ある雪の降る日に

喜市

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12話 シヴァンside

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俺は学生寮の玄関をくぐり、自室へと戻った。
シャワーを浴びた後、ベッド脇に腰掛け今日を振り返る。

「……。」

脳裏に浮かぶのは、先程まで一緒にいた少年で。

未だ手に残る彼の冷たい頬の感覚は、最後に見た少し潤んだ瞳でこちらを見つめる様子を思い出させる。

アンバーの大きな瞳は俺を捉えていて、寂しそうなその表情が。
思わず抱きしめそうになった本能になんとか抗い、そっと頬に手を添えた。


自分自身、なんでここまでこの少年に執着しているのか分からない。
ただ、今日見かけた瞬間あの子だって分かった。

新聞の奥から顔を上げ、俺と視線がぶつかる瞬間、あの時のように強く心を掴まれた。

『良かった。この子はまだ生きていたんだな。』

そう強く心の中で思った。

数年前に出会ったあの日。
瀕死状態で体を震わせる小さな少年は新雪の降り積もる丘の上に横たわっていた。

治癒魔法ヒールが使える俺は国の招集により、転移魔法をくぐり抜けて国境沿いの町に向かった。 

初めて降り立つ地は、真っ白な銀世界のような風景だった。
北に位置するこの国は冬の間、豪雪に見舞われており、初めて見る雪の量に驚いてしまう。

前衛は騎士団に任せ、俺のチームは町の人々の避難の誘導をするために向かった。
担架で負傷した人々を運んで行く。

木材ベースの家屋は先の奇襲作戦により、ごうごうと音を立てて燃え盛っている。

「ーーーおいっ、まずいぞっ!!!!早く避難だっ!」

前衛で攻防を重ねていた騎士の1人が声を上げた。
バッと上を見上げれば、そこには自然色に塗られた大砲が見えていた。

バクバクと心臓が鳴り、膝が鉛のように固まる。

(…動かなければっ!)

その場にいた人々を取り囲むように、隊員と知識を総動員して転移魔法陣を作る。

何とか町の人々を押し込み、転送させる。

人々の姿がフッと消える瞬間、


ドオォォォォォン!!!!!

「始まったっ!!!!」

発砲された玉は民家を次々と取り壊し、轟音を鳴り響かせている。

ビリビリと伝わる爆風に何とか耐える。

(あぁ、鼓膜がはち切れそうだ。…始まってしまった、戦争が。)

先の発砲により、風がいっそう強く、切り裂くように吹いた。

ふと、目線が横を向いた時、小さな人影のようなものが視界に入った。

「…っやばい、まだ人がいたのか!」

身を翻し、自身にバフをかけながら走っていく。

走り出してももう遅く、風は一瞬にしてその影の元へと届いてしまう。

その影は風により、見えなくなってしまった。





「あの後、救助できて本当に良かった。」

震える少年を抱え街に向かったあとも、ずっと少年のことが気に掛かっていた。

不謹慎かもしれないけれど、初めて会った時や今日の出来事からも、あの子は雪が良く似合う少年だと思った。

真っ黒で艶のある黒髪、それとは対照的で少し透明感のある真っ白で澄んだ肌。
照れると桃色に染まる頬はどんなやつから見たって情を掻き立てられるようなものだ。

あの出来事以来、多分俺はあの少年。フレイに惹かれている。

自覚した今、ますます沸き立つ想いに強く蓋をする。

(あんな事があったのに、こんな野郎から想いを寄せられるとか…。フレイだって嫌だろう。)

ただ、学園の中では優しい先輩であり続けよう。

そう思うことにして、ベッドの中に潜り込んだ。




窓の外は零下まで気温が下がり、細かな雪が街全体をゆっくりと白く塗り込んでいく。

あの日、出会った風景に重なるように。



    
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