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43. イヴァンの本心
しおりを挟む『まだ皇帝となって日が浅いヴィンセントは多忙な日々を送っていた。
シャルロットはイヴァンと共にこちらも多忙となった公務の合間をぬって庭園でお茶をしていた。
「イヴァン、貴方は結局ずっと私の傍にいて自分のことは後回しにしているように思えるのだけれど、自分のしたいことはないの?」
「シャルロット様、私はシャルロット様のお傍にいられることが喜びなのですよ。」
「それでも、貴方がシーハンだった時に私は貴方を辺境の地へと無理に連れて行ったわ。そして、私が猛毒令嬢でなくなった時にも貴方は私の傍を離れようとしたのに、私がそれを許さなかったの。」
あの時、シャルロットから毒が抜けたと分かった時にもシャルロットはイヴァンにはずっと傍で見守って欲しいと願った。
だが、自分が皇后となりヴィンセントと過ごすうちにあの時の自分の言葉がイヴァンを縛っているのではないかと思うことがあったのだ。
「イヴァン、ごめんなさい。貴方を無理に縛りたくてあのような事を言ったわけではなかったの。貴方が望むことがあるならば、私は今度こそそれを叶えるわ。」
シャルロットはその神秘的に煌めく瞳を青紫の瞳に合わせた。
しかしイヴァンは表情を変えることはなく、その銀髪をサラリと揺らすとシャルロットの手を取り跪いた。
「シャオリン、お嬢様、シャルロット様。全ての貴女を知っているのはこの世でもう私一人です。恐れ多くも、それは皇帝陛下にさえ覆すことのできない事実でございます。そして私にとってその事実はとても幸運なことなのです。ですからこれからもこの命尽きるまでお傍にいさせていただきたい。」
そのままシャルロットの手の甲に極々軽く唇を掠めた。
「貴方ならきっとそう言うと思って、答えが分かっていて尋ねた私は狡い人間よね。」
「それほどに、シャルロット様が私のことを大切に思っておいでなのですよ。」
「そうかも知れないわね。」
そう言ってシャルロットは従者イヴァンに美しい笑みを向けた。』
「イヴァン、まだこんなものをつけていたの?」
「こんなものとは?」
「これよ!『お嬢様の日記(希望的観測)No.36』!」
皇后としての公務をこなすことにも慣れてきたシャルロットはその日は珍しくイヴァンの私室でお茶をしている時に、書き物机の上に見たのは見覚えのある表紙。
「しかもNo.36ということは三十六冊目ということなの?」
「はい、勿論その通りですよ。」
「他にはどんな事を書いているか見せてみなさい。そもそも、たった三年でそんなに書くなんて余程暇だったようね。」
「それはお見せできません。見せればシャルロット様に処分されてしまうかもしれませんから。」
「貴方ね、そんな物騒なものをこの世に生み出すのをやめてくれるかしら?本当に気持ち悪いわ!」
イヴァンはそう言うシャルロットの話を聞いているのかいないのか、シャルロットのティーカップに新たなお茶を注いでいた。
「僭越ながら……シャルロット様、貴女が『気持ち悪い』と言われる行動で今まで何度私が貴女をお助けしてきたでしょうか。それを考慮していただきませんと、そのお言葉は納得できかねます。」
「はあ……。相変わらずの性格ね。もういいわ、好きになさい。」
シャルロットは呆れたようにイヴァンへ言葉を投げかけたものの、やはりこの従者のことは嫌いにはなれないのである。
先ほど読んだあの日記には、自分の気持ちと似通った事が書かれていたしあながち間違いでもないので、その日記の中でイヴァンがあのような返事をしたのならばそれはイヴァンの本心でもあるのだろうと考えた。
「ねえイヴァン、私今とても幸せなの。貴方はどうなの?」
シャルロットは素直な気持ちでイヴァンに尋ねた。
「私もとても幸せですよ。私にとってシャルロット様は特別な存在、半身なのです。ですからシャルロット様が幸せであれば私も幸せなのです。」
イヴァンは常には表情が分かりにくいその整った顔に、とても美しく優しい笑みを浮かべた。
「そう。それなら私は貴方のためにももっと幸せになるわ。楽しみにしててね。」
そう言ってシャルロットはイヴァンの淹れたお茶を飲んだ。
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