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第4話 芽生える嫉妬
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翌朝。
カーテンを開けると、外は一面の銀世界だった。
昨日よりさらに雪が深くて、空気まで凍ってるみたい。
「こんなところで一ヶ月……生きられるかな……」
ベッドの上で途方に暮れていたら、またしても例のノック。
「入るぞ」
だからノックの意味~~!
でも、入ってきたレオンを見ると文句が消えてしまう。
鎧の上から白い外套を羽織っていて、
今日も完全無欠の氷の騎士。
「朝食の前に確認したいことがある」
「え……な、なに?」
「昨日の動きだ。特に——距離」
あ、やっぱりそこ……。
レオンは平然と、私の手を取って言う。
「腕を組むのは問題なかった。だが……」
「だが?」
「頬が赤くなりすぎだ」
「うっ、それはレオンが近いからで……!」
「近くなくては意味がない」
また言い切った。
本当に揺らがない。
「君は“恋人らしさ”の演技が分かりやすい。
悪いことではないが……周囲に悟られる」
「えっ、悟られるって何を?」
レオンは少しだけ視線を逸らした。
「……動揺が」
は……?
「いやいやいや! 動揺は自然でしょ! 偽物の恋人なんだし!」
「本物の恋人でも、あそこまで顔に出る者は少ない」
「比べないで!!」
朝から心臓に悪い。
◆
朝食を終えて、廊下を歩いていると、
向こうから魔導士見習いの少年が走ってきた。
「お姉さん! 今日も綺麗だね!」
「ありがと……わっ!」
勢いよく来た少年が、私の手をつかみそうになった瞬間。
レオンの腕が私の前にすっと差し出された。
「触れるな」
声が低い。
昨日よりさらに温度が低い。
「え、触ってないよ!? ただ近づいただけ——」
「近づきすぎだ」
少年はびくっと立ち止まり、
私に助けを求める目を向けてくる。
「レ、レオン……怒りすぎ……」
「怒っていない」
完全に怒ってる時の顔だよ、それ。
「レオンさん、僕のこと嫌い……?」
「嫌いではない。だが“恋人役”に対する距離は守れ」
少年は「あ、はい……」と小さくなって逃げていった。
うう……ごめん、少年……。
レオンは何事もなかったように歩き出す。
「……レオン。あれ、嫉妬してない?」
「していない」
即答すぎる。
「じゃあなんであんなに冷たかったの?」
「必要以上の接触は危険だ」
うん、説明になってない。
「レオン、ちょっとは自覚したら?」
「何の自覚だ」
「私に……ちょっと……きつく当たってない?」
「当たっていない」
話が通じないタイプだ……!
◆
広間に着くと、ユリウスさんが壁にもたれながら言った。
「おー、今日もセットで行動中の偽装カップル。仲良さそうだな」
「仲良くは……いや、仲良くないわけじゃないけど……!」
「レオン、召喚嬢に嫉妬してただろ?」
「していない」
またそれ。
ユリウスさんは大袈裟にため息をついた。
「レオン、いいか? “触るな”って声の温度、完全に嫉妬だったぞ」
「違う」
「違わない」
「違う」
言い合ってるのに、レオンの手は私を自然に自分の横へ引き寄せている。
これ……バレバレでは?
ユリウスさんはニヤニヤが止まらない。
「レオンって、昔から好きな相手の前だけ制御バグるんだよな。あー懐かしい」
待ってそれ初耳!
「ちょちょちょ、好きって……誰の話……?」
レオンが低く言う。
「ユリウス。余計なことは言うな」
「はいはい、分かった分かった。
……にしても召喚嬢、あんた攻撃力高ぇな」
「私!? どこが!?」
「レオンがあれだけ態度乱すの珍しいんだわ」
その瞬間、レオンが私の腰をそっと押さえた。
さりげないのに、ドキッとする。
「歩く。訓練を中断するな」
「は、はい……」
ユリウスさんは笑いながら見送った。
「……あんたら絶対、本物になんだろうなぁ」
聞こえてるから!!
◆
訓練のあと、別室に移動して
今日の振る舞いの説明を受けることになった。
部屋に入った途端、レオンが手袋を外して言う。
「……寒いか?」
「ん……ちょっと」
「手を出せ」
言われるまま出すと、レオンがそっと包んだ。
え、ちょ、素手で……?
