かわいい猛毒の子

蓮恭

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16. 閉鎖病棟

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 カフェを出た後すぐに病院に戻った私と高橋主任は、退職届を師長宛に提出した。思わぬ展開になったけれど、背中を押してくれた主任には感謝の気持ちしかない。

 病院の駐車場で主任と別れると、張り詰めていた気がふっと緩む。途端に夜勤明けの睡魔が遠慮なしに襲ってきた。

 姉のところへ行かなければならないけれど、このまま運転するのは危険と判断し、車の中で仮眠を取る事にした。
 夜勤明けで実家に寄る前にも、こうやって駐車場で一時間ほど仮眠を取っていたので、助手席には仮眠用のブランケットを常備していた。

 アラームを一時間先にセットしてシートを倒し、窓から射し込む眩しさを遮る為に、右腕で両目を覆い隠すようにしてから瞼を閉じる。
 やがて訪れたのは深い海へ沈み込むような、何とも心地良い感覚。睡魔に身を任せ、素直に意識を手放した。

 ――ピピピ……ピピピ……
 
 遠くに聞こえる電子音が段々とこちらへと近づいてくる。
 手探りで探したスマホのアラームを切って、何度か瞬きをした。夜勤明けにしっかり一時間寝ると、私の場合は随分頭がすっきりとする。

 いつもならばこの後実家にカナちゃんの子守りに行くのだが、今日は車で四十分ほどのところにある精神科の病院へと向かう。
 
 そこは姉が勤めていたのとは違う病院で、場所自体は知っていたものの勿論行った事は無い。病気の姉と会う事に加え、あまり馴染みのない病院へ行く事に幾らかの緊張を覚える。
 もう一度、ぎゅっと目を瞑ってから大きく目を見開く。私が仮眠している間に、周囲に駐車していた車はそのほとんどが別の車に入れ替わっていた。

「行こう」

 駐車場の出口では、いつも曲がるのと反対方向へハンドルを切った。

 国道沿いに設置された青い看板には、新一から聞いた病院名が書かれていた。矢印に沿って交差点を曲がると、すぐに専用駐車場が見えてくる。
 そこにはすでに多くの車が停まっていて、様々な年齢層の人が行き来していた。

 どうやらこの病院は外来患者も多いようだ。建物の外観は非常に立派なもので、自分の勤めている病院よりも新しくて明るい印象を受けた。
 
「ご面会の方へ……」
 
 玄関ホールの自動ドアをくぐると、面会者向けの大きな案内板に従って院内を進む。
 
 面会の際には通常の外来診療とは別の場所で受付をするらしい。面会票に必要事項を記入するのだが、家族以外の面会は出来ないとの事で続柄を記入する欄がある。
 あの日新一から聞いた時は、姉が精神科の閉鎖病棟に入院しているなんて俄かには信じがたい事だった。自由奔放な姉が、こんなところで本当に大人しく入院しているのだろうか。
 
「そこの赤線に沿ってお進みください。進んだ先でチャイムを押すとナースステーションに繋がりますから、出てきた看護師に面会票をお渡しください」
 
 穴開きの透明板で遮られた受付窓口に座る中年男性は、無表情かつ機械的な言葉でそう伝えると、左手で床に施された赤線を示す。
 よく知る外来受付の雰囲気とは全く違う、どことなく緊張感を孕んだ窓口の造りと慣れないシステムが、居心地の悪さを感じさせた。
 
「どうも、ありがとうございました」
 
 軽く頭を下げてから床の赤線に沿って建物内を進んで行く。
 よく人間ドックや健診の時に床の色線に沿って各検査室を回るように患者に伝えるが、自分には患者側の経験が無かったのでこれは初めての事だ。
 
 吹き抜けになった高い天井、廊下の左手にある大きな窓からは、夜勤明けの身体には少々眩し過ぎるほどの太陽光が降り注いでいた。
 通路のところどころには落ち着いた雰囲気の様々な絵画や、なだらかな曲線を描いた花瓶、彫刻などが飾られている。
 もしかすると、視覚から癒しを与えようという事かもしれない。

 病院の入り口にある大きな額縁に、この病院の基本理念や基本方針が書かれてあった事を思い出す。
 そこで『人間愛』を大きく掲げていたのが印象的だった。
 
「人間愛……」
 
 ここに入院している姉には、優しさとか思いやりなんていう感情があるのだろうか。
 そう考えているうちに、ひとりでに苦笑いが漏れた。

 平日だからか、面会をする人は少ないようだ。あの無表情な受付の男性以外には誰にも会う事なく、カーブを描く廊下の先に現れた無機質な扉の前に到着した。
 
 一見すると金属製の自動ドアのような外観ではあるが、ただ前に立っても開く事はない。
 備え付けられたインターホンを鳴らして暫くすると、扉の向こうからニコニコと眩しい笑顔を振り撒きながら、私よりも若そうに見える若い看護師が現れた。

