歌舞伎町のかさぶたホームレス

ゆずまる

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16.張り込み捜査

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「はぁ……はぁ……や、やっと着いた……!」

部屋を出てから約40分、ようやく辿り着いた彼の職場であるビルを前に安堵のため息を漏らした。

ジロちゃんの尾行は始めこそ順調だったが、駅のホームに入ってからが大変だった。
通勤ラッシュで溢れかえる人々、その合間をぬって自動券売機まで着いたはいいものの、彼が下車する駅がわからずどのきっぷを買えばいいのか悩まされることになった。そうこうしているうちにどんどん遠ざかっていくジロちゃんを追いかけるべく、結局一番高いものを買ってしまった。ごめんジロちゃん。

なんとかきっぷを手にようやく電車に乗れたと思ったら今度は絶え間なく人が乗ってきて、押し潰されて死ぬかと思った。
唯一良かったのは人が多いお陰でうまく隠れることができたくらいで、髪はぐちゃぐちゃになるわ体力持ってかれるわでもう二度と乗りたくない。世の中の社会人はよくあんな地獄の中通勤してるなぁ。おじさんには絶対無理。

そんな中、ジロちゃんは人混みをものともせず背筋をすっと伸ばしてしゃきしゃきと歩いていた。ああやって客観的に見ると如何にも仕事ができそうな若きエリートって感じだ。誰もあれがホームレスにご執心なんて思わないだろう。

そうして到着したジロちゃんの職場は大方予想通り、俺みたいな世間知らずでも一度は聞いたことがある商社の名前が堂々と掲げられていた。
おじさん一人を養えるほどの財力があるのだから大手に勤めているとは思っていたけど、こうしていざ職場を前にするとあんな変人が本当に社会人として働けているのか甚だ疑問だ。ホームレスに言われたくないだろうけど。

ジロちゃんの職場を知れたのはいいものの、カツキさんに関する情報は相変わらずゼロ。彼の話を信じるなら同じ企業に勤めているということだが、真相はまだわからない。

せめてカツキさんが所属している部署だけでもわかればと、ジロちゃんに何度か聞いてみたりしたけど何の成果も得られなかった。というか、正確に言えばまともな会話にならなかった。
彼からすれば『カツキさんがカツキさんのことを知りたがっている』という状況なのだから、会話が成立しないのも仕方ない。話そうとすればするほど俺の方がおかしいのかな?と頭が混乱してくるので諦めた。
だからこそ、こうして自分の足で確かめるしかないんだけどね。

ここまで来たら、後は物陰から俺に似ているスポーツ刈りの中年を探すだけだ。

それらしき人物を見つけたら知り合いを装って声を掛けてみて、カツキさんかどうかを確認する。
そこから先はあまり考えてはいない。もし本物のカツキさんを見つけたとして、彼に「あんたのせいで監禁されてるから助けてくれ!」なーんて言ったところで、やばいおっさん扱いされて警察に連れていかれるのがオチだ。どうせホームレスの中年なんて警察もまともに取り合ってくれないだろう。

だから今日の目標はカツキさんが実在するかどうかを確認する、その一点に尽きる。

それが確認できたならジロちゃんの話にも多少信憑性が出てくるし、彼に対するアプローチを変えることで解放される日が近付くかもしれない。
かなり無理のある作戦だけど、何もせずあの部屋で過ごすよりはずっとマシだ。

◇◇◇

あれから何時間たっただろうか。
未だそれらしき人物は現れないし、ついでに腹も減ってきた。昼飯持ってくればよかったな。

「ねぇ、あの人……」

それよりさっきから冷やか~な視線を感じる。主に若い奥様方からの。

「恐くない?さっきからずっとこの辺りうろうろしてるし……」

うわ、おじさん完全に怪しまれてる。そりゃキラキラ人間達を物陰から覗くマスクにスウェット姿の中年なんて誰が見たって怪しいだろうけどさぁ。そんな冷たい視線向けなくたっていいじゃん。
長らく歌舞伎町の酔っ払い人間としか面識がなかったせいで、昼の世界で生活するまともな人間様の恐ろしさったらない。流石俺とは違う世界の住民だ。

あまり長居は出来そうにないけど、腹が減ったということはもうすぐ昼になるということ、即ちチャンスだ。
昼休憩になれば、周辺の飲食店を利用する社員が職場から出入りするだろう。
中に入れない俺にとってこの時間はカツキさんを見つける唯一のチャンスタイムだ。

しばらくすると予想通り、ビルからぞろぞろと人が出入りし始めた。
カツキさんが社員食堂を利用しないタイプであることを祈りつつ物陰に隠れてじっと様子を伺う。
頼む、出てきてくれ……スポーツ刈りの男……!

しかしいくら待てどそれらしき人物は現れない。出てくる男はチャラチャラしたお洒落パーマばかりだ。流石大手企業というか、年配者すら揃いも揃って洒落た髪型をしている。もっと古風なスポーツ刈りの男はいないのかよ!

焦る気持ちに反して時間は刻一刻と過ぎていく。

「ねぇちょっと、さっきの男の人まだいるんだけど……」

俺を遠巻きにヒソヒソと話していた奥様集団もいつの間にか増えてるし。まずいな、俺の存在がどんどん認知され始めている。これ以上居座っては危険だろう。

諦めて一旦その場を離れようとした、その時だった。

「それで、そん時のプレゼンの内容がさぁ~……」
「えー、本当かよ」

横を通りすぎていった二人組の男に思わず振り返る。

片方は、見事なまでのスポーツ刈りだった。

一瞬のことで顔はよく見ていない。でもこんなチャンス、次はもう無いかもしれない。絶対に逃してたまるか。

ええい行ったれ!!

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