19 / 33
19. ロレシオの悩み
しおりを挟む庭園に出かけることになってリタと共に廊下に出た時に、私の部屋の方へと歩いてくるロレシオが目に入る。
「ロレシオ?」
「美香様、どこかお出かけですか?」
銀の長髪をサラリと揺らして正統派イケメンのロレシオが笑顔で声を掛けてくる。
スラリと伸びた体躯も、整った顔立ちも、いかにも王子様といった感じのロレシオはジェレミーとは違って何を考えているのかよく分からない。
「今から庭園の散策に行こうと思ってました」
「そうですか。よろしければご一緒しても? ちょうど美香様にお話があったのです」
「話ですか? 構いませんけど」
私に何の話だろう?
ロレシオはエスコートの為に私に向かって腕を差し出したが、私はそのような習慣には慣れていないからと断った。
慣れないヒールとドレスだけでも歩くのが大変なのに、ロレシオと腕を組んで歩くなんて到底できそうもなかったからだ。
リタとロレシオの侍従は後方の少し離れたところからついてきている。
私とロレシオは庭園の中をゆっくりと歩いて色とりどりの花々を楽しんだ。
そして噴水の見えるガゼボの椅子に腰掛けて休憩を取ることにした。
「それで、お話って何でしょうか?」
「……美香様は、私との時間は苦痛ですか?」
「え?」
悲しげに眉を下げたロレシオは、赤紫色の瞳を真っ直ぐに私の方へと向ける。
何でそんなことを聞くんだろう?
「ジェレミーとは、すぐに打ち解けられたようですが……。私とは距離がある気がしてならないのです」
「それは……! ジェレミーは私を見つけてくれたし、それに……」
それに?
「それに? 何ですか?」
「いえ、何でもありません。でも、ロレシオのことを嫌っているとかそのようなこともないんです。貴方はこの国の立派な王太子殿下ではないですか」
私は答えになっているようななっていないような、曖昧なことを言ってしまった。
まさかジェレミーから告白されていることなど話せない。
それに、アニエスのことを好きではないロレシオという人間がどのような人なのか私には全く分からないから。
「……立派な王太子ですか。神の使いである美香様は私のことを以前からご存知でしたか?」
「……ほんの少しですが」
「それならば、私の悩みもご存知ですか?」
「悩み?」
こんな完璧な王太子でいるロレシオに悩み?
アニエスのことでもないとしたら、一体?
「私は弟であるジェレミーが妬ましい。私は王太子でありながら、父である国王陛下の色味を全く引き継がなかった。反対に、ジェレミーは完全に国王陛下の色味を持っている。私はそれがとても妬ましいのです」
「でも、王太子殿下が王妃様の色味をお持ちになられているのは当然のことではないですか。だって子どもは二人の親から生まれるのですから。私も父親に似たら背が高くて大人っぽい顔立ちだったのに、母親に似たから背も低くて顔立ちも幼いんですよ。でも、それって当たり前だし仕方ないコトじゃないですか?」
私も『お姉ちゃんみたいにお父さん似だったら、背が高くて大人っぽい顔立ちだったのに』って思ったことがあった。
でもお姉ちゃんから『美香はお母さんに似て可愛らしいから羨ましい』って言われて……。
それって無い物ねだりなんだなって気づいたから。
「仕方ないこと……ですか?」
「そうです。無い物ねだりですよ。きっと、ジェレミーも王太子殿下のこと羨ましいって思ってると思います。王太子殿下の話をする時のジェレミーは、とても誇らしげですから」
ジェレミーと話してて、王太子の職務を全うするロレシオを誇りに思ってるような気がしたんだ。
「……そうですか。無い物ねだり、ね。そうかも知れません。美香様、ありがとうございました。喉のつかえが取れた気がします」
穏やかに笑ったロレシオは、とても美しくて華やかだった。
男の人なのに、何でこんなに綺麗なんだろう……。
「無い物ねだりついでに言いますが、私は美香様がジェレミーのものになってしまいそうなことについても随分と妬ましいと思っているのですよ」
「へっ?」
思わずとっても間抜けな声で聞き返してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
攻略なんてしませんから!
梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです!
【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/
閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。
此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。
*攻略なんてしませんから!別ルート始めました。
【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる