伯爵令嬢のアルバイト事情ー婚約者様が疑わしいですー

柚木

文字の大きさ
21 / 77
閑話

4

しおりを挟む
 連れか…。その連れとやらを見れば目が合う。直ぐに視線外されたが、俺が誰かはわかたっていたようだ。ユーゴと話している間に感じていた視線は彼女からのものだとわかればいい。悪意なき視線だから放っておいたのだから。
 婚約者候補が親族でもない婚約者のいる男と出歩いていることで、自身が候補から外れるということを考えられないのか、それとも、元から候補になどなりたくなかったのか。
 どちらにせよ、彼女とは縁がなかったと考えるべきだな。
 ユーゴが彼女をエスコートしようと、席から立たせたときに彼女は何故か会釈をしてくる。
 その姿をぼんやりと眺めていると、ドンと音が聞こえる。ユーゴ達が一瞬だけ此方を見たがすぐ退店すべく出口に向かった。
 それにしても、デートにしては時間が短すぎる。そのことを考えると、ユーゴと彼女は何がしたかったのだろう。
 彼女に悪意がなくとも、ユーゴは妹を不安にさせる行動ばかりをとっている。それが、もし仕事として請け負っていることならば、話すことは出来なくとも誠意ある行動はとれるはずだ。それを怠っているいまの彼奴に妹を任せたくないと思ってしまうのは兄心というものだろうか。
 考えていると、視界にクリスが映り込み最高の笑みを浮かべながら横に座らせた妹を口説き始めている。だが、ユーゴのことで頭が一杯な妹には効果がないようだ。ざまあみろ。婚約者がいるのだから大人しくしていて欲しい。
 いきなり給仕を呼ぶベルを鳴らし始め「私、ここで働きたいのです」と妹が告げる。その発言に驚いてしまったが、いい案を思い付いたと言わんばかりの能天気な声だったから呆れてしまう。
 兄として妹の自立を喜ぶべきなのかと思いながらも、行儀見習いをしたいなら父に紹介してもらえばいいとは思うが、この単純な妹が行儀見習いなど務まるはずもない。
「おい、アンジュ」
 声を掛けているのに、能天気馬鹿は気づきもせずに身体をユサユサと横に揺らす。その姿はとても可愛らしいが、クリスが肩を抱き寄せたことにより終了してしまった。
 勝手に妹に触れるとはどういうことだ。それにしても、さっきからクリスの笑顔が張り付きっぱなしで正直不気味だ。というよりも、少し苛ついているようだ。
 そのことに気付かない妹は、少し頬を染めている。笑顔のままでいるクリスが不気味で「アン、君はいま無茶なことを考えていただろう」と吹雪が吹き荒れるような雰囲気で話すものだから、妹は慌てて否定していたが、完全に目が泳いでいる。王子相手に嘘吐いてもすぐにわかってしまうということに何故気づかない。
 そして、丁寧にこの場についての説明をされ「男爵、子爵、裕福な商家の者が行儀見習いの場として提供されているということを知らないわけではないだろう」と言われた瞬間の間抜け顔は最高に可愛らしい。
 きょとんとした顔から「初めて知った」とわかる。何でも、顔に出るから可愛いな。
 不意に妹と目が合うから、真顔になれば妹の横にいるクリスが口うるさい家庭教師みたいに注意している。
 そして、妹に対して言ってはいけないあの場所の名を簡単に出す。
「そんなにもやりたいと言うのなら王宮に来ればいい」
 その言葉に一瞬だがピクリと肩が跳ねる。それを見逃すほど馬鹿ではない。
 きっと、思い出してしまったのだろう。
 妹にとって、思い出したくない記憶。王城の茶会でシルビア王女に言われた言葉を。
 あの王女は俺もどちらかと言えば好かない。クリスの異母妹だが、性格は最悪だ。ジェード殿下やクリスと同じ血を求め、彼らの従兄弟であるユーゴを手に入れようとする。そして何より、自分が美しいと思ったものは手に入れないと気が済まない性格をしているということだ。
 いまの王家に姫はシルビア王女しかいない。そのため、王に甘やかされて育った。それが原因とは言わないが、ユーゴを手に入れることが出来るのは当たり前だと思っている。
 そのせいで、妹は王宮が苦手になり親しい友人との茶会にしか参加しないのだから。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

処理中です...