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20. お茶をいかがですか?
しおりを挟むシャトレ商会が派遣する林業従事者も伯爵領に到着するには数日間かかるとのことで、それまでは伯爵邸の庭にある花や畑の作物の世話をアドリエンヌと邸の使用人で行っていた。
「アドリエンヌ様、そのように重い肥料袋を持たずとも宜しいのですよ!私が持ちますから!」
華奢なアドリエンヌが三十キロもある肥料袋を軽々持ち上げたから邸の使用人たちは目を見開いて驚いた。
「大丈夫ですわ。私はこう見えてとても力持ちなんですのよ。」
「へえー……。アドリエンヌ様、すごいですね!」
使用人たちは気の良い伯爵に似てか皆穏やかな者たちばかりで、アドリエンヌはすぐに馴染むことができた。
「畑を耕すことも楽しいですわね。さあ、フワフワの土になるのですよー。」
土を鍬で耕しながら堆肥や腐葉土を混ぜ込んでいくアドリエンヌは、また土に話しかけていた。
「アドリエンヌ嬢はいつも何かしらに話しかけているんですね。」
「アレックス様!お仕事はひと段落されたのですか?」
領地に帰ればアレックスは伯爵の補佐として領地の管理を行っていた。
「今は息抜きの時間です。窓から何やら植物に話しかけるアドリエンヌ嬢が見えたので、休憩するように伝えに来ました。朝からずっと畑仕事をしているでしょう?」
「まあ、そうですけれど。疲れたりしていませんわ。私、体力には自信がありますのよ。」
そう言ってアドリエンヌは自分の二の腕をポンポンと叩いて筋肉を強調したが、見た目は人間の令嬢と変わらなかった。
「そうだとしてもですよ。見た目はただの令嬢でしかないです。良ければお茶でもご一緒にいかがですか?」
「ローズヒップティーですか?私あれが大好物になりましたのよ。」
「そうですね。そうしましょう。」
アレックスは、何とかアドリエンヌに休憩させようとお茶に誘うことに成功した。
茶葉が高価だからと作り始めた自家製のローズヒップティーを好きだというアドリエンヌに、アレックスは穏やかに微笑んで応えた。
せっかくだからと庭園のガゼボでお茶をすることになった。
作られた庭ではなく自然な雰囲気の庭を眺めながら、アレックスはアドリエンヌの為にローズヒップティーを注いだ。
「やっぱりローズヒップティーはさっぱりとして美味しいですわね。これはこの領地では皆さん飲まれているのですか?」
カップを傾けながらホウッと息を吐いたアドリエンヌは、アレックスに質問した。
「そうですね。この領地ではイヌバラがたくさん咲いているので、ローズヒップは身近なものです。」
「成る程。それでアレックス様も伯爵家の方々もお肌がツルツルで色白なのですわね。」
そう言って、アドリエンヌはアレックスの頬に手を伸ばした。
アレックスはビクンと一瞬肩を竦めたがそのままじっとしている。
「僕の肌とローズヒップティーが関係あるのですか?」
照れ隠しのようにアレックスがアドリエンヌに問うた。
「私調べてみましたら、ローズヒップには様々な効能があるようですの。例えばお肌が綺麗になったり、便秘解消や病気になりにくくなったりですとか。」
「へえ……。知りませんでした。昔からこの領地で多く採れる物だったので疑問にも思いませんでしたし。」
「ですから、アレックス様のお肌も綺麗なのですわ。」
アドリエンヌはうっとりと恍惚とした顔でアレックスを見つめている。
その手はこの気温の高い季節にしてはやはりひんやりとしているが、心地が良いのかアレックスはじっとしていた。
「貴女も、ローズヒップティーを飲み始めてえらく美しくなりましたよ。」
突然の褒め言葉に、アドリエンヌは動揺して頬にやっていた手を引っ込めた。
「……なんて、言ってみただけです。」
アレックスが続けた言葉にアドリエンヌは赤い唇を尖らせて抗議した。
「ひどいですわ。褒めてくださったのかと喜んでしまったではありませんか。」
アドリエンヌが子供っぽい怒り方をしたので、アレックスはフッと笑いを零した。
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