婚約者を幼馴染にとられた公爵令嬢は、国王陛下に溺愛されました

佐倉ミズキ

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9.未来に向けて

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王妃になったセシリアは、王宮で勉強を続けた。

(やはりこのままでは良くないわ……)

セシリアはアレンの執務室を訪問した。

「アレン様、少しよろしいですか?」
「どうしたんだ、セシリア」

机から顔を上げて微笑むアレンの前に立つ。

「アレン様、私、勉強をしていて思ったことがありました。この国の医療と福祉について考えをまとめましたの。見てくださいます?」
「医療と福祉?」

セシリアは自分が考えるこの国の医療と福祉についてまとめた紙をアレンに手渡した。
アレンは一枚一枚真剣に目を通してくれる。

「なるほど。確かにセシリアの言うように、この国は医療と福祉の面でひっ迫しているところはある。病院の数も施設の数も十分とは言えないね。それは俺もこの前入院して思っていた」
「アレン様は王宮病院に入院されたのは視察もかねてですよね?」
「本当は地方の病院が良かったんだけど、それは反対されたからな」
「アレン様、医療と福祉面に力を入れられないでしょうか? もちろん、そこに力を入れてもなり手がおりません。なので教育面にも力を入れていきたいのです」

セシリアの言葉にアレンはうんうんと頷く。

「そこは俺も少し考えていたんだ。今度大臣たちにも話をしてみよう。予算をかけられるか話し合ってみるよ」
「ありがとうございます」

セシリアはホッとした。
地方と都市では医療の格差が大きい。だれでも適切な医療を受けさせたかったのだ。
アレンも以前から同じようなことを問題視していたようで、次の閣僚会議で提案をしてくれた。
前回よりも予算を医療、福祉、教育に割けることができたという。

「アレン様、ありがとうございます」
「いいや。何より、セシリアが同じ点を問題視してくれたことが嬉しかった。セシリアが良ければ、もっと意見をくれないか?」
「良いのですか?」

セシリアの表情が明るくなる。

「君はお飾りの王妃にはなりたくないとオリアに話していたそうだね」
「えぇ」

以前、オリアに他国では何もしない王妃はいるといわれ、お飾りの王妃などいらないと話したことがあった。
アレンは大きく頷く。

「国王も王妃も、国の象徴であり長であるが国民のため国のために存在する。国民のために尽くすのは当然だ。君は国民のために動こうとしている。とても頼もしいよ」
「アレン様……」

アレンがセシリアを認めてくれたことが何よりも一番嬉しかった。
こうしてセシリアは王宮、国の中でも少しずつ認められた存在となっていった。

そんなある日。
アレンにたっぷりと愛された後、ベッドの中でアレンが思い出したかのように呟いた。

「そうだ、君の元婚約者のガルというものだけど」
「え?」

最近ではすっかりと忘れていた名前が出てセシリアは驚く。

「妻のソフィアナの浪費が激しくて、領地の納税金を値上げしたそうだ」

ガルの家はセシリアの実家と同じく公爵家。王都から少し離れたところの領地を任されている。
領地の納税金はそれぞれ治めている公爵家が決めて徴収し、その何パーセントかを国に治めていた。
ソフィアナは子供を産んでからも子供、自分にお金をかけまくっているようだった。

「このままでは領地民から暴動が起こりかねない。以前、国からも警告をしたんだが……。聞く耳持たなくてな。称号をはく奪し、その領土は他の人に任せようと思う」

アレンのきっぱりした言葉に、セシリアは「そうですか」と返した。
これは決定事項なのだろう。
ガルとソフィアナを思い出す。

(領土の民が気の毒で可哀そう)

「助けたいとか思うか?」
「いいえ。領土の民を思えば、当然のことです」

アレンはセシリアの気持ちを理解していた。
セシリアがガルとソフィアナに対して全く同情していないことを。
むしろ、王宮で顔を合わせることもなくなるのでせいせいしているだろうことも。
そうしたセシリアのさっぱりとした内面もアレンは気に入っていた。

「君は本当に王妃に向いている」
「アレン様、あっ……」

アレンは微笑みながらセシリアの胸に触れた。
治まった熱が再び火をつける。
何度触れ合っても足りないくらい。
お互い、溶け合ってしまいたいほどに求め合っていた。
ガルには抱かなかったこの感情。セシリアは何度もアレンの名前を呼んだ。
愛おしい人。
セシリアは翌月、子供を身ごもった。
その一年後、王子が誕生。
その二年後には王女が誕生した。
そして、アレンとセシリアは稀代の国王王妃として国民の絶大な支持を受けて、歴史に名を刻んでいった。



END
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