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第二章 天使
(二)
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一度帰って全速力で市場のおつかいを済ませ、もう一度家の扉を開くと、まだ母は帰ってきていなかった。そこまで焦らなくても良かったか。両親ともに祭りの打ち合わせで組合の会議に出かけており、店が休みだったのは助かった。
市場から持ち帰った仕込み用の食材を貯蔵庫に放り込むと、ララナはひとまず塩水を入れたグラスを持って、少年を寝かせておいた自分の部屋へと急ぐ。
驚かさないようそっと扉を開けると、少年はまだ眠っていた。顔色はだいぶ良くなり、今は苦しそうな様子もない。見たところ病院に駆け込まなければいけない症状やひどい怪我をした大変な状態ではなさそうでほっとする。
「ねえ、大丈夫?」
寝ているのを起こすのもかわいそうな気はしたが、今日は異様な猛暑日だったので脱水になっているといけない。ララナはぺちぺちと真っ白な頬を叩いた。
「ん……」
少年は一度寝返りを打ち、長い睫毛を揺らして瞬きをした。瞳が深紅だった。吸い込まれそうに深い。大きくて、透き通るような瞳だった。
「ここ……どこだ?」
目をこすりながら起き上がる。想像していたよりも低い声をしている。
「おまえ……誰だ?」
いぶかしげにララナを睨みすえた顔は、初めて真正面から見る顔は。
「俺?」
ララナにそっくりだった。
瞳の色も髪の色も違う。しかし、瞳の奥から向けられる深く凄烈な光は、ララナの瞳が持つそれだった。顔の形も、鼻の位置も、口の大きさどれを取っても、まるで生き写しのようにそっくりだった。
「私?」
目の前で鏡を見ているように、相手の口も動く。
「あぁおまえ、人間か。ここは、おまえの家?」
ララナは衝撃に囚われたまま、気持ち悪さを覚えながら答える。
「私の家よ。それよりもあなたは誰? どこからきたの?」
ララナは驚きのあまり相手に翼が生えているのを忘れて聞く。しかし少年はひと呼吸置くと、目をかっと見開いた。
「おまえの家⁉︎」
「だからそう言ってるじゃないの。それよりあなたは誰なのって聞いてるの」
ちょっと苛立ちながらも相手は病人だと思って大人しく聞き直すが、相手はララナの質問を無視して急に焦り出した。
「森は⁉︎ 俺、森の前にいたはずだよな⁉︎ それよりもピリトは⁉︎ やばい、今からでも……あぁっでも、もう行っても意味ないのかも! だって風⁉︎ あいつら何であんな……うあ、駄目だもう、俺、でも」
「はい止まる!」
たまりかねてララナは少年の前にずい、と手のひらを突き出した。ピタリと少年が固まり、口を閉じる。
「森の前で倒れてたところを私が連れて帰ってきたの。それでもって、お察しかつ私も言った通り、ここは私の家よ。で、日がもう暮れちゃうから闇雲に外に出るのはやめてね。倒れてたんだし。そしてそして、私の質問に答えていただきたいんだけれども」
「あ、ああ、悪い。ごめん」
止められて気力まで失ったのか、少年は床の上にへたりこんだ。
「俺は、天上から降りてきたんだ。聖気……あ、こっちでは天の使いって言うのか? 天使……妙ーな響きだなぁ。んな大層なもんでもねえのに。あ、つまりは下界に降りたんだけどな。で、名前はディレス」
市場から持ち帰った仕込み用の食材を貯蔵庫に放り込むと、ララナはひとまず塩水を入れたグラスを持って、少年を寝かせておいた自分の部屋へと急ぐ。
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いぶかしげにララナを睨みすえた顔は、初めて真正面から見る顔は。
「俺?」
ララナにそっくりだった。
瞳の色も髪の色も違う。しかし、瞳の奥から向けられる深く凄烈な光は、ララナの瞳が持つそれだった。顔の形も、鼻の位置も、口の大きさどれを取っても、まるで生き写しのようにそっくりだった。
「私?」
目の前で鏡を見ているように、相手の口も動く。
「あぁおまえ、人間か。ここは、おまえの家?」
ララナは衝撃に囚われたまま、気持ち悪さを覚えながら答える。
「私の家よ。それよりもあなたは誰? どこからきたの?」
ララナは驚きのあまり相手に翼が生えているのを忘れて聞く。しかし少年はひと呼吸置くと、目をかっと見開いた。
「おまえの家⁉︎」
「だからそう言ってるじゃないの。それよりあなたは誰なのって聞いてるの」
ちょっと苛立ちながらも相手は病人だと思って大人しく聞き直すが、相手はララナの質問を無視して急に焦り出した。
「森は⁉︎ 俺、森の前にいたはずだよな⁉︎ それよりもピリトは⁉︎ やばい、今からでも……あぁっでも、もう行っても意味ないのかも! だって風⁉︎ あいつら何であんな……うあ、駄目だもう、俺、でも」
「はい止まる!」
たまりかねてララナは少年の前にずい、と手のひらを突き出した。ピタリと少年が固まり、口を閉じる。
「森の前で倒れてたところを私が連れて帰ってきたの。それでもって、お察しかつ私も言った通り、ここは私の家よ。で、日がもう暮れちゃうから闇雲に外に出るのはやめてね。倒れてたんだし。そしてそして、私の質問に答えていただきたいんだけれども」
「あ、ああ、悪い。ごめん」
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