35 / 77
2章 アルバイト開始
2
しおりを挟む
「腰が抜けてしまったかな」
くすりと笑っているが、誰のせいだと思っているのか。
耳元で囁かないで!と叫びたいが、淑女は叫んではいけない。
床に座りかけている私を、更に抱え込むようにする。ユーゴの腰は痛くないのだろうか?
屈む体制は、とてつもなく辛いのに。そのまま、ひょいっと抱き上げられイスに座らされる。
後ろにいるユーゴを見上げれば「大人しく座っていろ」と顔に書いてあるので、大人しく待つことにした。
「すぐに、お茶を淹れるから待っていて」
テーブルに置かれたティーセットを弄りはじめたから、どうやらユーゴが淹れてくれるみたいだ。
慣れたその動作を「あまり、注目されると恥ずかしいな」と言っているが、顔が全く恥ずかしそうじゃない。
「ユーゴはよくお茶を淹れるの?」
「毎日、淹れさせられているからね」
疑問を投げかけてみたが、毎日とはどういうことなのだろう。
ハミルトン家で金銭トラブルが話は聞いたことはない。けれど、オリヴィア様がグラッチェで働いていたのを、先程みてしまったから、没落の文字が頭に過った。
もしも、没落してしまったらユーゴとの婚約も無くなってしまう。ユーゴの気持ちはわからないけれど、それでもユーゴとの婚約が無くなってしまうと考えると、焦る自分がいる。
ソワソワしていると、何かを察したようだ。
「ジェード殿下の執務室は、女性立ち入り禁止なんだ。侍女を含めて」
だから、先程の侍女はユーゴに話し掛けられたことで、接点を持てることに喜んでいたのだろう。だけれど、見たこともない私のような女が同室していたことが気に入らなかった。
視線の理由が何となくだけどわかった気がする。
女性立ち入り禁止とは何かと不便だと思うが、ジェード殿下の周りにいる者たちは各家の嫡男だったりするから、王城に奉公している間にお近づきになりたいと思っている者たちが多いい。それを警戒してのことだろうに。それに、ジェード殿下自身にもまだ婚約者はいないから職務中に色目など使われたりされたら困るからか。
「でも、何でユーゴが?」
「一番下だから…かな。でも、僕が入るまではグレンがしていたみたいだからね」
目が笑っていない。というか、どこか遠い場所をみている気がする。
ユーゴの前がグレン様。では、次は誰なのだろうと考えてみるが、同年代にユーゴ以上に有能な人がいるのかと思ってしまう。ミーシャは有能だけれど女性だから、関係ないか。
蒸らし終わった紅茶がカップに注がれる。
「これでも、前よりは巧くなったから美味しいとは思うけど、少し自信がないな」
「ありがとう。時期侯爵様に振舞ってもらえる女性なんて、きっと私だけでしょ」
「そうだよ。それに、次期侯爵夫人が望めばいつでも淹れるよ」
「ダメよ。だったら、私もユーゴのために淹れてあげる」
香りはすごくいい。先程、テイラー様に振舞われた物と同じくらいに。
グラッチェで働いていることは秘密だけれど、練習すれば私もユーゴに振舞うことは出来る。旦那様に振舞う方は多いと聞いている。
いままで、嫁ぐことに対して深く考えたことはないがユーゴが私のために振舞ってくれたのだから私もそのお返しをしたいと思った。
「冷めてしまうと、あまり美味しくないかもしれないから、冷める前に此方もいただこうか」
そう言いながら、料理長に渡された袋から取り出された物は―――ベーコンにトマト、レタスが挟まっていたクラブサンド。
抱き締められて潰されたため、トマトの汁が無残にも垂れている。
それでも、グラッチェのクラブサンドは初めて食べるのでどのような味がするのか楽しみで仕方がない。
「ユーゴ。はやく食べましょう」
「そうだね。いただこうか」
うんうんと、頷きながら昼食に手を伸ばす。
くすりと笑っているが、誰のせいだと思っているのか。
耳元で囁かないで!と叫びたいが、淑女は叫んではいけない。
床に座りかけている私を、更に抱え込むようにする。ユーゴの腰は痛くないのだろうか?