「冷たい」
「う、うん……」
「……温める」
指が絡む。
手のひらが重なる。
その瞬間、胸の奥が溶けるみたいに熱くなる。
「れ、レオン……手、近い……」
「恋人らしさの演技だ」
「え……えんぎ……?」
「嫌か?」
「……嫌じゃない……けど……」
「なら問題ない」
またそれ。
問題ないって何……。
ああもう、距離が近すぎて思考がぐちゃぐちゃ。
レオンは伏し目がちに私の手を包み続け、言った。
「……君は、よく震える」
「さ、寒いし……」
「怖い時も、同じだ」
その言葉に息が止まった。
だって昨日、魔物に近づかれたときのこと、レオン見てたの……?
「……俺の側にいればいい」
「……レオン……」
「離れようとするな」
声が低いのに、どこか切実で。
そのまま手を離さないレオンに、胸がぎゅっとなった。
◆
少しして、魔導士見習いの少年が書類を届けに来た。
「失礼しま——」
彼は扉を開けた瞬間、固まった。
そりゃそうだ。
レオンと私が向かい合って手を握ってる現場だよ。
「わ、わわ……あの、邪魔しちゃった……?」
「違う。演技の確認だ」
レオンが秒で答える。
少年はあからさまに安心して、私に笑いかけた。
「よかった……レオンさん、怒ってない……」
「怒っていない」
いや、昨日怒ってたよね!?
少年は書類を置きながら言った。
「お姉さん、今日はあんまり離れちゃだめだよ。
昨日みたいに魔物が外で暴れてるらしくて……」
レオンの手に力がこもる。
「詳細を言え」
「森のほうで……召喚の残滓が刺激されたとかで……」
少年が言いかけたところで、レオンが立ち上がった。
「……やはり君は放せない」
え?放せない?
「どういう……」
「危険が増している。俺の視界から外れるな」
そう言うとレオンは私の肩に手を置いた。
指先がわずかに震えている気がした。
……怖かったのは、レオンも同じなんじゃない?
「レオン……大丈夫だよ、私は——」
「大丈夫ではない」
食い気味だった。
氷のように冷たいはずの瞳が、
ほんの少しだけ熱を帯びていて。
その変化が、胸に深く刺さる。
「君を危険に晒すのは……耐えられない」
その言葉に、息が詰まった。
レオンがここまで言うなんて。
「……だから、離れるな」
静かな命令。
でも、その奥にあるものを感じてしまう。
もう、これは演技なのか本気なのか——
分からなくなってきた。
だけどひとつだけ確かなのは。
レオンの手は、
私の手を、絶対に離す気がなかった。
カーテンを開けると、外は一面の銀世界だった。
昨日よりさらに雪が深くて、空気まで凍ってるみたい。
「こんなところで一ヶ月……生きられるかな……」
ベッドの上で途方に暮れていたら、またしても例のノック。
「入るぞ」
だからノックの意味~~!
でも、入ってきたレオンを見ると文句が消えてしまう。
鎧の上から白い外套を羽織っていて、
今日も完全無欠の氷の騎士。
「朝食の前に確認したいことがある」
「え……な、なに?」
「昨日の動きだ。特に——距離」
あ、やっぱりそこ……。
レオンは平然と、私の手を取って言う。
「腕を組むのは問題なかった。だが……」
「だが?」
「頬が赤くなりすぎだ」
「うっ、それはレオンが近いからで……!」
「近くなくては意味がない」
また言い切った。
本当に揺らがない。
「君は“恋人らしさ”の演技が分かりやすい。
悪いことではないが……周囲に悟られる」
「えっ、悟られるって何を?」
レオンは少しだけ視線を逸らした。
「……動揺が」
は……?
「いやいやいや! 動揺は自然でしょ! 偽物の恋人なんだし!」
「本物の恋人でも、あそこまで顔に出る者は少ない」
「比べないで!!」
朝から心臓に悪い。
◆
朝食を終えて、廊下を歩いていると、
向こうから魔導士見習いの少年が走ってきた。
「お姉さん! 今日も綺麗だね!」
「ありがと……わっ!」
勢いよく来た少年が、私の手をつかみそうになった瞬間。
レオンの腕が私の前にすっと差し出された。
「触れるな」
声が低い。
昨日よりさらに温度が低い。
「え、触ってないよ!? ただ近づいただけ——」
「近づきすぎだ」
少年はびくっと立ち止まり、
私に助けを求める目を向けてくる。
「レ、レオン……怒りすぎ……」
「怒っていない」
完全に怒ってる時の顔だよ、それ。
「レオンさん、僕のこと嫌い……?」
「嫌いではない。だが“恋人役”に対する距離は守れ」
少年は「あ、はい……」と小さくなって逃げていった。
うう……ごめん、少年……。
レオンは何事もなかったように歩き出す。
「……レオン。あれ、嫉妬してない?」
「していない」
即答すぎる。
「じゃあなんであんなに冷たかったの?」
「必要以上の接触は危険だ」
うん、説明になってない。
「レオン、ちょっとは自覚したら?」
「何の自覚だ」
「私に……ちょっと……きつく当たってない?」
「当たっていない」
話が通じないタイプだ……!
