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閑話
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思い出したくない記憶を思い出してしまったせいか、妹の元気がなくなっている。先程まで、馬鹿みたいに元気だったのにと思うとクリスの余計な発言をしたためだ。王宮に妹ひとりで赴くことはないようにしていたというのに。クリスもあのことは知っているというのに、迂闊すぎる発言だった。クリスを睨むと、やっとあのことに気付いたようだ。
それならば、先程の発言を訂正させなければと思い妹を捉えようとする視界の端に移りこんだのはジェード殿下の姿だ。
ジェード殿下が此方に向かって歩いてくるのを確認し、慌てて立てばテーブルに太股をぶつける。
痛いみよりも、ここに殿下が訪問するなど聞いていない。近衛でも王太子付きクリス付きでの公務の情報だけは共有されているはずなのに、この訪問の情報は得ていなかった。急遽決めたのかもしれないが、ここで出会うとは思わなかった。
敬礼する俺に「楽にしてくれ」と声をかけ、鋭い瞳でクリスを映してから妹へ移る。
妹は間近でみる殿下に戸惑っている。こんなにも近くで会うことなので新年参賀とあの茶会以来だろうから仕方ないか。
直立していたが座るように促され、席に座らせていただく。
再びクリスをその瞳に写したとき「クリス、お前は何をそんなに大きな声を出している。あまりに煩いようだとここから追い出すぞ」と、脅しているが妹のことを可愛いと思っているクリスは更に声を大きくする。王子の気品をどこに置いてきたと言いたいくらいだが、日頃から軍の練習に参加していたりするから、俺としてはあまり気にならない。
だが、ジェード殿下からすれば王族がみっともなく感情的になると言いたいのだろう。それくらい察してやれよと思うが、彼奴はいま妹をここで働かせないようにしたいらしく焦っている。
「……兄上。ですが、アンジュ…いえ、グレアム嬢がここで働きたいと申し出るため、王宮で行儀見習いをすることを勧めていたのです」
その言葉に、妹の顔は青白くなっていく。ジェード殿下もその表情をみれば更に目を細める。隣にいるクリスはその表情が見えていないから、何故そのような視線を向けられなくてはいけないのかといほどの反抗的な目をしていた。
他家のことで喧嘩する王族はなかなかいないと思う。身内のことだとういのに口をだすことも出来ずに見ているだけとは。
ジェード殿下は冷静になれと視線で訴えている。それに気づいて欲しい。ここにグレンがいたら、どうにかしてクリスを窘めてくれたはずだ。俺ではそこまで気が回らないから無理だ。
「兄上!ですが、グレア嬢は伯爵家の令嬢です。そのような身分の者がここで働くとなると」
「お前は、そこいるケイを差し置いてグレアム嬢の兄にでもなったつもりか。ここは俺が任されている公務の範疇だ。採用する。異論は認めん」
どうやら、クリスの発言にジェード殿下が静かに怒りを露にした。
目つきのせいか、怒りを露にした時の表情の冷たさは軍で訓練をしている者ですら、一瞬だが怯む者もいる。
いままでの殿下は弟を窘めているだけだったが、自身が関わっている公務について関わってもいない弟に口だされたことが気に入らなかったのだろう。
わかりにくい教育をしていると思いながらも、殿下にはっきりと宣言されてしまったためクリスが今後何を言おうが聞き入れてもらえないだろう。
ここで働く邪魔などしたら、容赦なく罰を与えるだろう。絶対に公務の量が増えるはずだ。
素直にジェード殿下に感謝を述べる妹は決意に満ちていた。きっと、妹自身があの王宮の一件を気にしていたのだろう。俺やクリスは知らないことになっているから余計に。
それにしても、兄心など知らない妹は嬉しそうに殿下に微笑んでいるのを見ると複雑な気分になる。
ただ、あの一件後の妹の交流範囲の狭さからここで働くのは無理なのではないかと思い、差し出がましいが「ジェード殿下、差し出がましいかと思いますが我が愚妹はここでの働くことは無理だと思います。私があの一件を知らないとお思いですか?やはり、あの一件を知っていれば、勧めるべきではありません」と進言する。
妹に向けていた笑みをそのまま向けてくるわけではなく、「俺の判断に間違えがあると言いたいのか」と真顔で言われたので怯んでしまい口籠ってしまう。
妹の視線は俺ではなく、ずっと殿下に向けられている。ユーゴに似ている殿下をただ眺めているのか、それとも数年後のユーゴだと想像しているのか知らないが、面白くはない。
「あまり閉じ込めておくと嫌われるぞ。では、グレアム嬢。後程連絡させていただきますので、これからよろしく頼みますよ」
妹に対して微笑みながら、隣に座っているクリスを邪魔だと言わんばかりに退かせる。そして、手を取り甲にキスを落とす。悪戯が成功した子どものような顔を浮かべるユーゴと違い、その表情はどことなく甘く、他の女性が勘違いしてしまいそうだ。妹に限ってそのようなことはないだろうが。
目の前で何が起こっているのかわからずにいたようだが、今の状況を理解した途端に表情が曇る。
