森の精霊 翼の天使

蜜柑桜

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第二章 天使

(四)

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 ——昼間、天使を見たな。
 部屋は暗い。いつの間にか眠ってしまったらしい。外は夕闇に包まれている。そろそろ店の客も多くなってくるだろう。それまでもう少し、まどろんでいたい。
 ——あの天使……あの子を呼んでた。
 寝返りをうつ。耳にまだ、あの透き通るような響きが残っていた。あの子の、苦しそうな声。それなのによく通る声。澄み切った水を思わせる声。
 天使は無事だろうか。誰かが助けてやっただろうか。気の荒れた風の圧にやられてはいないだろうか。
 そんなことを考えている自分に気が付いて、苦笑してしまう。嘲りに近い笑いだ。何を考えているのだろう。自分は彼を助けてやれたわけではないのに。むしろ、助けられずにその場を離れ、帰ってきたのに。
 いや、助けてはいけなかったんだ。助けたら、あの子が無事では済まない。
 無事では済まない? 悪いのは自分たちだというのに。あそこであの天使を助けたって、天使もあの子も、苦しめるだけだったのに。
 昼間の光景が目に浮かぶ。輝く翼。冷たい風。照りつける太陽。
 苦しそうな子供の顔。
 救ってやれなかった。
 天使と言ったって、地面に力なく倒れた小さな子供。それも救えない自分。結局のところ誰かを犠牲にして生きる自分。そんな人間のために、あの子が傷ついている。もしかしたら、いや、きっと、あの天使も。
 薄闇の中なのに、ベッドの横に置いた椅子の上から明るい光が部屋を照らす。手を伸ばしてその源を取り上げ、顔の上にかざした。
 白く輝く柔らかな羽根。あの天使の背にあったのと同じ、清らかな光。
 胸がずきずきと痛む。自分にしてやれることがないこと。それに今まで気が付いていなかった愚かさ。そんな自分たちの、全てが嫌になる。
 ちらりと窓の外を見る。森が今日もざわめいている。
 一番星が光った。
 すぐ横から声が聞こえそうだ。
「力を……貸して欲しいの」
 今でも耳に残って、息遣いまでも離れない響き。
 羽根を瞼に当てる。優しい肌触りは心地よいのに、たまらなく焦燥感が生まれた。
 勢いをつけて身を起こす。
 ——早くもっと、集めないと。
 輝きを握りしめ、そっと部屋を出た。
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