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第一章 復讐の焔は村を包み込む
7、過去との折り合い
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「できたわよ」
ソータは目の前に置かれた料理を見る。
それは野菜スープだった。
いろいろな野菜が入れられ丁寧に煮込まれた、その料理からは、食欲をそそる良い匂いがしている。
地球で見てきた多種多様な料理を含めて、一度も見たことがないような料理だ。恐らく、この世界にしかない食材を使っているのだろう。
「この村でとれるいろいろな野菜を入れて煮たものよ。味付けも全てこの村の野菜でしているわ」
掬う。
その感触は、ソータの予想とは違ったものだった。
スープがトロトロしていたのだ。
恐らく、ソータが予想していた以上の野菜が入れられ、ソータが予想していた以上に煮込まれていたのだろう。
「どれだけ煮込んだんだ……?」
そんな疑問を呟きながら、ソータは掬ったものを口にした。
瞬間、ソータの顔色が変わる。
「なんだこれ、美味い……」
意識せずにその言葉が零れた。
それほどまでに、美味しい料理だった。
口を動かすごとに野菜が溶け、そのたびに野菜の旨味が口の中に広がる。
山の自然の中で育った野菜のみでつくられたその料理は、育ってきた山の味が染み出しているかのような、深く優しく豊かな味わいだった。
「美味しいでしょ?」
自慢げに、しかしどこか寂しさを滲ませて、ルーシャがそう言う。ソータはそれに首の動きだけで返す。
ソータは夢中になってスープを食べる。
質素ながらも丁寧につくられたその料理は、地球での食事である程度舌の肥えてるソータをそうさせるに足りるものだった。
▼
ソータのスプーンが空を切った。
なくなったことに気付けないほど、夢中になって食べていたのだろう。
「御馳走様。……それで、どうして俺にこれを食べさせてくれたんだ?」
ソータの問いには答えず、ルーシャは言う。
「美味しかったでしょ?」
「ああ、勿論だ。こんな美味いものは初めて食べたかもしれない」
ルーシャが無言で口元を綻ばせる。
「あたしは復讐をしたい」
唐突の言葉だった。
「そう思っていたけど、村を燃やすって言われて、少し躊躇した」
この村は、ソータにとっては何の価値もない場所なのだろう。ルーシャは今までのソータの言動からそう考える。
しかし、ルーシャにとっては、嫌な思い出と共に良い思い出も育んできた、価値のある場所なのだ。
ソータが全員にいじめられてきたのに対し、ルーシャには両親だけでも、本気で愛してくれている人がいた。
「でも、やっぱり復讐をしたい!」
ルーシャにとって村は思い出を育んできた大切な場所だ。
しかし、両親がいない今、ルーシャは選択を迫られた。
誰もいないこの村で、亡き両親の影だけを追って生きるか、過去と決別し、復讐を目標にして新たな人生を歩み始めるか。
「だからあたしは選んだ! あたしは復讐を遂げる!」
ルーシャは決意を叫んだ。
その瞬間、ぼんやりとしていた内心の決意が、より固いものになった気がした。
両親との数ある思い出の中でも、最も楽しかったこと。
それは、家に伝わるこの料理を教えてもらい、一緒につくったことだ。
だからルーシャは、今日これをつくり、それを最後に両親との思い出と決別することにした。
一人では不安だったから、ソータを呼んで。
「……ついてきて」
ルーシャは台所であるものを取ると、玄関に向けて歩き出す。
この決意だけではまだ足りない。
思い出が頭の中を満たしている。
ルーシャは、新たな人生を始めなければならない。
その為に、この思い出は邪魔だ。
ルーシャは、確かに感じた復讐心を殺したくない。
その為に、この思い出は邪魔だ。
――ルーシャは思い出と決別しなければならない。
玄関のドアを開けると、暖かい日光がルーシャを包んだ。しかしそれをルーシャが暖かいと感じることはない。
ルーシャはソータがついてきたことを確認すると、台所で取ってきたものを家に向かって放り投げる。
「おい! そんなことしていいのか!?」
ルーシャはそんなソータの声を聞き流して、家をぼんやりと見る。
次の瞬間、家が炎に包まれた。
太陽よりも明るく辺りを照らす。
ルーシャは、この炎に、ようやく暖かさを感じる。
炎の中に、ルーシャは両親との思い出を見た。
小さいときのものから、引きこもる直前のものまで。
そこに映る両親はどこまでも優しくて。
ルーシャの頬を一筋の涙が伝った。
「お父さん……。お母さん……」
一筋だけだった涙は、気付くと滝のようになっていた。
「お父さんっ! お母さんっ! うあぁぁぁあああああああああああああああああああ!」
泣く。泣く。泣く。泣く。泣く。
涙が溢れる。溢れる。溢れる。溢れる。溢れる。
「ううっ、うううっ……」
跪いて、突っ伏して、泣く。
嗚咽が村中に響き渡る。
涙が顔中を、手を、地面を濡らしていく――
涙が収まったのは、炎が家――思い出を焼き尽くしたのと同時だった。