「すみません。これ、お願いします」

 不慣れな状況に少々緊張しながらも面会票を手渡すと、長々とした説明と注意事項を話した後に、やっと姉が入院している部屋番号を教えてくれた。
 
 明るい色調の病棟は、少し複雑な造りをしている上に随分と広いようだ。
 看護師はいくつかのデイルームや休憩場所のようなスペース、多くの病室の前を通り、グルリとその辺りの案内まで終えると、姉の病室の近くで立ち止まる。
 
「帰る時にはまたナースステーションに声を掛けてくださいね」
「ありがとうございます」
 
 愛想の良い笑顔を浮かべながらも、ここに来るまでに看護師の眼差しはじっとこちらを注視している事があった。
 特殊な病棟でもあるし、患者や面会人の様子を常に気にかけているのだろう。けれど、その鷹のような視線にはどうしてもバツの悪さを覚えてしまう。

 もちろん精神科の閉鎖病棟ともなれば一般病棟と違って注意しなければならない事も格段に多く、その分気苦労も多いというのは理解できる。
 これまでにも大変な事象があったりしたのかも知れない。
 
 姉が今の職場に変わる前は、長らく精神科の閉鎖病棟に勤めていた。
 それこそ新卒からずっと精神科の病院勤めで、「危険手当も付くし、給料がいいのよ」と自慢していたのを思い出す。

 廊下の端で視線を下げ、物思いに耽っていた私はハッとして顔を上げた。ここまで案内してくれた看護師が、少し離れた場所から黙ってこちらを見つめていたからだ。
 廊下で足を止めたままの私が、ちゃんと姉の部屋に辿り着くかを見守ってくれていたのだろう。

「すみません、大丈夫です。どうもありがとうございました」
 
 頭を下げ、礼を述べてから足を進めた。先程も思った事だけれど、自分が勤める病院とは全く雰囲気が違う病棟の様子に、ついキョロキョロとしてしまう。

 教えられた姉の部屋は、先ほど足を止めた廊下の奥から二番目で個室だった。ノックに返答が無く、どうしたものかと暫し待ってみたものの、中から音はしない。

「……合ってる」
 
 部屋番号をもう一度確認した。間違えてはいない。意を決し、木目調の引き戸をそっと開ける。
 
「姉さん……?」
 
 病室内は窓から射し込む日差しで明るく、見慣れた姉の上着が壁のフックに掛けられていた。
 
 やはりここに姉がいるのだ。
 
 ベッドを囲むように引かれたカーテンの中の様子は窺えない。そろそろと、もう一度声を掛けてみる。
 
「姉さん、いるの?」
 
 衣擦れの音と共にカーテンがわずかに揺らぎ、中からか細い声が聞こえてくる。

「……伊織? あんた、伊織なの?」

 手を伸ばせば届く距離にあるカーテンの向こう、姉の姿を確認するのが何故かとても恐ろしい。
 掠れたようなか細い声が、私の知る姉の声とかけ離れていたから。ガリガリに痩せ細った老婆のような姿が頭に思い描かれる。

「わ……っ!」
 
 その時、シャッと勢いよくカーテンが開いて、思わず短い悲鳴が漏れてしまう。

「なんで? あんた、どうしてここに?」

 目の前にはベッドから裸足で降り、寝巻き姿で立つ姉がいた。
 想像していたような痩せ細り方では無かったけれど、いかにも顔色は不健康そうだ。
 
 何の事情も説明せずにカナちゃんを放置している事を忘れているのか、それとも知らないのか。
 心底不思議そうな声音で平然と問いかけてくる姉への違和感が気持ち悪い。

「ねぇ、伊織。なんで黙ってんの?」
 
 胃の辺りがじんわりとモヤモヤする車酔いの時のような不快感を堪えながら、なるべく平静を装って答えを口にした。
 
「新一さんに聞いた。姉さん、一体どうしたの? 双極性障害だって?」
「え……? あぁ! そう、そうなのよ! そうそう!」

 一瞬の間が気になったが、掠れ声から普段の声に戻った姉を見て、先程まで感じていた得体の知れない気分不良は改善する。

「姉さん、一体何があったの?」
「何がって……だから双極性障害よ。新一に色々相談したらね、入院した方がいいって言うから」

 言いつつ姉はそのまま裸足で室内を歩き、部屋の片隅に置かれた丸椅子を運んでくる。そして自分はベッドの端に腰掛けると、私には丸椅子に座るよう促した。
 裸足というのは少し変だとしても、歩く姿は普段と変わらない様子に思えた。これも入院して受けた手厚い治療のおかげなのだろうか。

「まぁまぁ、ゆっくり座ってよ。誰もお見舞いに来てくれないから暇で暇で仕方がなかったの」
 
 姉は肩までの横髪を耳に掛け直し、すごく機嫌が良さそうに笑う。姉のこんな表情は、本当に久しぶりに見た気がした。
 
「姉さん、大変なのは分かるけど……せめて母さんには入院する事を話しておいてくれないと。カナちゃんも実家に預けっぱなしだし、連絡が取れないって心配してたよ」
「え、なんで? 新一、実家に連絡してないの? 香苗も預けっぱなしって事?」
 