屈む体制は、とてつもなく辛いのに。そのまま、ひょいっと抱き上げられイスに座らされる。
後ろにいるユーゴを見上げれば「大人しく座っていろ」と顔に書いてあるので、大人しく待つことにした。
「すぐに、お茶を淹れるから待っていて」
テーブルに置かれたティーセットを弄りはじめたから、どうやらユーゴが淹れてくれるみたいだ。
慣れたその動作を「あまり、注目されると恥ずかしいな」と言っているが、顔が全く恥ずかしそうじゃない。
「ユーゴはよくお茶を淹れるの?」
「毎日、淹れさせられているからね」
疑問を投げかけてみたが、毎日とはどういうことなのだろう。
ハミルトン家で金銭トラブルが話は聞いたことはない。けれど、オリヴィア様がグラッチェで働いていたのを、先程みてしまったから、没落の文字が頭に過った。
もしも、没落してしまったらユーゴとの婚約も無くなってしまう。ユーゴの気持ちはわからないけれど、それでもユーゴとの婚約が無くなってしまうと考えると、焦る自分がいる。
ソワソワしていると、何かを察したようだ。
「ジェード殿下の執務室は、女性立ち入り禁止なんだ。侍女を含めて」
だから、先程の侍女はユーゴに話し掛けられたことで、接点を持てることに喜んでいたのだろう。だけれど、見たこともない私のような女が同室していたことが気に入らなかった。
視線の理由が何となくだけどわかった気がする。
女性立ち入り禁止とは何かと不便だと思うが、ジェード殿下の周りにいる者たちは各家の嫡男だったりするから、王城に奉公している間にお近づきになりたいと思っている者たちが多いい。それを警戒してのことだろうに。それに、ジェード殿下自身にもまだ婚約者はいないから職務中に色目など使われたりされたら困るからか。
「でも、何でユーゴが?」
「一番下だから…かな。でも、僕が入るまではグレンがしていたみたいだからね」
目が笑っていない。というか、どこか遠い場所をみている気がする。
ユーゴの前がグレン様。では、次は誰なのだろうと考えてみるが、同年代にユーゴ以上に有能な人がいるのかと思ってしまう。ミーシャは有能だけれど女性だから、関係ないか。
蒸らし終わった紅茶がカップに注がれる。
「これでも、前よりは巧くなったから美味しいとは思うけど、少し自信がないな」
「ありがとう。時期侯爵様に振舞ってもらえる女性なんて、きっと私だけでしょ」
「そうだよ。それに、次期侯爵夫人が望めばいつでも淹れるよ」
「ダメよ。だったら、私もユーゴのために淹れてあげる」
香りはすごくいい。先程、テイラー様に振舞われた物と同じくらいに。
グラッチェで働いていることは秘密だけれど、練習すれば私もユーゴに振舞うことは出来る。旦那様に振舞う方は多いと聞いている。
いままで、嫁ぐことに対して深く考えたことはないがユーゴが私のために振舞ってくれたのだから私もそのお返しをしたいと思った。
「冷めてしまうと、あまり美味しくないかもしれないから、冷める前に此方もいただこうか」
そう言いながら、料理長に渡された袋から取り出された物は―――ベーコンにトマト、レタスが挟まっていたクラブサンド。
抱き締められて潰されたため、トマトの汁が無残にも垂れている。
それでも、グラッチェのクラブサンドは初めて食べるのでどのような味がするのか楽しみで仕方がない。
「ユーゴ。はやく食べましょう」
「そうだね。いただこうか」
うんうんと、頷きながら昼食に手を伸ばす。
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
『すり替えられた婚約、薔薇園の告白
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢シャーロットは幼馴染の公爵カルロスを想いながら、伯爵令嬢マリナの策で“騎士クリスとの婚約”へとすり替えられる。真面目なクリスは彼女の心が別にあると知りつつ、護るために名乗りを上げる。
社交界に流される噂、贈り物の入れ替え、夜会の罠――名誉と誇りの狭間で、言葉にできない愛は揺れる。薔薇園の告白が間に合えば、指輪は正しい指へ。間に合わなければ、永遠に
王城の噂が運命をすり替える。幼馴染の公爵、誇り高い騎士、そして策を巡らす伯爵令嬢。薔薇園で交わされる一言が、花嫁の未来を決める――誇りと愛が試される、切なくも凛とした宮廷ラブロマンス。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる