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6. 藤森は特別だと思う
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おかしなキッカケで付き合う事になった俺と藤森だったが、俺は日曜日以外毎日バイトがあったし藤森も部活があった。
だから同じ学校の奴らみたいに、付き合ったからって一緒に帰ったり放課後に出かけたりする事はない。
俺がスマホを持っていなかったせいで、当たり前のように周りの奴らがしてるような通話もDMも出来ない。
だからなのか藤森は席替えで隣の席じゃ無くなっても、しょっちゅう俺のところへ来ては取り留めのない事を話しかけてきた。
あと変わった事といえば昼飯を中庭のベンチで一緒に食べるようになったのと、お互い予定の無い日曜日にどこかへ出かけたりするようになったくらい。
出かけるって言っても、ちょっとした外食とか買い物、あとはあまり金の掛からない場所へ遊びに行く程度。それを藤森は「デート」だと言って喜んでいた。
「ねぇ、悠也のバイトってどんな事してるの?」
「施設の近くにある鉄工所で、材料を切ったり製品の仕上げをしたりしてる」
「てっこうしょ? って鉄を作るの?」
昼飯の後、いつも藤森は俺に色々な質問をする。俺はその質問を真面目に考えて答えを出す、そうすると藤森はまた質問で返すの繰り返しだった。
俺は元々自分から話をするのが苦手だから、藤森のように質問をしてくれた方が話しやすい。
「鉄自体を作るんじゃなくて、鉄を使って色々な物を作ったりするところ。大工は木を使って家を作ったりするだろ? 鉄工所では鉄で色んな製品を作る」
「え、でも大工さんは釘を使って組み立てるでしょ? 鉄は何で組み立てるの? まさか釘って事はないだろうし」
「溶接って言って、金属を溶かしてくっつけるんだよ。俺はまだそういう事、出来ないけど」
そう言って隣に座る藤森の手を取って、その手のひらに「溶接」と書く。何にも考えずにそうしたけれど、藤森は少し頬を赤くして、くすぐったかったのかピクっと身体を震わせた。
「悪い、漢字が分かった方がイメージしやすいかと思って。くすぐったかったか?」
「あ……うん! へぇー! 知らなかった! じゃああそこの階段の手すりとかもヨウセツしてるって事なんだ!」
ちょっと落ち着かない空気を変えるかのように、突然大きな声を出した藤森が指差した先には外階段の手すりがあって、俺は「そうだ」と言って頷く。
すると藤森は「そっか」と言って笑っていた。何がそんなに可笑しいのか分からないけれど、藤森は俺と話している時によく笑う。
「なんか、一緒にいると毎日が楽しいね。悠也はどう思う?」
「まぁな」
「え、本当⁉︎ 自分から聞いておいてなんだけど、悠也も楽しい?」
俺も藤森といると楽しかったし、以前のように毎日が退屈で何となく日々を生きているという風には思わなくなった。
出かける約束をすれば日曜日が楽しみだったし、昼飯を一緒に食べるのだって自分について質問されるのだってどこか心地良かった。
「うん。藤森のお陰で近頃は退屈してない」
「そう? 良かった! じゃあ……私の事好きになってくれた?」
「それは……」
「まだかぁー……。だったらもっと頑張ります!」
好き、っていう言葉を言ってやれば藤森は喜ぶんだろう。
だけど万が一でも間違えてはいけない。
ただ藤森は他の奴らとは違って特別な存在だと、確かにそうは思っていた。
「藤森は、俺の事どうして好きなんだ? どこが?」
「どうして……って。好きなもんは好き、どこがって言うのは……うーん。寂しそうな顔?」
「寂しそう?」
「寂しそうっていうか、つまらなさそうっていうか。いつもそういう顔をしてたから、なーんか気になったのが好きになったキッカケかな」
やっぱり藤森は変わった奴だ。普通そういう奴が居たとしても無視するか、そんな奴がいることにすら気付かずにいるかだと思う。
「やっぱり変わってるな、お前」
「そう? でも、それで悠也が笑ってくれたから嬉しい」
そう言われて気付いたけれど、今自分でも知らないうちに笑っていたみたいだ。
勿論俺だって笑う事くらいはあるけれど、学校の奴らと一緒に居て笑う事なんてあまりない。せいぜい愛想笑いくらいだ。
小中高と同級生とは適当に距離を置いて過ごしてきたから、きっと暗くて喋らない奴だと敬遠されていたと思う。
「好き、とかはまだはっきり分からなくても、俺にとって藤森は特別だと思う」
何か言ってやらなきゃ、言ってやりたい、藤森を喜ばせてやりたいと思って出たのがそんな言葉だった。
そんな事を思っている時点で、この気持ちはもうすでに「好き」なのかも知れない。だけど、俺にとってはこれくらいが今の限界だった。
「本当? 特別?」
「うん」
「ありがとう! すごく嬉しい!」
隣に座る藤森は、ベンチに置いた俺の手をギュッと握ってきた。そしてこちらを向いた黒目がちな瞳は、少しだけ潤ませている気がする。
付き合い始めて一ヶ月と少し、最初に藤森が不意打ちを食らわせてきたキス以来俺達はそういう事をしていない。
けど何故か今唐突に目の前の藤森の方へ、もっと近づきたいと思ってしまった。
「そうだ、夏休みの終わり頃なんだけど県立武道館で選抜大会があって。応援に来られない? そこで上手くやれば九月にも大会に出られるの。弓道が好きだから、なるべく部活引退を先延ばしにしたいんだよね。悠也が応援してくれたら頑張れると思う」
「県立武道館って、前に言ってたあそこか?」
以前出かけた時に偶然その前を通って、「ここが弓道の大会とかをしてる県立武道館だよ」って嬉しそうに説明してくれた事を思い出す。
「そうそう、前に一度『ここだよ』って言ったあそこ。来てくれる?」
「分かった。休み貰えるようにバイトを調整しとくよ」
「嬉しい! 今日は嬉しい事ばっかりで信じられない! どうしよう、ほっぺたが緩んで笑いが止まらないよぉ」
「何だよ、それ。大袈裟だな」
あと少しで高校最後の夏休みだ。俺はバイトもあるし、藤森だって大会に向けてまだまだ部活に励むんだろう。
夏休みの間には何とか気持ちを整理して、ちゃんと藤森に伝えたいと思っていた。
まだ赤ん坊の頃、親にさえ要らないと捨てられた俺が、誰かに必要とされている事にまだ慣れない。
本当はきっともう答えなんて出てるのに、その言葉を伝える勇気がまだ無かった。
だから同じ学校の奴らみたいに、付き合ったからって一緒に帰ったり放課後に出かけたりする事はない。
俺がスマホを持っていなかったせいで、当たり前のように周りの奴らがしてるような通話もDMも出来ない。
だからなのか藤森は席替えで隣の席じゃ無くなっても、しょっちゅう俺のところへ来ては取り留めのない事を話しかけてきた。
あと変わった事といえば昼飯を中庭のベンチで一緒に食べるようになったのと、お互い予定の無い日曜日にどこかへ出かけたりするようになったくらい。
出かけるって言っても、ちょっとした外食とか買い物、あとはあまり金の掛からない場所へ遊びに行く程度。それを藤森は「デート」だと言って喜んでいた。
「ねぇ、悠也のバイトってどんな事してるの?」
「施設の近くにある鉄工所で、材料を切ったり製品の仕上げをしたりしてる」
「てっこうしょ? って鉄を作るの?」
昼飯の後、いつも藤森は俺に色々な質問をする。俺はその質問を真面目に考えて答えを出す、そうすると藤森はまた質問で返すの繰り返しだった。
俺は元々自分から話をするのが苦手だから、藤森のように質問をしてくれた方が話しやすい。
「鉄自体を作るんじゃなくて、鉄を使って色々な物を作ったりするところ。大工は木を使って家を作ったりするだろ? 鉄工所では鉄で色んな製品を作る」
「え、でも大工さんは釘を使って組み立てるでしょ? 鉄は何で組み立てるの? まさか釘って事はないだろうし」
「溶接って言って、金属を溶かしてくっつけるんだよ。俺はまだそういう事、出来ないけど」
そう言って隣に座る藤森の手を取って、その手のひらに「溶接」と書く。何にも考えずにそうしたけれど、藤森は少し頬を赤くして、くすぐったかったのかピクっと身体を震わせた。
「悪い、漢字が分かった方がイメージしやすいかと思って。くすぐったかったか?」
「あ……うん! へぇー! 知らなかった! じゃああそこの階段の手すりとかもヨウセツしてるって事なんだ!」
