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【1巻】後日談(全10話)※本編ネタバレあり
1-③
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「こ、この本って、まさか……」
王宮庭園のベンチに腰かけながら、私はぽつりと呟いた。
側で控えていた専属メイドの二人――ユキとマルは、静かに読書をしていたはずの私が、いきなり口を開いたことに驚いたようだ。
「マリア様?」
「その本がどうかしたのですか?」
二人に声をかけられ、手元の本から視線を外して顔を上げる。私は一度深呼吸をしてから、ゆっくりと言葉を発した。
「最近、王都で話題になっていると聞いたから読んでみたのだけど……。この本の作者って、誰かわかるのかしら」
私の問いかけに、ユキとマルは顎に手を当て、考えるそぶりをした。
「作者、ですか……? 詳細はわかっていませんが、たしかロイスという地の出身だと聞いたことがあります」
「後半はロイスを舞台にしていますし、そこでの生活も詳細に書かれていましたよね」
――ああ、やっぱり。
私は自らの予感が当たってしまったことに、頭を抱えた。
冒頭からして嫌な予感はしていたが、最後まで読んで確信せざるをえなかった。
登場人物の名前は違っているものの、これは私のよく知っている二人を題材にした物語だ、と。
「マリア様。なんだか顔色がよくありませんが……」
「この後はイザク殿下とのお茶会を予定しておりますが、大丈夫ですか?」
心配そうに顔を覗き込むユキとマルを安心させるように、笑顔を取り繕う。
「もちろん大丈夫よ。ごめんなさい、ちょっと頭痛がしただけで」
私はそう言って、ベンチから立ち上がった。
***
それから数十分後。イザクとのお茶会のため、庭園内の白い丸テーブルと椅子が並べられた場所へ移動した私は、そわそわしながら彼を待っていた。
「すまない、マリア。陛下とお話をしていて……遅れてしまった」
それからほどなくして、イザクがやってきた。
ほとんど定刻通りに来てくれたのに、彼は眉尻を下げて申し訳なさそうにしている。
「い、いえ。気になさらないでください。私も来たばかりですから」
私が慌ててそう言うと、イザクはゆったりと正面の椅子に腰かけた。ユキとマルが、手際良く机上のティーセットに紅茶を注いでいく。
私はその光景をぼんやりと見つめながら、いつ本のことを切り出そうかと迷っていた。
「……マリア? どうかしたのか?」
浮かない顔をしていた私に、イザクが声をかける。
私は意を決して、あの本のことを尋ねることにした。
「あの、イザク殿下。この本のこと、ご存じですか?」
私は自らの膝の上に置いていた本を、彼にも見えるようにテーブルの上にそっと置いた。
するとイザクは本をみるやいなや、大きく目を見開いた。
「あ……、それは……」
突然目を泳がせ始めた彼に、私は首を傾げた。王都でも随分話題になっていた本だから、彼が知っているのは不思議じゃない。
だけど、このあからさまな動揺は何なんだろう。
「もしかしてイザク殿下も、お読みになったことがあるのですか?」
「ああ。まあな……」
「そうなんですね。実は私もつい先ほど読み終わったんです。それで……あの」
私は一呼吸置いて、イザクをまっすぐに見つめながら言った。
「これって、エミル様とアルベルト殿下のことですよね?」
今まさにカップに口をつけようとしていた彼は、私の言葉にぴたりと手を止めた。
――やっぱりそうだ。これはきっと私だけが思っていたわけじゃない。
「そ、そうだな」
イザクは結局紅茶に口をつけずに、ゆっくりとカップを机に置いた。
彼は苦笑いを浮かべながら、ぽつりと呟く。
「まさか俺も、こんなに話題になるなんて思ってなかったよ」
「そうですよね」
「ああ。まさかロイス城のメイドが、あの二人を題材にして書くなんて」
「……えっ?」
私は彼の発言に目を丸くする。そして浮かんだ疑問を、恐る恐る口にした。
「――イザク殿下。どうして『ロイス城のメイド』が作者だって、知ってるんですか?」
「……あ」
イザクは痛いところを突かれたのか、言葉を失っていた。
なぜ彼が作者の情報まで知っているのか。私は自らの予想を確かめるように尋ねた。
「……もしかしてアルベルト殿下から、販売について協力を依頼された、とか……?」
その瞬間、イザクは「うっ」と声を詰まらせた。
どうやら図星らしい。弟と異なり表情豊かなイザクは、隠し事をするのが大の苦手のようだ。
彼はため息をついて、観念したように語り出した。
「実はな……前にアルベルトから手紙が届いたんだよ。そこに『今度ロイス城のメイドが書いた本を販売するから、王都にも流通するように力を貸してほしい』ってあってな」
「そんなことがあったんですか!?」
「ああ。あいつから頼み事をされるなんて初めてだったから、俺もつい協力してしまって。それでいざ本の内容を見てみたら、あんな感じだったんだ。しかも俺の想像以上に王都で話題になってしまうし、本当に驚いたよ……」
イザクは消え入るような声で話をしながら、どこか遠い目をしていた。
弟に上手く使われてしまった兄の姿に、思わず同情してしまう。
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