伯爵令嬢のアルバイト事情ー婚約者様が疑わしいですー

柚木

文字の大きさ
54 / 77
2章 アルバイト開始

2

しおりを挟む
 昨日、クリスの執務室にいきなり現れたジェード殿下とニコライさんに嫌な予感はしていた。
 何か新しい仕事を割り当てられるのではないかと、身構える。前回の外交案件は、なかなか大変だった。隣国の来賓が入国する1週間前に資料を纏めろと、いきなり命じてくるものだから、泊りがけでアンに会えない日々を過ごした。そのお陰で、資料を纏めるコツは掴んだ気がする。
 今回はジェード殿下だけじゃなくてニコライさんがいるから何の案件を持ち込んで来たのか気になってしまう。どうせ、ろくなものではないだろうが。
 それにしても何で、この人までここにいるんだ。内心で溜息を吐き出す。
 クリスはニコライさんが苦手なのか「執務中ですので、お帰りください」と言い放つ。
 先程まで、休憩をしていた奴がよく言うなと思っていたが、そこは既に見抜かれているようだ。
「殿下もそう言わない下さいよ。折角、兄君であるジェードが弟の様子を見にきたのだから。それに、ケイくん。厄介なのが来たとか思ったでしょ。表情には出ていないけれど、空気に現れているよ。まだまだ青いな」
「おい」
「でも、そういうところ好きだな。初々しいって言うのかな?でも、もう近衛に任命されて何年経ったのかな。クリストファー殿下が外交時に君を同伴させたときに、どのように思われるか考えた方がいい」
 ジェード殿下が制止しようとするけれど、その言葉を遮ってまで話を続けることが出来るのは、この場ではニコライさんしかいない。
「ニコライ。少し、黙れ」
「僕の主はご機嫌斜めだな。でも、君の主もそれは同じか」
 やれやれと肩を竦めながら、ジェード殿下に主導権を返す。この場に自分がいないかのように振舞おうとする。その身代わりに感心してしまう。
「クリス。明日から始まる舞台は知っているな」
「ええ、クリッブス劇場のですよね。それがどうしました?」
 困惑した表情のクリスが一瞬だけ、俺を見てくる。合っているよな?と、助けを求められても困る。
 何の舞台をするなど、俺が知っているわけもない。というか、興味がない。
「公演初日に王族が招待されているのは知っているな」
「毎年、ひとり出向くことになっていますので。今年は兄上が行くのは存じていますが」
「俺の代わりにお前が行け」
 突然、何を言い出しているのだ。明日の話なのに、何故いまここで急変更をしようとするのだ。
「そ、それはどういうことですか」
 クリスが狼狽えるのもわかる。クリスが行くのは来期だと決まっていた。それをこの方は覆そうとしているからだ。しかも、あのどうしようもない恋愛物を急に明日観て来いとは、心の準備が出来るはずもない。
「それは、ジェードが言いにくいから言うとね。ちょっと、ユーゴ君に意地悪しちゃったから合わせる顔がないんだよ。だから、代わりに行ってくれると嬉しいかなって」
 どういうことだ?ユーゴに意地悪って…いつもしているではないかと思っているが、あれは可愛がっているとも言える。本人は、すごく嫌がっているが。
「ですが、明日ケイは非番で護衛が他の者です」
「なら、他の者を付ければいい。お前の護衛は彼以外にいないのか」
「そ、それは…」
 クリスの悪い癖だ。外出する際に、何故か俺を指名する。それでは、他の者に示しがつかない。
 実力だと言えばいいが、俺とクリスが親しい学友であることを知らない者はいない。それに、嫉妬する者さえいる。
 ただ、この癖だけはどうしても治さなくてはいけない。俺を含め、あまり近しい者に依存するのはよくない結果を招く。
「ケイくん以外にも優秀な者は多いでしょ。贔屓はよくないよ。まあ、急には無理だと思うからケイくんには、その舞台の券を2枚あげるよ。いま、有力な婚約者候補のジェーン嬢でも誘って行けば、きっと彼女も喜ぶでしょ。それに、休暇は大事だからね」
 ニコライさんの意見は最もだが、何故ジェーン嬢が有力な婚約者候補なのだ。というか、何故彼女が婚約者候補に挙がっていることを、この人は知っているんだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

処理中です...