伯爵令嬢のアルバイト事情ー婚約者様が疑わしいですー

柚木

文字の大きさ
74 / 77
3章

本日の紅茶

しおりを挟む
変な夢を見てから、花嫁修行という名のハミルトン家での御茶会を欠席して数週間。
あのような夢を見て、どのような顔をしてユーゴに会えばいいのかわからない。
思い出すだけでも、顔が林檎のように真っ赤になってしまうというのに、本人を見てしまえば、次は倒れるのではないだろうか。
それに、「待っていて欲しい」という言葉から逃げたのは私だ。その後、抗議の手紙などなかったから、あれは社交辞令だったのだろう。
何だか悲しくて、笑顔を作るのが無理そうだ。
気を抜くと、すぐ悲しい気持ちが甦ってきてしまうので、気丈に振る舞わなくては。
「もう、どうしちゃったの?危ないから、注意しながら作業しないとダメでしょ」
アイリーン様の声で、現実に戻る。
紅茶を淹れる練習をしていたのだが、どうしても単調な作業だと違うことを考えてしまいがちだ。
その癖、旨く淹れることが出来ない。 
「んー、ちゃんと、砂時計使っている?蒸らしすぎも味が苦くなる原因だから気を付けてね」
「はい」
本日、三度目の失敗なのに怒りもしないで優しく注意してくれる。家庭教師だったら、こんなに優しくなどしてくれないのに、アイリーン様は優しいな、っと思う。そんなアイリーン様の期待に応えるべく、変に考えることをやめよう!やめられるかわらかないけれど。
「フルーツティーにしようか。厨房で何があるか聞いてくるから、少し待っていて」
次こそは!と、気合いを入れようとしていたら、いなくなってしまった。
きちんと砂時計を使っているはずなのに、どうしてうまくいかないのだろう。
砂が全て落ちれば出来上がりだと思っていたのに、何が違うのか。
じーっと自身の失敗した紅茶と砂時計を恨めしくみる。
「みてみて、こんなに分けてもらえたよ!ついでに、パウンドケーキもくれたから、休憩ティータイムしようか」
アイリーン様が持ってきたのは、苺とブラックベリー、キュウイにオレンジといった定番的なものだ。あと、ひとつだけ白い黒い斑点みたいなものがある果物を持っているが、それは何だろう。不思議に思っていると「あっ、そうだ!これ冷やさなきゃだ!アイスティーにしないと!」っと、また引き返してしまったから、聞くに聞けなかった。
暖かい物を冷たくするとは、どういうことだろう。
アイリーン様が考えていることは、わからないから戻るのを待っていると、今度はバケツに氷を入れていた。
「あのそれは?」
「氷を入れて冷やすのよ」
自信満々に答えるから、苦笑いしか出来ない。渋味が増してしまう気がするが、それはフルーツの酸味で打ち消そうとしているのかは、わからない。
フルーツよりここはハチミツがよかったのではないか。
「よし、じゃあやろうか!きっと楽しいよ」
目をキラキラさせているので、やったことはないのだろう。実験として、いまやるということだ。
氷を入れるためにグラスを変え、それに継ぎ足すかのように紅茶を淹れる。熱さで勢いよく氷が溶けていく。
それをみて満足したのか、次に果物を入れていった。
温野菜ならぬ温果物になるっている。
「あ、アイリーン様?」
「仕上げにこのドラゴンフルーツを入れようと思ったんのだけれど、溢れそうだからこのまま食べようか」
白に黒い斑点がある果物はドラゴンフルーツというのか。
商家の令嬢であるため、博識だな。
顔がひきつっていたのか「食べたことない?南国の果物なんだけど、甘くて美味しいよ」と言われるたので「楽しみです」とだけ答えた。
果物より紅茶の味が心配だ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

『すり替えられた婚約、薔薇園の告白

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢シャーロットは幼馴染の公爵カルロスを想いながら、伯爵令嬢マリナの策で“騎士クリスとの婚約”へとすり替えられる。真面目なクリスは彼女の心が別にあると知りつつ、護るために名乗りを上げる。 社交界に流される噂、贈り物の入れ替え、夜会の罠――名誉と誇りの狭間で、言葉にできない愛は揺れる。薔薇園の告白が間に合えば、指輪は正しい指へ。間に合わなければ、永遠に 王城の噂が運命をすり替える。幼馴染の公爵、誇り高い騎士、そして策を巡らす伯爵令嬢。薔薇園で交わされる一言が、花嫁の未来を決める――誇りと愛が試される、切なくも凛とした宮廷ラブロマンス。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

処理中です...