事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第7章:地獄のテスト期間、恋も勉強も赤点確定!?

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 勉強どころじゃなくなっちまったお泊り会。
 テスト前の大事な二日間を無駄にしたのは、俺も吉沢も同じだ。
 けど、問題は俺の点数じゃない。入学以来ずっと学年一位の“王子”の足を、俺が全力で引っ張ったことだ。
 思い出すたび、胃がキリキリと痛む。
 家を出て行く時の吉沢の「またな」の諦めたような声が耳の奥でこだまする。
 これっきりだなんて、絶対に嫌だ。
 吉沢が榛名と同じだなんて、思ってない。
 お前がしてくれたみたいに、俺もお前とちゃんと向き合いたい。 
 せめてそれだけは伝えておきたくて、月曜は気合いを入れて登校した。

 だが、校門をくぐった時点で思い出した。
 俺の先を行く集団の中、背筋をピンと伸ばして、周囲に群がるファンたちに応じている吉沢。
 当然ながら、その人混みを掻き分けて吉沢に声をかけるなんて、俺には出来ない。
 今さら俺が割り込めば、要らない注目を呼ぶだけだ。
 幸い俺たちの事故チュー騒ぎは、テスト前の雑音に紛れた。そんなもん掘り起こすのは、よっぽどの物好きくらいだろ。

(落ち着け。まだ朝だしな)

 言い訳をしながら、吉沢たちの後ろをコソコソとついて行って教室に入る。
 と、待ち構えていたみたいに吉沢が「おはよう」とだけ言って、くるりと踵を返す。
「え、あ……おはよう」
 一瞬皆の視線が俺に集まったが、それはすぐに何事も無かったかのように席に着いた吉沢の方へと向けられた。

(クソ……また吉沢に先越された)

 自分から動くって決めて来たのに、早速出鼻をくじかれている。

(このままじゃダメだ!)

 一念発起した俺は、休み時間ごとに廊下に出て、吉沢に近づくチャンスをうかがった。人波が切れる角、階段の踊り場、先生や先輩たちからの呼び出しの合間。一瞬吉沢と目があって、「イケる」っと思ったところで足を踏み出すが、そのどれもが不発に終わった。
 何も考えずに飛び出せばいいのに、竦む足を奮い立たせようと何度か深呼吸してる間にタイミングを逃しちまう。
 ちょっとでも出遅れたら、その瞬間に吉沢の周りには人だかりが出来ている。正直無理ゲーすぎる。

「――なんでだよ!」

 気付けば4時限目の終わり。次は昼休みという最大のチャンスが訪れる。
 学食に誘って……ってのは、吉沢は弁当だからダメだ。
 購買でパンを買って一緒にとも思ったが、購買に行ってる間に間違いなく吉沢の周りは埋まっちまう。

(……どうしたらいいんだ)

 ダッシュでパンを買いに行って俺が席に戻ると案の定、吉沢は机をくっつけて弁当を広げる女子たちの中で、一人黙々と弁当を食っている。
 アイツの神経、やっぱ普通とは違ぇ。女子にガン見されながら弁当食うなんて、俺だったら緊張して食いモンが喉を通らなくなりそうだ。
 吉沢は一定のリズムで箸で綺麗に口元に料理を運び、丁寧に咀嚼する。大口なんてあけないし、元々のちっせぇ口がいっぱいにならないように、ちょっとずつ食べる。
 母さんの唐揚げを嬉しそうに食べてた吉沢の顔が、頭の中で勝手に再生される。あの時は俺が押し倒しちまった直後で気まずいのはあったけど、今の数百倍吉沢との距離は近かった。

(なんでこうなっちまったかな)

 なんでも何も、俺と吉沢の距離は元々これが正しい。
 学園の王子様と、クラスの陰キャモブ。
 それでも、ここで諦めたら試合終了だ。

「……放課後こそ、絶対話す」

 パン袋を握りしめて、決意する。
 一気に放り込んだメロンパンが、うっかり喉に詰まって苦しい。

「うぐっ……ん……お茶」

 慌ててペットボトルの紅茶を流し込んで、涙目で咳き込む俺。
 視線は寄こさないまま、昼下がりのざわめきの中、吉沢の微かな笑い声が聞こえた気がした。
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