歌舞伎町のかさぶたホームレス

ゆずまる

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6.突入

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ぎゅるるるる~~~。

緊迫した空間に鳴り響いたのは、あまりにも場違いな音だった。

「あっ……ごめんごめん気にしないで」

ホームレスになってから内臓の機能なんてとっくに死んでると思っていたけど。
昨日バームクーヘンやら何やらをつまんだせいか、思い出したかのように胃が空腹を訴えかけていた。

「カツキさん……ッ!」

ぎゅうううう~~。

「ぶふっ……くふっ、いやほんとゴメン、止まんなくって……ふふっ」

シリアスな空気をぶっ壊すあんまりにも情けない音に、つい自分で吹き出してしまった。どうして人はこう、笑っちゃいけない場面になると逆に我慢が効かなくなるのか。
半裸で腹を鳴らしながら笑い転げる俺に、兄ちゃんははあぁと深いため息をついた。そして覆い被さっていた身体を引っ込めるとポケットからスマホを取り出し、ついついと操作する。

「フードデリバリーを注文しました。あと二十分我慢できますか?」
「え、ご飯?ヤッター!」

ありがとう胃袋。一時的とはいえ尻穴が大事故になるのは防げたようだ。
それにしても、最近は出前も進化しているなぁ。昔は電話であれこれ説明して住所も言って……と、いっそお店まで食べに行った方が断然早いじゃんなんて思っていたけどこれは驚いた。しかもたった二十分で届けてくれるらしい。

うん、たった二十分。早いけど、遅い。
お陰でご飯が届くまでの空白の時間を、ただリビングでぼうっとして過ごすはめになっている。
兄ちゃんは俺の挙動をじっと見つめたままで居心地が悪い。
さて、どうしたものか。世間話って空気でもないしテレビも置いていない。こんな時、良い時間の潰し方がわからない。
あ、そうだ。

「そういや兄ちゃん、お風呂沸いてるって言ってたよね?」

◇◇◇

僅かに残った布きれをぽいぽい脱ぎ捨て、浴室に足を踏み入れた。中は暖かな湯気で煙っている。
広い浴槽にカビ一つ無いタイル、ピカピカに磨かれた鏡に映る貧相できったないおじさん。
なんてアンバランスな光景だ。

「風呂なんていつぶりかねぇ」

浴槽の蓋を開けると、兄ちゃんの言っていた通りなみなみと湯が張られていた。
シャワーを捻ると冷たい水が身体を打ったが、暫くすると徐々に暖かいお湯に代わり始める。個人的にはもっと火傷するくらいのあっつい温度が好みなんだけど、お湯で身体を流せるだけ贅沢だから文句も言っていられない。

とりあえずベタベタの髪から洗うか。
そう思い適当に髪を濡らしたまではいいものの、棚を見渡しても目当てのものがなかなか見付からない。
仕方なく浴室から外に向かって声を掛けた。

「兄ちゃ~ん、ここ石鹸ないのぉ?」
「石鹸ですか?ラックにはシャンプーからボディソープまで一通り揃えてはありますが」

扉越しに兄ちゃんの声が返ってくる。丁度脱衣所で俺の為に服やらタオルやらを用意してくれていたようだ。

「いや、おじさん石鹸がいいのよ。無いなら水だけでいいけどね」

たっかそうなシャンプーとか勿体なくて使えないし、と付け加える。石鹸なら一つで全身が洗えて便利だし楽だからね。

すると僅かな沈黙の後、何やらどたばたと騒がしい音がし、間もなくして浴室の扉がバンッと開かれた。

「カツキさん!!」
「うわぁ兄ちゃんのえっち!」

なんということでしょう、全裸の兄ちゃんが突撃してきたではありませんか。
この光景デジャヴだなぁ、なんて呑気に考えている場合じゃない。兄ちゃんは当たり前のように中に侵入してくると扉を閉め、俺に詰め寄ってくる。

「全身を石鹸だけで洗うつもりですか?駄目です許しません」
「ええ~そういうの気にするタイプ?」
「代わりに僕が洗うのでそこに座ってて下さい」

さっきはシャワーも浴びせずフェラさせた癖に潔癖なのか何なのかイマイチ理解できない。
それにしてもいきなり全裸で突入する?この子自分の裸体を人に見られることに一切抵抗とか無いのかな。

「というかご飯は?受け取らなくて大丈夫?」
「支払いはクレジットで済ませていますし、基本宅配の受け取りはコンシェルジュに一任しているので問題ありませんよ」

コンシェ……どうのこうのはよく分からないけど、やけに準備がいいな。もしかして最初から一緒に入るつもりだったりして。

「貴方には僕と同じものを使って貰わないと。身体の隅から隅まで僕と同じ香りにしたいんです」
「それが目的かい!」
「いいから座ってて下さい」

兄ちゃんは騒ぐ俺をあしらって無理矢理椅子に座らせると、お高そうなシャンプーを手にとり始めた。それも、シュコシュコシュコシュコとドン引きするくらいプッシュして。

「ちょ、そんなに使ったら勿体ないって!ストップストッ……ぎゃっ!」

逃げようとする頭をガシッと捕まれる。さっきからなんでもかんでも強引過ぎるんだよ、この子は!

「大人しくして下さいね」
「へいへい……」

抵抗しても無駄か、と諦め言われた通り大人しく座ると、兄ちゃんは優しい手つきで俺の伸びきったロン毛を洗い始めた。

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