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22. 猛毒令嬢でなくなれば意味がないのでは
しおりを挟むあれから皇太子はシャルロットに会いに来ても何事も無かったかのように普段通りの態度をするばかりであった。
婚約破棄をシャルロットが言い出したことなど無かったかのような皇太子の態度に、シャルロットは戸惑ったがイヴァンが『今は待ちましょう』と言うものだから、シャルロットもそうすることにした。
月日はあっという間に経っていくが、妃教育以外では部屋の外に出ないようになっていたシャルロットはその後皇后にも弟皇子たちにも会うことはなかった。
「シャルロット嬢、カイから聞いたが乗馬の腕前がなかなかだとか。良かったら今日は遠乗りに出かけないか?」
カイ皇子から聞いたと言う皇太子の言葉に、あの三人の弟たちとは親交があるということが窺えてどこか温かい気持ちになった。
「はい。以前乗馬の時間に三人の皇子様方と稽古をいたしました。御三方ともとても良くしていただいたのです。」
「そうか。あの三人、放蕩者と言われてはいるが根は悪い者たちではないんだ。」
「そのようですね。お話してみたらよく分かりました。猛毒令嬢の私のことも自然な態度で受け入れてくださったのです。」
シャルロットの言葉を聞いて、どこかホッとした様子の皇太子であった。
シャルロットが猛毒令嬢だと不愉快な態度をあの弟たちがしなかったということを安堵した。
執務をまともに手伝うことなく自由気ままに過ごす弟たちではあったが、自分と違って腹黒いところがなく素直なところは褒めるべきところである。
「それでは、今日の妃教育も無事終わったようだし。支度が整ったら今から出かけよう。」
「承知いたしました。」
皇太子とシャルロット、そしてイヴァンは馬に乗り城から少し離れたところにある帝都を見渡せる丘まで来た。
もちろん皇太子の護衛騎士とシャルロットの護衛騎士は離れた場所に待機はしていたが、それでも久々の城外にシャルロットは心を躍らせた。
「皇太子殿下、とても眺めが良いですね。ここから帝都が一望できます。」
「ここは私が疲れた時に気持ちを切り替える為に来る場所なんだ。帝都が見渡せて、そこに住まう民の生活を感じることでまた皇太子としての政務を果たそうと思えるんだ。」
「優秀な殿下もお疲れのときがありますよね。」
「優秀かどうかは別として、陛下の政務の補佐と別に皇太子としての務めもあるからな。たまには疲れることもある。」
そう言った皇太子は普段通りを装ってはいたが、少し疲れた顔をしていた。
「シャルロット嬢、最近体調はどうだ?城に来て幾分経ったが特に変わりはないかな?」
「はい、特には。お城の食事も美味しいですし、お部屋の居心地も良いのでよく眠れます。」
「それは良かった。」
皇太子はシャルロットの体調を確認してから、帝都の方角を真剣な面持ちでじっと見つめていた。
「其方はまだ私との婚約破棄を望んでいるか?」
灰銀の瞳でシャルロットの方を見つめた皇太子が、切ない眼差しで問うた。
シャルロットはどう答えれば良いか暫し思案し、こちらを見て頷くイヴァンに背中を押されて自分の正直な気持ちを話すことにした。
「殿下、確かに私は殿下のことをお慕い申しております。それでも、この身に巣食う毒が殿下や周りの人々を傷つけるようなことになるのは嫌なのです。先日の楽士の件は私の毒が死因では無かったかもしれませんが、結局は私が猛毒令嬢だったが故に起こったことでございます。ですから私は、今も殿下との婚約破棄を望んでいるのです。」
「それではもしシャルロット嬢が猛毒令嬢でなくなれば、何の憂いもなく私の伴侶となってくれると?」
「しかしそれでは殿下がわざわざ私を選んだ意味がありませんわ。殿下は皇太子妃に貞淑さを求めるが故に猛毒令嬢である私をお望みになったのでしょう?」
皇太子と同じく性根の曲がったイヴァンは、皇太子がシャルロットを婚約者にしたいが為に猛毒令嬢という名を使ったことは知っていても、当のシャルロットはそうは思っていなかった。
だから自分が猛毒令嬢でなくなれば、皇太子の求める婚約者の第一条件を満たしていないことになるのではと危惧していたのだ。
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