ちょっと落ち着かない空気を変えるかのように、突然大きな声を出した藤森が指差した先には外階段の手すりがあって、俺は「そうだ」と言って頷く。
すると藤森は「そっか」と言って笑っていた。何がそんなに可笑しいのか分からないけれど、藤森は俺と話している時によく笑う。
「なんか、一緒にいると毎日が楽しいね。悠也はどう思う?」
「まぁな」
「え、本当⁉︎ 自分から聞いておいてなんだけど、悠也も楽しい?」
俺も藤森といると楽しかったし、以前のように毎日が退屈で何となく日々を生きているという風には思わなくなった。
出かける約束をすれば日曜日が楽しみだったし、昼飯を一緒に食べるのだって自分について質問されるのだってどこか心地良かった。
「うん。藤森のお陰で近頃は退屈してない」
「そう? 良かった! じゃあ……私の事好きになってくれた?」
「それは……」
「まだかぁー……。だったらもっと頑張ります!」
好き、っていう言葉を言ってやれば藤森は喜ぶんだろう。
だけど万が一でも間違えてはいけない。
ただ藤森は他の奴らとは違って特別な存在だと、確かにそうは思っていた。
「藤森は、俺の事どうして好きなんだ? どこが?」
「どうして……って。好きなもんは好き、どこがって言うのは……うーん。寂しそうな顔?」
「寂しそう?」
「寂しそうっていうか、つまらなさそうっていうか。いつもそういう顔をしてたから、なーんか気になったのが好きになったキッカケかな」
やっぱり藤森は変わった奴だ。普通そういう奴が居たとしても無視するか、そんな奴がいることにすら気付かずにいるかだと思う。
「やっぱり変わってるな、お前」
「そう? でも、それで悠也が笑ってくれたから嬉しい」
そう言われて気付いたけれど、今自分でも知らないうちに笑っていたみたいだ。
勿論俺だって笑う事くらいはあるけれど、学校の奴らと一緒に居て笑う事なんてあまりない。せいぜい愛想笑いくらいだ。
小中高と同級生とは適当に距離を置いて過ごしてきたから、きっと暗くて喋らない奴だと敬遠されていたと思う。
「好き、とかはまだはっきり分からなくても、俺にとって藤森は特別だと思う」
何か言ってやらなきゃ、言ってやりたい、藤森を喜ばせてやりたいと思って出たのがそんな言葉だった。
そんな事を思っている時点で、この気持ちはもうすでに「好き」なのかも知れない。だけど、俺にとってはこれくらいが今の限界だった。
「本当? 特別?」
「うん」
「ありがとう! すごく嬉しい!」
隣に座る藤森は、ベンチに置いた俺の手をギュッと握ってきた。そしてこちらを向いた黒目がちな瞳は、少しだけ潤ませている気がする。
付き合い始めて一ヶ月と少し、最初に藤森が不意打ちを食らわせてきたキス以来俺達はそういう事をしていない。
けど何故か今唐突に目の前の藤森の方へ、もっと近づきたいと思ってしまった。
「そうだ、夏休みの終わり頃なんだけど県立武道館で選抜大会があって。応援に来られない? そこで上手くやれば九月にも大会に出られるの。弓道が好きだから、なるべく部活引退を先延ばしにしたいんだよね。悠也が応援してくれたら頑張れると思う」
「県立武道館って、前に言ってたあそこか?」
以前出かけた時に偶然その前を通って、「ここが弓道の大会とかをしてる県立武道館だよ」って嬉しそうに説明してくれた事を思い出す。
「そうそう、前に一度『ここだよ』って言ったあそこ。来てくれる?」
「分かった。休み貰えるようにバイトを調整しとくよ」
「嬉しい! 今日は嬉しい事ばっかりで信じられない! どうしよう、ほっぺたが緩んで笑いが止まらないよぉ」
「何だよ、それ。大袈裟だな」
あと少しで高校最後の夏休みだ。俺はバイトもあるし、藤森だって大会に向けてまだまだ部活に励むんだろう。
夏休みの間には何とか気持ちを整理して、ちゃんと藤森に伝えたいと思っていた。
まだ赤ん坊の頃、親にさえ要らないと捨てられた俺が、誰かに必要とされている事にまだ慣れない。
本当はきっともう答えなんて出てるのに、その言葉を伝える勇気がまだ無かった。
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