 私の話に意表を突かれたような姉の態度。そこで初めて、今回のことは新一の独断だったのだと知る。
 ヘラヘラした態度の新一の声を思い出し、苛立ちを感じたもののすぐに引っ込めた。
 
「うん、新一さんは何も。入院してる事は母さんに話さない方がいいだろうって電話で言ってた。母さん達は姉さんが家で療養してると思ってる」
「嘘でしょ……。だから誰も来なかったの? 入院の時にスマホも取り上げられているし、新一からお金も持たせて貰えていないから、公衆電話からの電話も出来なくて……」
 
 と、いう事は……新一が外との繋がりを持たさないようにしているのだろうか。
 先程の笑顔から一転、不安げな表情に変わった姉は途端に憔悴したように見えた。

「それと、カナちゃんはうちのマンションで預かる事になったから」
「え、伊織が? だってアンタ、仕事はどうするの?」
「仕事は一旦退職する。これから日勤だけの仕事を探すつもり。新一さんに保育園の手続きをしてもらって、昼間はカナちゃんを保育園に預ける事になるけど」
 
 私の言葉に対し、姉はひどく驚いたように目を瞠る。
 仕事を退職までしてカナちゃんを預かるという私の意図が掴めないのだろう。それか、新一がカナちゃんの面倒を見る気がないという事に愕然としたのか。
 もしかしたら「香苗の面倒は見るから任せておけ」くらい言われていたのかも知れない。
 
「…………から」

 いつの間にか俯いて唇を強く噛んでいた姉が、ボソボソと何か呟いた。
 
「え?」
「……香苗は、私と新一の子どもだからね」
 
 今度ははっきりと言葉にした姉の手は、ギュッと握られ小刻みに震えていた。
 我が子を取られると思ったのだろうか。正直なところ、姉にそこまでカナちゃんへの愛情があるという事は意外だった。
 
「そんな事は分かってるよ。新一さんも大変みたいだし、母さんももう面倒を見るのは難しいって言うから私が預かるだけ」
「ねぇ、新一は? いつ来てくれるの? もうずっと来てくれないの。入院して一度もよ! ここなら安全だからって言うから入院したのに!」

 段々と声や表情に変化が見られ、興奮気味の様子の姉は、しきりに新一の面会を訴えた。
 
「ここなら安全って、どういう意味?」
 
 姉の様子からして少し気弱になったところはあるようだが、入院するほど重度の双極性障害のような雰囲気は見られず、普段と変わりがないように思えた。
 
「あ……っ。……何でもない」
「姉さん?」
 
 私に「ここなら安全」という言葉について尋ねられると、分かりやすく姉は狼狽えた。やがて吐き気を抑える時のように口元を押さえ、それ以上は何も口にしようとしない。

 しばらくの間、じっと気まずい沈黙が続いた。
 
 ズンと重たい空気から逃げるように、「そろそろ実家に行かないと」と理由を付けて席を立った私の腕を、いつの間にか立ち上がっていた姉が強く握る。
 手首に姉の爪が食い込んで痛い。
 
「ねぇ、新一にここに来るように言ってよ! まさかあの人、私を騙したんじゃないわよね?」
 
 その時の姉の目は、底が見えない深い井戸のように真っ黒で、生気を感じさせる光が無かった。

 ギリギリと、徐々に握る力を強められる手首が、信じられないくらいに痛む。それは見開かれた目に生気が宿らない姉の力とは、到底思えないほどだった。

「ちょっと、痛い、やめて……」
 
 恐らく苦悶の表情を浮かべているであろう私の言葉に、姉が口元だけでニヤリと笑ったような気がした。
 異様な気配に、思わず手を振り払ってしまう。

「伊織……」

 小さく名を呼ばれたような気がしたが、そそくさと丸椅子を片付けて扉へと向かう。意識的に目線はずっと床に向けていた。
 その間もずっと背中に突き刺さるような強い視線を感じ、今振り向けばすぐ真後ろに姉がいる気さえする。
 
 しかしそう広くはない個室。あっという間に扉の前まで到着し、仕方なくゆるゆると振り向く。
 視界の隅っこに立ち尽くす姉の姿を捉えながらも、なるべく床の木目にピントを合わせるようにした。

「また、来るよ」

 守れるかどうか分からない約束を口にする。すると視界の隅の姉が一歩こちらへ足を踏み出した気配がして、無意識に扉の取手を握る手に力がこもった。
 
「伊織! 新一に来るように言ってね。必ずよ!」

 慈悲を懇願するような、悲痛な声だった。
 
 返事をしようにも、いつの間にか私の唇と喉はカラカラに乾いている。
 私は咄嗟に姉からも見えるよう大きく頷くと、逃げるようにして病室を後にした。

 
 
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