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GAME2
同一人物…?~2~
しおりを挟む「ちょっといいかな」
「あ……、うん……」
「貴島。ちょっと楓ちゃんと話したいんだ」
龍輝君は優しく微笑んだまま貴島君を振り返る。
貴島君は驚いたような顔をしていたが、私達を見比べた後、小さく「わかった」と頷いた。
「俺、先に教室に戻っているね」
「うん」
貴島君はチラリと龍輝君を見てから会議室を出て行った。
「ねぇ、今、春岡君って松永さんに話かけてたよね?」
「うん。じゃぁ、やっぱりあの噂って本当だったんだ!?」
「アレでしょう~? 昼休みに訪ねてきた松永さんを春岡君が連れ出して、何処かにいっちゃったってやつ」
「そう! 付き合ってるのかなぁ~。あ~、ショック~」
そう噂をしながら教室に戻る女子たちを貴島は見つめ、私を振り返るとニコッと微笑んで会議室を出ていった。
あぁ、貴島君が行ってしまった……。
そして、誰もいなくなってしまった……。
龍輝君と二人で残された、集会室で私の目線は虚しく空をさ迷う。
どうしよう……。
ゆっくりと龍輝君を見上げる。
「……」
「……」
別に優しい笑顔を期待していたわけではないけど……。
そんなに急に無表情にならなくても良くない?
さっきまでの愛想良い笑顔はすでになかった。
こっちが素なのかもしれないけど、その変貌ぶりにまだ慣れてない。
龍輝君はポケットに手を入れたまま、私を見つめて首を傾げる。
どこかのモデルのようなその姿に、不覚にもドキッとしてしまった。
赤い顔がばれないように顔を背ける。
「な、何? 話って!?」
「……とりあえず、あっちに行かねぇ?」
龍輝君が顎でクイッと指した所は昨日の資料室。
スタスタと行ってしまう彼を慌てて追いかけた。
資料室は日差しが差し込み明るかった。
良く見ると、段ボールが整理されており、日差しがよく入るようになっていた。
5、6畳くらいの広さになって、広々としてスッキリしていた。
「あ、鍵。閉めて」
「え?……えぇっ!?」
う、内側からしか掛けられない不思議な鍵を掛けろと!?
そんなことしたら、完全に二人きりだよ!
「誰か来たらどうすんだよ、面倒だろ。掛けろ」
「はい……」
面倒臭さそうに私を見る龍輝君。
そんな顔しなくても……。
私は素直に鍵を掛けた。
振り返ると目の前の影が大きくゆれた。
「えっ……えぇっ!? ちょっと……!?」
「眠い……」
そういって龍輝君は私にもたれかかるように抱き着いた。
背の高い龍輝君がくっつくと、まるで抱き締められているかのような感覚になる。
「ちょっと! た、龍輝君!」
「うるせぇ。いいから、寝かして」
慌てる私にお構い無しだ。
龍輝君の低い声が耳元でして、一瞬ゾクリとしてしまった。
体が熱くなるのを感じる。
「重いし、無理だよっ」
私は無理矢理、龍輝君の肩を押して身体を離した。
龍輝君は機嫌悪そうに私を見下ろす。
な、何なの!?
話があるんじゃなかったの!?
ふぁ~と大きく欠伸をすると、龍輝君は床を指差した。
「座って」
「え……?」
「座れって」
“いいから早く”といった感じで言うもんだから私は渋々と床にペタンと座る。
座れって……、なんなんだ?
チラリと龍輝君を見上げる。
満足そうに頷いて……。
「な、何して……」
その光景に私は驚き、身動きが出来なかった。
だって……。
だってね?
「……っ……ちょっと龍輝君!」
「うるさい。寝れないだろ」
「だっ、だからって! なんで膝枕!?」
龍輝君は床に座った私の膝にゴロンと頭を乗せていたのだ。
動けないし、近い!
っというか、かなり恥ずかしい!
自分でも顔が真っ赤になるのがわかる。
心臓がありえないくらいにドキドキ鳴ってうるさい。
「ふふ、顔真っ赤」
「っ!」
膝の上からこちらを見上げ、ニヤニヤしながら龍輝君はそう言った。
誰のせいだと……!
しかも、下から顔を見上げないで!
「降りてよっ!」
「あぁ?」
“何言ってんだ?”って顔しているけど!
正当な訴えでしょう!?
「降りて!」
「ふぅん……。誰に言ってんの?」
目をスッと細め、意地悪くニヤッと笑う。
その妖しい笑い方に、また私の胸はドキッとする。
何なの、もういちいち!
この心臓、おかしいよ!
ドキドキし過ぎて、泣きたくなってきた。
膝の上に頭を乗せたまま龍輝君がジッと見つめてくる。
そして、手を伸ばして私の頬に振れた。
「俺に、そういうこと言うわけ?」
「っ、だって!」
「だって? 何?」
…っ。
“俺の言うこと聞けよ”
そうだけど……でも……。
凄く恥ずかしいんだもん……。
「……少しだけだからねっ!」
口を尖らせて言う私に、龍輝君はフッと笑う。
「じゃぁ、次の時間はサボりっつーことで」
「へ?…ああぁっー! もう授業始まってるじゃん!」
腕時計は授業開始からすでに10分以上たっていた。
そんな!
ガックリとうなだれる。
お母さん、ごめんなさい。
楓は初めて授業をサボります。
自然とため息が出た。
見ると、いつの間にか龍輝君は私の膝の上で気持ち良さそうに眠っていた。
スカートの上から感じる彼の体温と重み。
膝にかかるサラサラな髪が少しくすぐったい。
まつ毛長いなぁ……、羨ましい。
鼻筋もスッと通っている。
目を閉じていても綺麗な顔をしているなとつくずく感じた。
この人があのたっくんだなんて……。
記憶の中の龍輝君は優しい無邪気な笑顔だった。
口調だって穏やかで、こんな俺様みたいな言い方はしない。
顔は……はっきり覚えてないけどさ。
あの子と同一人物なんだよなぁ……。
あの事故はショックだったけど、でも“たっくん”は生きていた。
良かった。
本当に良かったと思う。
「生きてて……良かった」
私は小さく呟いた。
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