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18. エスコートをして欲しいのは
しおりを挟む暫く口を開け閉めしていたジェレミーは、意を決したように拳を握りしめた。
そして背筋を伸ばし、姿勢を正してから私に向き直る。
「実は、近々美香の歓迎式典を行うことになったんだ。天使が我が国に訪れたことを民たちに報告して喜びを分かち合う為の式典なんだが……」
「へぇー。そんなのがあるんだね。なんだか申し訳ないけど、それも私の天使としての務めなんだね?」
きっと神の使いである天使が舞い降りたと分かれば、国民も喜んでこの国の王族の求心力も高まるとかそんな話なんだろうなぁ。
本当に私で良いのなら、みんなの希望になれたら嬉しいな。
「まあ、それはそうなんだが。そこでだ、その式典に美香をエスコートする役が必要で……。本来なら王太子である兄上でいいのだが、……できれば俺にさせて欲しいと思ってな。美香が望むなら国王陛下も兄上も反対はしない。どうだろうか?」
ああ、またジェレミーに黒いワンコのような耳と尻尾が見える!
なんでそんな懇願するようにキラキラと金の目を潤ませてるのー!
それにしても、エスコートか……。
私だって、できればジェレミーにして欲しい。
だって私は……。
私は?
あれ、何だっけ? 私は……?
「私も、ジェレミーにエスコートしてもらいたい。きっと慣れない場で心細いから、ジェレミーが傍でいてくれたら安心すると思う」
素直にそう思ったから、ジェレミーにそのまま伝えた。
ジェレミーは見えない黒耳をピンと立てて尻尾をフリフリする様に見えた。
「そうか! それなら早速陛下に報告してこよう。美香、王城内は安全だとは思うがあまり遠くへは出ないように。リタと共に出かけるのならば、ある程度自由にしても良いからな。部屋で過ごすばかりでは気が滅入ってしまうだろう」
「ありがとう。また服が出来たらお城の外にも行けるもんね?」
「そうだな、その時は俺が共に出かけよう」
どこか浮き足立ったジェレミーは、部屋から出て陛下のところへと向かった。
「なんですと! 了承された? それはそれは、誠におめでとうございます! それでは、早速陛下の元へ報告を!」
扉の向こうから、ものすごく興奮した様子のモーリスの声が聞こえてきた。
部屋の外で待機していたモーリスもジェレミーに追従して、陛下のところへ向かったようだ。
なんだか私は気恥ずかしくなって、ずっと壁に張り付いて家具のようになっていたリタに笑いかけた。
「ジェレミーったら、大袈裟だよね。なにかと思ったら……」
リタは出来る侍女だから、いつもこうやって気配を隠して壁に張り付いている。
そりゃあそうだよね、一国の王子様とよく分からない出自の娘が二人きりにならないようにするのは当たり前。
前に一度尋ねたら、どこの貴族や王族に仕える使用人も同じように壁に張り付いて家具のように気配を隠すことができるんだって。
そういえばお姉ちゃんの悪役令嬢を書いた小説でも……。
お姉ちゃんの小説? えっと、何だっけ?
最近記憶がぽっかり抜けたようになって、途中まで思い出してるのに何故か良く分からなくなることが多い。
なんだかモヤモヤして気持ち悪いような気もする。
「美香様、もし宜しければ今から庭園をご案内しましょうか?」
「あ、うん。そうだね。色々な花が咲いてて綺麗だったなぁ。もう走り回らないようにしないとね」
「え? 走り回る?」
「ああ! ごめん、こっちの話!」
リタはいつも笑顔で私のことを優しく気遣ってくれる。
まるでお姉さんのようで落ち着くんだ。
まだ会って間がないのに、不思議な気持ち。
前に訪れた時にはとにかく必死で走り抜けた庭園は、ゆっくり見れたらどんな美しい場所なんだろう?
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