伯爵令嬢のアルバイト事情ー婚約者様が疑わしいですー

2章 アルバイト開始

本日の覚えること…①

　ベルが鳴ったことで、リリベルさんが兄のいるテーブルに向かった。
　向かうときはとても嬉しそうな顔をしていた。遠目で眺めているときには、笑顔で固まりながらびくりと反応しているときもあった。何か、ジェーン様に言われたのだろうか。
　案の定、戻ってきたときに「女性に威嚇された」と言っていた。
　そして、ユーゴの紳士的な対応を聞かされたので、ジェーン様はユーゴに気でもあるのだろうか。と、考えてしまう。慣れていないことをするから、張りぼてのようになってしまうのだ。
　普段から、ユーゴを見習って生きて欲しい。そして、ジェーン様からユーゴを離してくれると嬉しい。
　そう思いながら、兄たちのテーブルを見る。
「ほらほら、そんなに見ているとお客様が気になってしまうからダメだよ。このあとは、紅茶の淹れ方でもやろうか」
　アイリーン様が視界を遮るように、目の前に立つ。気になるが、仕事中なのだから言われたことには従わなければと、素直に頷けば、そのまま厨房の近くにある準備室に連れていかれる。
　準備室には色々な茶器や茶葉が保管されていた。その中から、練習用と書かれた茶器を出され、テーブルの上に置かれる。
「んー、私の気分がアールグレイだからアールグレイしよう」と、言いながらアールグレイと書かれた引き出しから茶葉が入っている瓶を取り出す。
　テーブルの上に揃った茶器や茶葉をみていると、「これからお湯を貰いに行こうか」と厨房にお湯を頼みに行く。
　厨房も軽食の準備やお得意先に届ける昼食の準備をしているようで、何やら忙しそうだ。
　その中、アイリーン様は厨房内に進み「お湯貰いますね」と言いながら沸かされたばかりのお湯を貰い受けていた。
「お湯が必要な時は、こう言うのよ。アンちゃんが給仕に回るのは、まだ先だけど覚えていて損ではないはずよ。それに、家でも練習できるでしょうからね」
「はい」
　返事してみるが、待って。家で練習って…ことは屋敷の者たちの仕事を奪ってしまうのではないかと心配になる。
　私のお茶を淹れてくれる侍女の仕事を奪ってしまうのは何だか心が痛むから、どうしようと戸惑っていると、「きっと、家の方々もあなたが淹れてくれたと知ったら感動するはずよ。特に常に一緒にいる人とかね」と、言われたので専属侍女のミーナの顔が浮かんだ。
　ミーナが喜んでくれるなら、頑張ろう。それに、きっと間違っていたらミーナが教えてくれる。そう思うと、家で練習するのも悪くないかもしれない。
　喜んでくれる顔を思い浮かべたら、自然と笑みが零れる。
「頑張ろうね！まず、茶器を温めるところからしましょう」
　アイリーン様の手順は、昨日ユーゴがしていた手順と変わらない。昨日は半分見惚れてしまっていたので、殆ど手順は覚えていない。でも、今日は仕事だから覚えなくては、と意気込んでいると「流れをみるだけでいいよ」と言われてしまったので恥ずかしい。
　でも、はやくひとりで淹れられるようになりたいと思う。