◆
広間に着くと、ユリウスさんが壁にもたれながら言った。
「おー、今日もセットで行動中の偽装カップル。仲良さそうだな」
「仲良くは……いや、仲良くないわけじゃないけど……!」
「レオン、召喚嬢に嫉妬してただろ?」
「していない」
またそれ。
ユリウスさんは大袈裟にため息をついた。
「レオン、いいか? “触るな”って声の温度、完全に嫉妬だったぞ」
「違う」
「違わない」
「違う」
言い合ってるのに、レオンの手は私を自然に自分の横へ引き寄せている。
これ……バレバレでは?
ユリウスさんはニヤニヤが止まらない。
「レオンって、昔から好きな相手の前だけ制御バグるんだよな。あー懐かしい」
待ってそれ初耳!
「ちょちょちょ、好きって……誰の話……?」
レオンが低く言う。
「ユリウス。余計なことは言うな」
「はいはい、分かった分かった。
……にしても召喚嬢、あんた攻撃力高ぇな」
「私!? どこが!?」
「レオンがあれだけ態度乱すの珍しいんだわ」
その瞬間、レオンが私の腰をそっと押さえた。
さりげないのに、ドキッとする。
「歩く。訓練を中断するな」
「は、はい……」
ユリウスさんは笑いながら見送った。
「……あんたら絶対、本物になんだろうなぁ」
聞こえてるから!!
◆
訓練のあと、別室に移動して
今日の振る舞いの説明を受けることになった。
部屋に入った途端、レオンが手袋を外して言う。
「……寒いか?」
「ん……ちょっと」
「手を出せ」
言われるまま出すと、レオンがそっと包んだ。
え、ちょ、素手で……?
「冷たい」
「う、うん……」
「……温める」
指が絡む。
手のひらが重なる。
その瞬間、胸の奥が溶けるみたいに熱くなる。
「れ、レオン……手、近い……」
「恋人らしさの演技だ」
「え……えんぎ……?」
「嫌か?」
「……嫌じゃない……けど……」
「なら問題ない」
またそれ。
問題ないって何……。
ああもう、距離が近すぎて思考がぐちゃぐちゃ。
レオンは伏し目がちに私の手を包み続け、言った。
「……君は、よく震える」
「さ、寒いし……」
「怖い時も、同じだ」
その言葉に息が止まった。
だって昨日、魔物に近づかれたときのこと、レオン見てたの……?
「……俺の側にいればいい」
「……レオン……」
「離れようとするな」
声が低いのに、どこか切実で。
そのまま手を離さないレオンに、胸がぎゅっとなった。
◆
少しして、魔導士見習いの少年が書類を届けに来た。
「失礼しま——」
彼は扉を開けた瞬間、固まった。
そりゃそうだ。
レオンと私が向かい合って手を握ってる現場だよ。
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「違う。演技の確認だ」
レオンが秒で答える。
少年はあからさまに安心して、私に笑いかけた。
「よかった……レオンさん、怒ってない……」
「怒っていない」
いや、昨日怒ってたよね!?
少年は書類を置きながら言った。
「お姉さん、今日はあんまり離れちゃだめだよ。
昨日みたいに魔物が外で暴れてるらしくて……」
レオンの手に力がこもる。
「詳細を言え」
「森のほうで……召喚の残滓が刺激されたとかで……」
少年が言いかけたところで、レオンが立ち上がった。
「……やはり君は放せない」
え?放せない?
「どういう……」
「危険が増している。俺の視界から外れるな」
そう言うとレオンは私の肩に手を置いた。
指先がわずかに震えている気がした。
……怖かったのは、レオンも同じなんじゃない?
「レオン……大丈夫だよ、私は——」
「大丈夫ではない」
食い気味だった。
氷のように冷たいはずの瞳が、
ほんの少しだけ熱を帯びていて。
その変化が、胸に深く刺さる。
「君を危険に晒すのは……耐えられない」
その言葉に、息が詰まった。
レオンがここまで言うなんて。
「……だから、離れるな」
静かな命令。
でも、その奥にあるものを感じてしまう。
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