伯爵令嬢のアルバイト事情ー婚約者様が疑わしいですー

柚木

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2章 アルバイト開始

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 アイリーン様も着替えが終わり、簡単にだが髪をひつと括ってくれた。
 御礼を言えば「次から出来るように練習してね。出来なくても私がやるから」と、面倒をみてくれるようだ。
 だけれど、ひとりでこれぐらい出来なくてはいけないと思い、あとで屋敷で侍女に習いながら練習しようの思う。
 それにしても、綺麗なお団子シニヨンだ。
 不器用すぎて、私ひとりではきっと出来ないだろう。
 そんな私に気づいたのか「アイリーンも、初めはやってもらっていたから気にしないこと」と、オリヴィアさんが柔らかく笑う。
 その表情が聖母のようで、ぼーっとしてしまう。ここは、素敵な方しか勤めることが出ないのではないかと考えてしまう。
「さっきから、ぼーっとしてるけれど、大丈夫かしら」
 間の前で手を降られるが、その姿ですら優雅にみえる。
 両肩を後ろから掴まれ「おーい、現実に戻っておいで。オリヴィアさんが美人だからって見惚れないの。テイラーのときもそうだけど、大丈夫?」と、声を掛けられながら、前後に揺さぶられる。その揺さぶりが、徐々に激しくなり気持ち悪い。
「そこまでにしなさい。アンジュちゃんの顔色が悪いわ」
「えっ、本当」
 ここで嘘を言っても仕方がないと思う。
 やっと解放してもらえたから、新鮮な空気を吸うように深く吸い込む。気持ち悪さを覚えた身体は、横になりたいと訴えてくる。
 だけれど、初日からこのような失態は許されないだろう。
「体調が良くないみたね。少し、控え室のソファに座っていて。いま、ペパーミントティーを淹れてもらうわ」
「お、お気遣いなくお願いします」
「遠慮しないこと。ここで働くということは、今日から私たちの仲間になるということなのだからね」
 ソファに強制的に座らせられたが、堂々と座るほど神経が図太くないので、小さく端に座らせてもらった。
 そして、何故か隣にアイリーン様がちゃっかりと座って来る。申し訳なさそうにチラチラと此方を見てくるが、いまは自分の体調が悪すぎて、そのことに対して気遣いできない。
「ごめんなさい」と心の中で謝るだけ謝ることにした。
 不快感との戦っていると、ティーカップが差し出される。それを、落とさないように受け取ろうとしたが、陶器のため熱が伝わり、熱くて指先でだけ持とうしてみるが、中身が入っているため重くて断念する。
 苦笑いを浮かべながら「慌てなくても、逃げないか大丈夫」と言われてしまい恥ずかしい。
 穴があったら入りたいと思ってしまい、隠れたいが隠れるところもないため、俯くしかない。俯いていると、ふーふーと息を吹きかける音が聞こえる。チラリととティーカップの方を見ると、中身である熱々のペパーミントティーにアイリーン様が息を吹きかけている。
「あ、あああアイリーン様!何をなさっているのですか」
「ん?熱くて飲めないと思ったから私からの愛を吹きかけたんだ」
 愛とかよくかわらない単語が聞こえてきたけれど、そこは無視させてもらう。
 そもそも淑女としてその作法はどうなのだろう。持ってきてくれたオリヴィア様は頭を抱えているから、呆れているのだろう。
「きっと冷めたはずだから、飲んでみて。ここの紅茶は美味しいのよ」
 何事もなかったかのように、勧めてくる。そのため、顔を引きつらせるしかなかった。
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