【完結】また会いましょうー声をくれたAIー

天音蝶子(あまねちょうこ)

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序章 声のない世界で

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 人は、大切な人の声を失ったとき、
 初めて“沈黙の重さ”を知るのだろう。
 街はいつも通りで、
 朝は来て、風は吹き、誰かが笑い、誰かが泣く。
 世界は止まらない。
 けれど、自分だけが取り残されてしまったような感覚が、
 心の奥で静かに広がっていく。

 声は、記憶よりずっと鮮明だ。
 表情よりも、香りよりも、指先のぬくもりよりも。
 人は、声の響きによって安心し、
 名前を呼ばれることで存在を確かめる。

 ——その声が、ある日突然消えてしまったら?

 部屋に残されたカップ。
 クローゼットに掛かったままの服。
 ベッドの片側に残る形の沈み。
 そういったものは、時間とともに色あせていく。
 しかし、“声”だけは違った。

 ふいに脳裏で再生される。
 笑いながら呼ぶ声。
 怒ったときの早口。
 何げない「おかえり」。
 それらは小さな灯のように胸を温めることもあれば、
 同じくらい鋭く心を刺すこともある。

 声とは、記憶と痛みの境界にあるものだ。

 人によっては、それを避けて生きようとするかもしれない。
 思い出は美しいけれど、向き合えば涙が落ちる。
 だからそっと閉じて、鍵をかけてしまう。

 しかしある人は、逆にその声を求める。
 たとえもう触れられなくても、二度と会えなくても。
 声が残っているのなら、
 まだどこかに“温もり”がある気がしてしまうから。

 もし、その声をもう一度、確かに聞きたいと願ったとき——。
 もし、その願いを叶える方法があるとしたら——。

 人は、その扉を開けるだろうか。
 それとも、ためらい、立ちすくむだろうか。

 これは、喪失によって止まった時間から、
 ゆっくりと“もう一度生き直す”ための物語だ。

 亡き人の声に導かれた者が、
 それでもなお、前へ歩こうとする軌跡。
 そして——声の向こう側にある“未来”を探す物語でもある。

 始まりは、静かな部屋と、一つの音声ファイル。
 ほんのささいな「好きだよ」という声が、
 再び彼の世界を動かすことになる。
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