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3、ブラコンって呪いの言葉だよね
しおりを挟む「おーっす!恭ちゃん、おはよー」
「………おっす…」
机に突っ伏している俺に声をかけてきたのは七瀬 智則。通称トモ。
俺の前の席に座ってる男。
中学から一緒であの兄貴たちの存在を知ってもなお"自称"親友を名乗ってる強者だ。
てか、ただのバカなのかもしれないけど。
ちなみにこいつはサッカー部でフレンドリーというかお調子者というかアホなのでみんなに好かれている。
そこそこいい顔をしてるので女子にもモテるらしい。
「今日も朝からダッシュ?お疲れー」
「疲れたなんてもんじゃねぇよ…。何で毎朝毎朝精神的苦痛を受けなきゃなんねーんだ…。」
「まぁでも東雲兄弟の朝の追っかけっこがなかったら1日が始まるって感じしねーんだよなぁ。」
「………とりあえず、首絞めていい?」
「やだよ!!」
そうである。今日もまたいつものように追いかけ回されたのだ。
俺が家出る頃にはあいつらまだ着替えてないかと思ったのに、家出たら後ろから追ってくるし。
マジでいい加減にしてほしい。
義理とはいえ、なんで兄弟に追っかけられなきゃならないんだ。
女子ならまだしも男。
とりあえず殴りたい。そして警察に通報しに行きたい。
「そだ。恭ちゃんさー、サッカー部の助っ人来てくんねー?」
「無理」
「えー。そんなこと言わずにさ!ね?…1年生だけの練習試合があるんだけどエースが骨折しててさ…」
「知るかよ。てか補欠の奴、試合に出してやれよ。可哀想だろ。」
「あ、それは大丈夫。恭ちゃん誘ってって頼まれたんだもん。」
「…それはそれでどうなんだよ…」
頑張れよ、補欠…
なんのための補欠だよ。
「まぁもし?引き受けてくれんなら?夏休み中俺んとこに泊まらせてやってもいいけど~」
「…マジで?…やる」
夏休みといえば、学校がない。
みんな家でゴロゴロしたりゲームしたりアイス食べたりしておおいに楽しむはず。
でも俺は違う。
あの獣2人と家に居ろって?
冗談じゃない。
そんなん俺自らケツを献上しに行ってるのと同じじゃん。
とにかく何が何でも俺は家にいたくはない。
てかほんとは一人暮らししたかったんだけど、それを口に出したら兄さんたちはもちろん普段温厚で頭の中お花畑の母さんが極々稀に見る"触れた者みな論破モード"になって……
お義父さんまで「息子たちのことが嫌いなのか…?」ってしょぼくれ出して…
そんなこと言われたら一人暮らしなんて言い出せねーよ!!
あぁ、思い出すだけで頭痛が……
「お、恭ちゃんのおにー様たち今日も囲まれてんぞ」
言われて窓の外をチラッと見ると確かに兄2人が男女比率2:8の人の群れに囲まれている。
みんなそろそろ目を覚ませよ…
あれはただのレイプ未遂の変態だぞ。
顔はいいけど中身を見ろ、中身を。
……いや、もっとアタックして早く彼女作ってくれ。
誰かあいつらをおとせ。
睨むように見ていると2人がふとこちらを向いた。
ぶんぶんと手を振っている。
は?
「お、手ぇ振ってんじゃん」
「は?嘘だろ。この距離で見えるか?普通。おかしくね?え?人間の範疇超えてんじゃん。無理なんだけど。だって俺立ってるわけじゃねーんだよ?座ったままチラッと見ただけだぞ?え、なにそれ怖い」
窓に張り付いてる女子と男子はきゃーきゃー騒いでるけど俺にとっては恐怖でしかない。
ここ、何メートル離れてると思ってんだ……
「おーい!きょーーーー!!!今日も兄ちゃんたちと帰ろーなー!!!」
これだからヤなんだよ…!全校生徒の前で恥ずかしげもなく馬鹿みたいに醜態晒して…
悠にぃのバカでかい声になんかみんなきゃーきゃー言い出すし、窓に張り付いてる奴らが振り返って笑って喋りかけてくる。
「恭ー、お前の兄ちゃんたち、呼んでんぞ!」
違うね。俺じゃないキョウって名前の人間を呼んだだけにすぎないから。俺じゃないから。
「めっちゃぶんぶん手振ってんだけど、いいの?」
きっとあなたの幻覚でしょう。
「東雲くーん。おにーさん達が手招きしてるよ!」
それは地獄への誘惑ですから。行ったら最後、俺は死ぬ。
「うるせー……黙れって言っといて…」
「……お疲れ。…俺は味方だよ…」
トモがかわいそうな子を見る目で俺の肩をポンポンと叩いてきたので軽めに殴ったのは言うまでもない。
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