「今までありがとう、お父さん、お母さん……」
そう言って微笑む。
そしてルーシャは新たな道を歩み始めた。
ソータは目の前に置かれた料理を見る。
それは野菜スープだった。
いろいろな野菜が入れられ丁寧に煮込まれた、その料理からは、食欲をそそる良い匂いがしている。
地球で見てきた多種多様な料理を含めて、一度も見たことがないような料理だ。恐らく、この世界にしかない食材を使っているのだろう。
「この村でとれるいろいろな野菜を入れて煮たものよ。味付けも全てこの村の野菜でしているわ」
掬う。
その感触は、ソータの予想とは違ったものだった。
スープがトロトロしていたのだ。
恐らく、ソータが予想していた以上の野菜が入れられ、ソータが予想していた以上に煮込まれていたのだろう。
「どれだけ煮込んだんだ……?」
そんな疑問を呟きながら、ソータは掬ったものを口にした。
瞬間、ソータの顔色が変わる。
「なんだこれ、美味い……」
意識せずにその言葉が零れた。
それほどまでに、美味しい料理だった。
口を動かすごとに野菜が溶け、そのたびに野菜の旨味が口の中に広がる。
山の自然の中で育った野菜のみでつくられたその料理は、育ってきた山の味が染み出しているかのような、深く優しく豊かな味わいだった。
「美味しいでしょ?」
自慢げに、しかしどこか寂しさを滲ませて、ルーシャがそう言う。ソータはそれに首の動きだけで返す。
ソータは夢中になってスープを食べる。
質素ながらも丁寧につくられたその料理は、地球での食事である程度舌の肥えてるソータをそうさせるに足りるものだった。
▼
ソータのスプーンが空を切った。
なくなったことに気付けないほど、夢中になって食べていたのだろう。
「御馳走様。……それで、どうして俺にこれを食べさせてくれたんだ?」
ソータの問いには答えず、ルーシャは言う。
「美味しかったでしょ?」
「ああ、勿論だ。こんな美味いものは初めて食べたかもしれない」
ルーシャが無言で口元を綻ばせる。
「あたしは復讐をしたい」
唐突の言葉だった。
「そう思っていたけど、村を燃やすって言われて、少し躊躇した」
この村は、ソータにとっては何の価値もない場所なのだろう。ルーシャは今までのソータの言動からそう考える。
しかし、ルーシャにとっては、嫌な思い出と共に良い思い出も育んできた、価値のある場所なのだ。
ソータが全員にいじめられてきたのに対し、ルーシャには両親だけでも、本気で愛してくれている人がいた。
「でも、やっぱり復讐をしたい!」
ルーシャにとって村は思い出を育んできた大切な場所だ。
しかし、両親がいない今、ルーシャは選択を迫られた。
誰もいないこの村で、亡き両親の影だけを追って生きるか、過去と決別し、復讐を目標にして新たな人生を歩み始めるか。
「だからあたしは選んだ! あたしは復讐を遂げる!」
ルーシャは決意を叫んだ。
その瞬間、ぼんやりとしていた内心の決意が、より固いものになった気がした。
両親との数ある思い出の中でも、最も楽しかったこと。
それは、家に伝わるこの料理を教えてもらい、一緒につくったことだ。
だからルーシャは、今日これをつくり、それを最後に両親との思い出と決別することにした。
一人では不安だったから、ソータを呼んで。
「……ついてきて」
ルーシャは台所であるものを取ると、玄関に向けて歩き出す。
この決意だけではまだ足りない。
思い出が頭の中を満たしている。
ルーシャは、新たな人生を始めなければならない。
その為に、この思い出は邪魔だ。
ルーシャは、確かに感じた復讐心を殺したくない。
その為に、この思い出は邪魔だ。
――ルーシャは思い出と決別しなければならない。
玄関のドアを開けると、暖かい日光がルーシャを包んだ。しかしそれをルーシャが暖かいと感じることはない。
ルーシャはソータがついてきたことを確認すると、台所で取ってきたものを家に向かって放り投げる。
「おい! そんなことしていいのか!?」
ルーシャはそんなソータの声を聞き流して、家をぼんやりと見る。
次の瞬間、家が炎に包まれた。
太陽よりも明るく辺りを照らす。
ルーシャは、この炎に、ようやく暖かさを感じる。
炎の中に、ルーシャは両親との思い出を見た。
小さいときのものから、引きこもる直前のものまで。
そこに映る両親はどこまでも優しくて。
ルーシャの頬を一筋の涙が伝った。
「お父さん……。お母さん……」
一筋だけだった涙は、気付くと滝のようになっていた。
「お父さんっ! お母さんっ! うあぁぁぁあああああああああああああああああああ!」
泣く。泣く。泣く。泣く。泣く。
涙が溢れる。溢れる。溢れる。溢れる。溢れる。
「ううっ、うううっ……」
跪いて、突っ伏して、泣く。
嗚咽が村中に響き渡る。
涙が顔中を、手を、地面を濡らしていく――
涙が収まったのは、炎が家――思い出を焼き尽くしたのと同時だった。
「今までありがとう、お父さん、お母さん……」
そう言って微笑む。
そしてルーシャは新たな道を歩み始めた。
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