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閑話
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妹は妹でクリスの甘い顔に惑わされている。その顔で何人の令嬢が堕ちたことだろう。
それにしても、クリスもクリスで妹に甘いな。自身の妹を苦手だと感じているようで、アンのような素直な奴がいいと見受けられる。
クリスが愛称を許す令嬢は知る限り妹しかない。久しぶりに会うなり愛称で呼ばれなかったことがショックで仕方がないようだ。だが、そこが面白い。
「あの、お兄様といるときだけでしたら、クリス様とお呼びしてもいいでしょうか?」
淑女らしく振舞おうとしているがわかる。恥ずかしそうにはにかむ姿は可愛い。これは兄の贔屓目を除いても可愛いと思う。
クリスを見ると笑顔が張り付いている。「お兄様と」、という部分が気に入らないのだろう。
ユーゴの婚約者というだけでも嫉妬される立場にある妹が、これ以上嫉妬される立場を選ばなかったことにホッとする。
「妥協点だな、アンジュは心優しいからよかったな」
隣にいたら頭を思いっきり撫でていたが、わざわざ乗り越えてまで撫でるつもりはない。
声では穏やかそうに対応している王子の悔しそうな表情を想像すると面白いが、本題はそれではない。そのことを聞こうとすれば既にクリスが聞いてくれたようで、妹はどう答えようか迷っている。少ししてから決意したのだろう、「ユーゴが女性と密会していると聞いたからです」と言い放つ。語尾が弱弱しいのは自身の婚約者がそんなことするはずがないと信じたい気持ちが強いからだろう。
妹は不安だったのだろう。いくら否定しようとも、友人たちからそのような内容を聞いたのだから、他の者たちから言われるよりは信じられる情報に動揺しただろうに。それなのに、ここまで耐えていたとは。
その事実に気付くことの出来なかった自身が恥ずかしい。というよりも、妹を泣かせるようなことするユーゴが悪い。
言い切ったことで、我慢していた何かが崩れたのか瞳に涙をためはじめている。
隣のクリスは突然のことで普段から女性慣れしていないためか、どうすればいいのからずに固まっている。
立ち上がり妹そばに行き膝をつく。ハンカチなど生憎持ち合わせていないので、乱暴になってしまうが、指で目元を拭ってやる。自身で何度も擦り真っ赤に腫らすよりはいいだろう。
「ユーゴがそんなことをしたのか。たっぷりと礼をしてやらないとだな」
にやりと笑う俺に対してどう思ったのかは知れないが、零れ落ちそうだったものを引っ込めるかのように瞳を大きくする。
「……あの、お兄様?ユーゴに無体なことはしないでください」
拭ってやったつもりが、力加減が出来なかったため少しだけ赤くなってしまったようだ。女性に対する力加減は難しいと思う。可愛い妹が目を腫らしながら頼んでくるのだから兄なら返事をするしかない。
その様子が面白かったというよりも「ケイが照れているのは珍しいな」と、先程のお返しのように肩を震わせて笑っているからか、射貫くように睨んでやる。
だが、彼奴には通じないようだ。妹のことに必死になる兄がいて悪いか。
ただ、妹が悲しく耐える顔よりも少しだけだが笑った顔をしてくれたことがよかったが、すぐにその表情から硬く強張ったものに変わってしまった。
先程まで俺が座っていたため見えていなかったのだろう。
ユーゴの同席相手が社交界の紅一点と言われ、先日王家から送られてきた釣書の中にいたひとり―――ジェーン・トロント伯爵令嬢だということに。
あの女みたことで妹は劣等感や嫉妬心という、いろいろな感情に支配されたのだろう。
そんな妹の表情を見たクリスまで表情が硬く険しいものへと変わっていくのだから、王族としてもっと鍛えて欲しい。腹芸が出来るようになれと散々グレンに言われたのに。
それにしても、クリスもクリスで妹に甘いな。自身の妹を苦手だと感じているようで、アンのような素直な奴がいいと見受けられる。
クリスが愛称を許す令嬢は知る限り妹しかない。久しぶりに会うなり愛称で呼ばれなかったことがショックで仕方がないようだ。だが、そこが面白い。
「あの、お兄様といるときだけでしたら、クリス様とお呼びしてもいいでしょうか?」
淑女らしく振舞おうとしているがわかる。恥ずかしそうにはにかむ姿は可愛い。これは兄の贔屓目を除いても可愛いと思う。
クリスを見ると笑顔が張り付いている。「お兄様と」、という部分が気に入らないのだろう。
ユーゴの婚約者というだけでも嫉妬される立場にある妹が、これ以上嫉妬される立場を選ばなかったことにホッとする。
「妥協点だな、アンジュは心優しいからよかったな」
隣にいたら頭を思いっきり撫でていたが、わざわざ乗り越えてまで撫でるつもりはない。
声では穏やかそうに対応している王子の悔しそうな表情を想像すると面白いが、本題はそれではない。そのことを聞こうとすれば既にクリスが聞いてくれたようで、妹はどう答えようか迷っている。少ししてから決意したのだろう、「ユーゴが女性と密会していると聞いたからです」と言い放つ。語尾が弱弱しいのは自身の婚約者がそんなことするはずがないと信じたい気持ちが強いからだろう。
妹は不安だったのだろう。いくら否定しようとも、友人たちからそのような内容を聞いたのだから、他の者たちから言われるよりは信じられる情報に動揺しただろうに。それなのに、ここまで耐えていたとは。
その事実に気付くことの出来なかった自身が恥ずかしい。というよりも、妹を泣かせるようなことするユーゴが悪い。
言い切ったことで、我慢していた何かが崩れたのか瞳に涙をためはじめている。
隣のクリスは突然のことで普段から女性慣れしていないためか、どうすればいいのからずに固まっている。
立ち上がり妹そばに行き膝をつく。ハンカチなど生憎持ち合わせていないので、乱暴になってしまうが、指で目元を拭ってやる。自身で何度も擦り真っ赤に腫らすよりはいいだろう。
「ユーゴがそんなことをしたのか。たっぷりと礼をしてやらないとだな」
にやりと笑う俺に対してどう思ったのかは知れないが、零れ落ちそうだったものを引っ込めるかのように瞳を大きくする。
「……あの、お兄様?ユーゴに無体なことはしないでください」
拭ってやったつもりが、力加減が出来なかったため少しだけ赤くなってしまったようだ。女性に対する力加減は難しいと思う。可愛い妹が目を腫らしながら頼んでくるのだから兄なら返事をするしかない。
その様子が面白かったというよりも「ケイが照れているのは珍しいな」と、先程のお返しのように肩を震わせて笑っているからか、射貫くように睨んでやる。
だが、彼奴には通じないようだ。妹のことに必死になる兄がいて悪いか。
ただ、妹が悲しく耐える顔よりも少しだけだが笑った顔をしてくれたことがよかったが、すぐにその表情から硬く強張ったものに変わってしまった。
先程まで俺が座っていたため見えていなかったのだろう。
ユーゴの同席相手が社交界の紅一点と言われ、先日王家から送られてきた釣書の中にいたひとり―――ジェーン・トロント伯爵令嬢だということに。
あの女みたことで妹は劣等感や嫉妬心という、いろいろな感情に支配されたのだろう。
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