55 / 77
2章 アルバイト開始
了
しおりを挟む
「まあ、簡単に言えば、ジェード殿下に席に空きがあるから婚約者候補を誘ってみろと言われたんだよ」
「…あの腹黒」
普段より低い声を出すユーゴに、何か色々とジェード殿下に思うことがあるのだろう。
それよりも先程まで可愛らしいいと思っていた令嬢は目の前にいない。笑っているはずだが、纏っている空気が一気に変わっている。
「王太子殿下が気にしてくださっていたなんて、私恥ずかしいですわ。こんな素敵な方に選んでいただけるかわからないのに。他の候補の方は、さぞ素敵な方々が多いのでしょね。ケイ様」
言い方に棘が含まれている気がする。それに、気にしていたのはニコライさんであってジェード殿下ではない。ただ、訂正するとややこしくなりそうだから止めておこう。
まるで、母の機嫌が悪い時のようだな。
持ち上げていたベルをやっと鳴らしたが、店の者が来るまでの時間がやけに長く感じた。
皆、無言だからなのか。
「大変、お待たせいたしました。ご注文をお伺いします」
救いのような声の主をまじまじと見ると、先程こちらを見ていたひとりだった。
アンと何か話しながら、顔を赤く染めたりしていたな。いまも、少しだけ声が上ずっているようだ。それに、少しだがうっすらと汗も見える。
ユーゴを目の前にして緊張しているのだろう。彼奴、見た目だけはジェード殿下に似ているからな。
「私に、アッサム。其方の方に珈琲をお願い」
明るい声を出しているのだろうが、語尾が強めだ。注文を確認しようとしているが、彼女が扇子を閉じたことで、びくりと肩を震わせる。その姿をみて、笑みを深めるとは。
「僕にも珈琲をお願いします」
彼女の行動など気にもしていないようで、注文するユーゴに感心する。
常にジェード殿下に振り回されているようなものだから、些細なことで動じないのだろう。
「ご確認させていただきます。アッサム1に珈琲2で御間違いないでしょうか?」
「ええ、頼みましたよ」
完全にユーゴの虜だろう。あまり機嫌のいいと言えない令嬢と、特に発言するつもりもない俺。紳士的な態度でやり過ごそうとするユーゴだったら、ユーゴの株があがる。
だから、此奴が令嬢たちに人気があるのか。妹には悪いが、何だか納得してしまいそうだ。
去り際に、視線があった気がするが気のせいだろう。気の利かない男とか思われているに違いない。まあ、事実だが。
「ねえ、あなた。紅茶でなくていいのかしら?いつから珈琲が飲めるようになったの?」
「屋敷ではいつでも飲んでいます。婚約者でもないあなたにいちいちそのようなことを知らせなくていけないのですか?」
そうだろうな。婚約者でもない令嬢に教える義理はない。
夜会などで好みなどを聞かれるが、適当にいつも答えている。本当のことを知っているのは家族だけでいいと思っている。
最近は落ち着いているが以前は、好みなど知られると、仕事場に差し入れとして称して贈物をされたり帰り際に突然渡され、とても対応に困ることが多かった。
情報源は母や元婚約者だったが、俺としては何故他の者に漏らすのかわからない。
次の婚約者に望むことなら、口が少しでも堅い者がいいと思ってしまう。
「あなたと私の仲ではないの…と、言ってしまうとケイ様に誤解をされてしまうから止めましょう」
少し頬を染めながら俺を見てくるものだから、崩れてしまった口調を直そうと取り繕う。
直したところで、先程の荒はもう隠せないのだが。
「おふたりは仲がいいのですね」
「そんなことありませんのよ。ただ、彼の姉。オリヴィア様と親しくしていただいている関係で面識があるくらいですの」
誤解しては困ります!と、訴えられるが、オリヴィア嬢抜きにしてユーゴと以前この店にいたことを知っているからか、口では何とでも言えるだろうと思ってしまう。
それに、彼女自身あの時に俺に会っている。それを含め今後を考えなくてはいけない。
だから、「そうなのですね。あまりに仲がいいものだから恋人かと思いましたよ」とだけ返す。
隣にいるユーゴの顔が険しくなろうと関係ない。疑われるような行いをしていること自体が悪いのだから。
「…あの腹黒」
普段より低い声を出すユーゴに、何か色々とジェード殿下に思うことがあるのだろう。
それよりも先程まで可愛らしいいと思っていた令嬢は目の前にいない。笑っているはずだが、纏っている空気が一気に変わっている。
「王太子殿下が気にしてくださっていたなんて、私恥ずかしいですわ。こんな素敵な方に選んでいただけるかわからないのに。他の候補の方は、さぞ素敵な方々が多いのでしょね。ケイ様」
