先輩の全部、見せて

喜市

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前編

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「ーーーなぁ、澤村?」

「はい。どうしたんですか?先輩。」


この後輩は俺の方を振り返り、じっと目を合わせてくる。

ゴクッ、

自然と緊張で唾を飲みこむ。足が震えるんじゃないかってくらい緊張している。

フイッと視線を逸らし、相手の手元なんかを見ながら話を続ける。
とてもじゃないけど真正面から会話できるほど自分に余裕が無かった。

「あっ、あのさぁ澤村。その、この前の…こっ、告白?あれ返事がまだだったよな。」

なんつー話してんだまじで。いや本当にどうなってんだよ。


先日、俺はこの後輩から告白を受けた。

『…先輩、俺多田先輩の事好きです。もちろん恋愛感情の方で。もう無理です。限界、俺隠せないっすよ。』

むしろなんで先輩が気づかないんだろってくらい…

そう言って澤村は俺を見つめてきた。
真っ直ぐに真剣に、こっちを覗く瞳に嘘の色は無かった。

だからだろうか。心の中で逡巡した。すぐにNOなんて言えなかった。

こいつなら、意外とアリか。

なんて思いだって脳内を掠めてったくらい、そのくらい、澤村の言葉は俺にとってとてつもない影響力だった。


でも、今から俺はこいつを振る。
澤村はこんなところで道を間違えちゃいけない。

何故か少し胸が痛むが、これはきっと、人の好意を振るからだろう。
そう言い聞かせ、今日は使われていない会議室にこの後輩を呼んだ。

ちゃんと話をしよう。そう思って。


「はい。そうですね、でも先輩の気持ちが落ち着くまで、俺は待とうと思ってましたよ。」
  
うっ、心が痛む。自分の心を見透かされていたのかと思うと若干肝が冷える。
やはり男とはいえ後輩の好意を無下にするのは良心が痛むのだろう。

「…あの件、さ。俺、お前にはもっといい人が見つかると思うんだよね。」

「…は?」

流石190越え、威圧感MAXだ。俺なんて散々決意してこの場に来たのにもう帰りたくなってきたよ。
一旦深呼吸をして、一息で言ってしまおう。

俺は息を吸うと、口を開いた。

「俺みたいな30手前のリーマンじゃなくて、もっと若い子がお前にも合ってるって言ってんだよ。…そっちの方が絶対澤村だって幸せになれるだろ。あれじゃないか?教育係として澤村と接する機会が多かったから想いを勘違いしたとか…」


言いかけたその言葉は遮られた。

俺の口は澤村の手で抑えられ、頭上からとんでもない威圧感を向けられていた。

「んー!…」

声を上げ講義の意を示すも、この声は届いていないように見えた。
ギラギラとした視線がまとわりつき、俺は肩をビクつかせる。 

「…先輩。それ、本気っすか?まじで言ってんの?…アンタよりいい人って?先輩を諦めろって言ってるんすか?」


ただ口を抑えていただけの手に力が籠ったのが分かった。
グッと頬を捕まれ、無理やり上を向かされる。

怒っているのか、はたまた悲しいのか。いつものポーカーフェイスよりも感情のある表情がやけに気になった。

「なんですか、それ。…もしかして先輩には他に相手がいるんすか?だから俺の告白には答えられないってことですかっ!?」

ギチ…と手にまた力が篭もり、頬が痛くなる。

「いっ、…いひゃい」

目に涙を浮かべながらそう訴えると、澤村はハッとした顔をして手を離した。
解放された俺は腰が抜けたようにヘナヘナと床に座り込む。

「…あ、すっすいません!こんなことするはずじゃ、本当に違うんです!傷つけたかった訳じゃ!…」

パニックに陥る後輩を見て、少し冷静になってきた。
こいつ、本当に、正真正銘俺の事が好きなんだな。

馬鹿なことをした。

相手の気持ちを考えるなんてかっこ悪い建前なんか立てて、本当は傷つくのが嫌だったんだ。


あぁ、俺はなんて

「…ごめん。お前の気持ちをちゃんと受け止めてなくて。」

「…!やっぱり俺の事は無理なんすか。」

「いや!そうじゃなくて!…」

言うのが、怖い。関係性が変わってしまうのが、怖い。本当の自分を知っても、好きでいてくれるのだろうか?

「…そうじゃ、ない。俺に相手なんていないし、むしろ澤村の事は好きだ。けど怖かったんだ。俺はお前の想像とは違うかもしれないんだぞ?違ったら嫌われるんじゃないかって、怖くて…」

そこまで言い終えると、目線を下に落とす。

座り込んでいるため折り曲げた膝と、床に着いた手をじっと見つめる。

引かれたかな?こんなに女々しいやつなんだと幻滅しただろうか。

今顔を上げたら涙が溢れそうで、向けそうにない。

「ーーーっ」

頭上で息を飲む声が聞こえる。今度は俺が振られる番か。


グイッ

袖口が引っ張られ前のめりになる。

「…ぁっ、」

ポスッと澤村の胸の中に収まった。
その瞬間、酷い安心感がジーンと心の中に広がっていく感じがした。

「…ひぐっ、うっ、…」

思わず、澤村の腕の中で泣いてしまった。
ボロボロと流れ出る涙が澤村のスーツを濡らす。

それを気にもとめずに沢村は俺の事をぎゅっと抱き寄せた。

「…なんで泣いてんすか。好きですよ。ずっと好き。貴方がどんな人であっても、あなたを嫌いになることなんて無いです。」

ゆっくりと向き合う。
視線がぶつかって、潤んだ視界にぼんやりと澤村が写る。

困ったような、それでいて嬉しそうな。

「先輩…。」

そっと腰を引き寄せ、澤村は軽くキスをしてきた。
啄むような、でも何度も角度を変えて。

「…んっ、ふ、…」

思わず声が漏れてしまった俺は顔に熱が集まってくる感覚に思わず顔を背ける。


「…もっと見せてください。先輩のその恥ずかしそうな顔だって。なんだって。」
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