐ

仁茂田もに

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第三十一話 戦闘、再び -2

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「状況は?」
「よく分からん。ただ竜じゃない何かが空を飛んでるらしい」
「竜じゃない何か?」

 思わず訊ねれば、グスタフはまたよく分からないのだ、と答えた。聞けば、グスタフの言う「竜ではない空飛ぶ何か」のせいで、司令部のある城塞も混乱を極めているという。

「城塞の方に逃げるぞ。ルイン、荷物はまとめたか」
「竜舎を無人にするわけには」
「戦闘が落ち着くまでだ、ここは危ない」

 リアムに薬品を詰めたかばんを渡して、ルイン自身も手術道具を持った。
 グスタフは残った二頭の竜の手綱を握っている。空はまだ飛べない二頭だが、走る分には問題はない。ともに城塞内に避難させるつもりなのだ。

 その様子を見て、竜舎の周辺は本当に危険なのだと理解する。

 早く、と急かされながらルインたちは竜舎から駆け出た。何があっても絶対に足を止めるな、と言われ振り向くことなく木々の間を駆けていく。

 竜舎から出た森の様子は、朝ルインが出勤の際に見た森とはすっかり変わっていた。

 至る所に爆発が起きたような跡があり、辺りに火薬の爆ぜた匂いがたちこめている。
 倒れた木や焦げた地面。それらを横目で見ながら、ルインは足を止めることはなかった。空では竜騎士たちが懸命に戦っているのだ。彼らの邪魔にだけはなってはいけない。

 それでも、空を飛ぶ大きな影に一瞬目を奪われたのは仕方のないことだった。
 見慣れた能力の躯体が空を舞うのと一緒に、初めて見る「何か」がそこにはいた。

 滑空するその「何か」を追って、一頭のフリューゲル種が急降下してくる。しかし、一向に追いつくことが出来ず、他の竜が援護に入る。二頭の竜と互角以上に戦っているそれは一見して大きな白い鳥のように見えた。

 真っ直ぐに広げた大きな羽に、見たこともないほど短い首。硬質な体表は明らかに生き物のそれではない。硬い翼で風を切り、悠々と竜に襲い掛かるその様子はまるで悪い夢でも見ているかのようだった。

「……鳥?」
「ルイン! ぼさっとするな!」

 怒鳴るように言われて、ルインは我に返る。空を飛ぶそれを見つめるあまり、思わず足を止めていたらしい。グスタフに手綱を引かれた一頭の竜が、少し怒ったようにルインの背中をその鼻先で押した。

 この竜はヴィンターベルクの竜の中でも一等穏やかな性格で、ルインにもよく懐いていた。
 慌てて足を踏み出せば、そばで爆発が起こる。そのとき、空の飛影にさらに大きな影が覆いかぶさった。

「ようやっと戻って来たか」

 安堵するような声とともに辺りに響いたのは、竜の雄叫びだった。
 空の王者が自分の縄張りを荒らされてひどく怒っている。――もしくは、不在であった王の帰還を告げる声だろうか。

「アーベント……」

 ルインが再び空を見上げたとき、丁度アーベントがその白い鳥に襲い掛かる瞬間だった。
 黒い王が白い侵略者を喰らおうとその翼を大きく広げる。けれど、侵略者の方も素早く飛び回り王者からの追撃を逃れているようだ。

 周りを飛ぶフリューゲル種が一頭、アーベントの援護に入った。回り込むように前方から頭上に飛び、背後から追うアーベントの邪魔にならない位置で小銃を撃ち込んでいく。
 その流れるような見事な連携に、ルインは思わず息を飲んだ。

「あの白いのは何でしょうか?」
「分からん。竜じゃないのだけは確かだが、いやに速いな」

 リアムの呟きにグスタフが短く答えた。その「速い」という単語にルインは思わず眉を寄せる。
 グスタフの言う通り、あの鳥は確かに速かった。下から見ているだけでも鳥がフリューゲル種よりも圧倒的に速い速度で飛んでいることが分かる。

 竜の速さは、すなわち強さと同義だ。
 ヴィンターベルクの竜騎士たちが未知の鳥相手に善戦しているのは、自らよりも速い竜――カタストローフェ種であるアーベントを相手に訓練を繰り返し、戦闘経験を積んでいたからに他ならない。

 それがなければ、フリューゲル種よりも数段速い速度で飛び回る謎の鳥に、あっという間に陣形を崩されていただろう。

 見る限り、戦況はいいとは言えないようだった。錬度で勝るヴィンターベルク側が、性能で勝る連邦を何とかいなしているにすぎない。

 竜たちが至る所で怒りの咆哮を上げる。対して、連邦は黒煙を上げる白い鳥を操り、竜相手に一歩も引くことなく戦い続けていた。


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