「レディにはまだ少し早かったみたいですね」
その表情は完全に女性を虜にする男だった。自身の容姿の使い方を熟知しているからこそできるのだろう。
兄として妹が口説かれている姿を見るのは複雑だ。
それならば、先程の発言を訂正させなければと思い妹を捉えようとする視界の端に移りこんだのはジェード殿下の姿だ。
ジェード殿下が此方に向かって歩いてくるのを確認し、慌てて立てばテーブルに太股をぶつける。
痛いみよりも、ここに殿下が訪問するなど聞いていない。近衛でも王太子付きクリス付きでの公務の情報だけは共有されているはずなのに、この訪問の情報は得ていなかった。急遽決めたのかもしれないが、ここで出会うとは思わなかった。
敬礼する俺に「楽にしてくれ」と声をかけ、鋭い瞳でクリスを映してから妹へ移る。
妹は間近でみる殿下に戸惑っている。こんなにも近くで会うことなので新年参賀とあの茶会以来だろうから仕方ないか。
直立していたが座るように促され、席に座らせていただく。
再びクリスをその瞳に写したとき「クリス、お前は何をそんなに大きな声を出している。あまりに煩いようだとここから追い出すぞ」と、脅しているが妹のことを可愛いと思っているクリスは更に声を大きくする。王子の気品をどこに置いてきたと言いたいくらいだが、日頃から軍の練習に参加していたりするから、俺としてはあまり気にならない。
だが、ジェード殿下からすれば王族がみっともなく感情的になると言いたいのだろう。それくらい察してやれよと思うが、彼奴はいま妹をここで働かせないようにしたいらしく焦っている。
「……兄上。ですが、アンジュ…いえ、グレアム嬢がここで働きたいと申し出るため、王宮で行儀見習いをすることを勧めていたのです」
その言葉に、妹の顔は青白くなっていく。ジェード殿下もその表情をみれば更に目を細める。隣にいるクリスはその表情が見えていないから、何故そのような視線を向けられなくてはいけないのかといほどの反抗的な目をしていた。
他家のことで喧嘩する王族はなかなかいないと思う。身内のことだとういのに口をだすことも出来ずに見ているだけとは。
ジェード殿下は冷静になれと視線で訴えている。それに気づいて欲しい。ここにグレンがいたら、どうにかしてクリスを窘めてくれたはずだ。俺ではそこまで気が回らないから無理だ。
「兄上!ですが、グレア嬢は伯爵家の令嬢です。そのような身分の者がここで働くとなると」
「お前は、そこいるケイを差し置いてグレアム嬢の兄にでもなったつもりか。ここは俺が任されている公務の範疇だ。採用する。異論は認めん」
どうやら、クリスの発言にジェード殿下が静かに怒りを露にした。
目つきのせいか、怒りを露にした時の表情の冷たさは軍で訓練をしている者ですら、一瞬だが怯む者もいる。
いままでの殿下は弟を窘めているだけだったが、自身が関わっている公務について関わってもいない弟に口だされたことが気に入らなかったのだろう。
わかりにくい教育をしていると思いながらも、殿下にはっきりと宣言されてしまったためクリスが今後何を言おうが聞き入れてもらえないだろう。
ここで働く邪魔などしたら、容赦なく罰を与えるだろう。絶対に公務の量が増えるはずだ。
素直にジェード殿下に感謝を述べる妹は決意に満ちていた。きっと、妹自身があの王宮の一件を気にしていたのだろう。俺やクリスは知らないことになっているから余計に。
それにしても、兄心など知らない妹は嬉しそうに殿下に微笑んでいるのを見ると複雑な気分になる。
ただ、あの一件後の妹の交流範囲の狭さからここで働くのは無理なのではないかと思い、差し出がましいが「ジェード殿下、差し出がましいかと思いますが我が愚妹はここでの働くことは無理だと思います。私があの一件を知らないとお思いですか?やはり、あの一件を知っていれば、勧めるべきではありません」と進言する。
妹に向けていた笑みをそのまま向けてくるわけではなく、「俺の判断に間違えがあると言いたいのか」と真顔で言われたので怯んでしまい口籠ってしまう。
妹の視線は俺ではなく、ずっと殿下に向けられている。ユーゴに似ている殿下をただ眺めているのか、それとも数年後のユーゴだと想像しているのか知らないが、面白くはない。
「あまり閉じ込めておくと嫌われるぞ。では、グレアム嬢。後程連絡させていただきますので、これからよろしく頼みますよ」
妹に対して微笑みながら、隣に座っているクリスを邪魔だと言わんばかりに退かせる。そして、手を取り甲にキスを落とす。悪戯が成功した子どものような顔を浮かべるユーゴと違い、その表情はどことなく甘く、他の女性が勘違いしてしまいそうだ。妹に限ってそのようなことはないだろうが。
目の前で何が起こっているのかわからずにいたようだが、今の状況を理解した途端に表情が曇る。
「レディにはまだ少し早かったみたいですね」
その表情は完全に女性を虜にする男だった。自身の容姿の使い方を熟知しているからこそできるのだろう。
兄として妹が口説かれている姿を見るのは複雑だ。
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