伯爵令嬢のアルバイト事情ー婚約者様が疑わしいですー

柚木

文字の大きさ
34 / 77
2章 アルバイト開始

秘密の部屋へのご招待?

しおりを挟む
 ユーゴに連れてこられた場所は、テーブルとイス、ソファとチェス板が置いてあるだけというシンプルな部屋だった。

 ここは、何処なのだろうと思っていると「ここは、隠れ部屋みたいなものだよ。限られた人間しか来ない」と説明してくれるが、限られた人間というのが気になる。

 王宮内のことを外部の者に詮索されるのは、よくないだろうに、こんなにも簡単に連れて来てくれたのだろう。

 考えていると「さあ、お姫様。お座りください」と、給仕のようにイスを引き座らせようとする。その動作があまりにも洗礼されていて、一瞬だが見惚れてしまう。

「もう、ふざけないで」

「ふざけてないよ。アンは僕だけのお姫様だから」

 抗議してみるが、その視線は優しくて、胸の高鳴りは最高潮に達している。

「お父様やお兄様も同じことを言っているわ」

「…家族以外には言われていないよね?」

 ずっと、綺麗に笑っているユーゴだけれど最後だけ目元が笑っていないように見えた。勘違いだと思うが。

「それより、アンがグラッチェに行ったことがあるとは思わなかったよ」

「さ最近、お兄様に連れていかれたの。屋敷の中ばかりではなくて外出しろと言われて」

「ケイなら言いそうですね」

 敬語に変わっている。それが、私の嘘に気付いているような気がして仕方がない。

 ふたりっきりの場合は、素の表情をいつも見せてくれていたのに、急に敬語で話されると怖い。

 言い訳を叱られた子どもの気持ちになってしまい、黙ってしまうと「飲み物が必要だね。僕としたことが失念していた。少し待っていてくれ」と、部屋から出て行ってしまう。

 いま出て行ってくれたことに、ほっとし改めて室内を見回す。

 日当たりがいいとはあまりいえないが、少し入る日の光から此方は城の裏側なのだろうか。

 建物構造なのはわからないが、日が入らないことからそう思う。ただ、それでもこの部屋はお日様の香りが少しだけれどする気がする。

 立ち上がり、深呼吸をすると後ろからクスクスと笑いを堪える声がしたので、振り返ればユーゴが侍女を伴い戻ってきたのだ。

「アン、ここを気に入ってくれましたか」

「ああ、…はい」

 恥ずかしくなってしまい声が小さくなる。お転婆だった私から淑女になった私をみて欲しくて大人ぶっていたのだが、どうやら今ので、色々と崩れた気がする。

 クスクスと笑っていたユーゴは侍女からティーセットを受け取り、テーブルに設置する。

 何故、こんなにも手際がいいのか気になってしまう。

 もしかして、ユーゴはシルビア殿下の従者をしているのではないだろうか。そうでなければ、ミーシャが言っていた公務の同行だってありえないはずだ。

 設置い終わったのか、侍女に下がるように言う。不服そうな表情は見せなかったが、侍女と目が合った気がした。侍女の視線は、「何故お前の様な女が」、と語っているようだった。あの侍女が、シルビア殿下の息のかかっている者だったらと思うと、紅茶に何か盛られているのではないかと勘繰ってしまう。

 ジェード殿下に似ているユーゴはどうやら令嬢だけではなく、王宮に出仕している侍女たちにも人気の様だ。

「僕のお姫様は、少しお転婆の様だから大人しく待っていてくれるかな?」

 扉を眺めていたら、背後から抱きしめられる。耳元で囁かれるその声に大人しくするというよりも、腰が抜けて立っていられない。

 いつから彼は、こんなにも積極的な男性になったのだろう。やはり、私は彼のことがわからない。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

『すり替えられた婚約、薔薇園の告白

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢シャーロットは幼馴染の公爵カルロスを想いながら、伯爵令嬢マリナの策で“騎士クリスとの婚約”へとすり替えられる。真面目なクリスは彼女の心が別にあると知りつつ、護るために名乗りを上げる。 社交界に流される噂、贈り物の入れ替え、夜会の罠――名誉と誇りの狭間で、言葉にできない愛は揺れる。薔薇園の告白が間に合えば、指輪は正しい指へ。間に合わなければ、永遠に 王城の噂が運命をすり替える。幼馴染の公爵、誇り高い騎士、そして策を巡らす伯爵令嬢。薔薇園で交わされる一言が、花嫁の未来を決める――誇りと愛が試される、切なくも凛とした宮廷ラブロマンス。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

処理中です...