言い方に棘が含まれている気がする。それに、気にしていたのはニコライさんであってジェード殿下ではない。ただ、訂正するとややこしくなりそうだから止めておこう。
まるで、母の機嫌が悪い時のようだな。
持ち上げていたベルをやっと鳴らしたが、店の者が来るまでの時間がやけに長く感じた。
皆、無言だからなのか。
「大変、お待たせいたしました。ご注文をお伺いします」
救いのような声の主をまじまじと見ると、先程こちらを見ていたひとりだった。
アンと何か話しながら、顔を赤く染めたりしていたな。いまも、少しだけ声が上ずっているようだ。それに、少しだがうっすらと汗も見える。
ユーゴを目の前にして緊張しているのだろう。彼奴、見た目だけはジェード殿下に似ているからな。
「私に、アッサム。其方の方に珈琲をお願い」
明るい声を出しているのだろうが、語尾が強めだ。注文を確認しようとしているが、彼女が扇子を閉じたことで、びくりと肩を震わせる。その姿をみて、笑みを深めるとは。
「僕にも珈琲をお願いします」
彼女の行動など気にもしていないようで、注文するユーゴに感心する。
常にジェード殿下に振り回されているようなものだから、些細なことで動じないのだろう。
「ご確認させていただきます。アッサム1に珈琲2で御間違いないでしょうか?」
「ええ、頼みましたよ」
完全にユーゴの虜だろう。あまり機嫌のいいと言えない令嬢と、特に発言するつもりもない俺。紳士的な態度でやり過ごそうとするユーゴだったら、ユーゴの株があがる。
だから、此奴が令嬢たちに人気があるのか。妹には悪いが、何だか納得してしまいそうだ。
去り際に、視線があった気がするが気のせいだろう。気の利かない男とか思われているに違いない。まあ、事実だが。
「ねえ、あなた。紅茶でなくていいのかしら?いつから珈琲が飲めるようになったの?」
「屋敷ではいつでも飲んでいます。婚約者でもないあなたにいちいちそのようなことを知らせなくていけないのですか?」
そうだろうな。婚約者でもない令嬢に教える義理はない。
夜会などで好みなどを聞かれるが、適当にいつも答えている。本当のことを知っているのは家族だけでいいと思っている。
最近は落ち着いているが以前は、好みなど知られると、仕事場に差し入れとして称して贈物をされたり帰り際に突然渡され、とても対応に困ることが多かった。
情報源は母や元婚約者だったが、俺としては何故他の者に漏らすのかわからない。
次の婚約者に望むことなら、口が少しでも堅い者がいいと思ってしまう。
「あなたと私の仲ではないの…と、言ってしまうとケイ様に誤解をされてしまうから止めましょう」
少し頬を染めながら俺を見てくるものだから、崩れてしまった口調を直そうと取り繕う。
直したところで、先程の荒はもう隠せないのだが。
「おふたりは仲がいいのですね」
「そんなことありませんのよ。ただ、彼の姉。オリヴィア様と親しくしていただいている関係で面識があるくらいですの」
誤解しては困ります!と、訴えられるが、オリヴィア嬢抜きにしてユーゴと以前この店にいたことを知っているからか、口では何とでも言えるだろうと思ってしまう。
それに、彼女自身あの時に俺に会っている。それを含め今後を考えなくてはいけない。
だから、「そうなのですね。あまりに仲がいいものだから恋人かと思いましたよ」とだけ返す。
隣にいるユーゴの顔が険しくなろうと関係ない。疑われるような行いをしていること自体が悪いのだから。
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
『すり替えられた婚約、薔薇園の告白
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢シャーロットは幼馴染の公爵カルロスを想いながら、伯爵令嬢マリナの策で“騎士クリスとの婚約”へとすり替えられる。真面目なクリスは彼女の心が別にあると知りつつ、護るために名乗りを上げる。
社交界に流される噂、贈り物の入れ替え、夜会の罠――名誉と誇りの狭間で、言葉にできない愛は揺れる。薔薇園の告白が間に合えば、指輪は正しい指へ。間に合わなければ、永遠に
王城の噂が運命をすり替える。幼馴染の公爵、誇り高い騎士、そして策を巡らす伯爵令嬢。薔薇園で交わされる一言が、花嫁の未来を決める――誇りと愛が試される、切なくも凛とした宮廷ラブロマンス。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる