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19. お父様お母様、そしてお兄様ありがとう

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「まあ、エレノアどうしたの?やはり何か悩みでもあるの?ジョシュア様と喧嘩でもしたのかしら?」

 朝食の場でお母様に会うなり寝不足のお顔を指摘されて、昨夜のことを思い出すと何故か後ろめたいような気まずい気持ちになりました。

 先日のように、またジョシュア様との仲を心配されてしまいます。
 まだ色が変わったままの手をそっと隠しました。

「エレノア、辛そうな顔をして可哀そうに。……本当にアイツでいいのか?」

 神妙な面持ちでお父様までもが、再び私とジョシュア様とのことを心配されているのを見ると、よほど酷いお顔をしているのでしょう。

「大丈夫よ。それでも、私お父様とお母様に少し謝らないといけないことがありますの。」

 今はほんの少しだけ自分の気持ちに正直になって、この優しい家族に支えてもらいたい。

 あのろくでなしのボンクラ婚約者に対して、いつまでも貞淑な婚約者でいることは無理よ。
 昨日のようにたまには反抗して、やり返したい時もありますわ。

「私、少しだけ自分の気持ちに正直になろうと思います。それでお父様やお母様、お兄様方に迷惑をかけることもあるかも知れません。それでも、この不出来な私を支えてくれますか?」

 思わず不安げなお顔になってしまったのは仕方ありません。
 このように私がジョシュア様のことについて家族へ訴えることは今までなかったものですから、どのようなお返事が返ってくるのか怖いのです。

「あら、当然じゃない。ジョシュア様のお立場があるにせよ、貴女だって私たちの大切な娘なのですから。我慢ばかりでは疲れてしまうわ。たまにはジョシュア様に本音でぶつかってもいいのよ。そうすればジョシュア様も貴女の存在を考え直すこともあるでしょう。」

 お母様はさすが同じ女だけあって、やはり良く分かってくださる。
 私がどのように悩んでいるのかをすぐに察してくださったのです。

「エレノア、お前は私たちの大切な娘だ。お前の判断はきっと後々のお前を救うことになるのだろう。それならば、私はお前のその気持ちを支持しよう。このようなことになること自体、本来はとても許されることではないがな。アイツは一体私たちの可愛いエレノアに何をやってくれてるんだ。」

 お父様、ジョシュア様に対してものすごく怒ってらっしゃるわ。

 娘可愛さに不穏な宰相としての姿が見え隠れして、以前にディーンお兄様がおっしゃっていたことは確かにそうなのだと納得しました。

 お父様がジョシュア様に何か恐ろしい報復をなさらないか少し心配ではありますが……お二人に私のお気持ちを話すことができたということが、とても心を楽にしたのです。

 あの刺客の言った通り、もっと早く相談すれば良かったわ。
 そういえば、彼の名前を私は知らない。
 あのような濃密な接触をしておきながら名前も知らないなんて不思議ね。

「父上、母上おはようございます。エレノア、おはよう。一体何の話をしているんですか?」

 昨日も夜遅くまで王城で政務に取り組まれていたディーンお兄様が、眠気や疲れを一切見せることもなく普段通りのポーカーフェイスで朝食の場に現れました。

「あのね、どうやらエレノアがジョシュア様と仲違いをしたみたいなのよ。それでね、エレノアがもっと自分の気持ちに素直になりたいけれど、私たちに迷惑をかけるのではと心配しているようなの。だからそんな心配しなくていいから言いたいことは我慢せずに、したいようにしなさいという話をしていたのよ。」

 おっとりとしながらも、いつもより早口なお母様がディーンお兄様にこれまでのあらましを説明をしてくれました。

「そうなんですか?エレノア、あの頼りない坊っちゃん令息に何か嫌な思いをさせられたのか?私たちの可愛いエレノアに辛い思いをさせるなど、到底許し難いことだな。私たちの迷惑など考えなくても良い。エレノアはしたいようにしなさい。何かあっても私たちは自分で対処できる程度の器量はあるつもりだからな。そうですよね?父上?」

 頼りない坊っちゃん令息……。
 ディーンお兄様がジョシュア様のことをそのように思っていたことは初耳ですわ。
 エドガーお兄様と同じくらいジョシュア様のことがお嫌いなご様子ね。

「まあ、そうだな。王太子殿下や王子方はじめ、姫君たちには諸外国との縁を、国王陛下の弟君であるウィリアムズ公爵家と我が侯爵家が縁続になることで国内の貴族のバランスを図ろうとしていたんだが。それもエレノアの幸せを犠牲にしてまですることではない。あの公爵令息がエレノアのことを大切にできないのであれば最終的には婚約破棄も致し方あるまい。」

 シュヴァリエ王国の宰相であるお父様が、その時は必要だとお考えになって結ばれた婚約だったはずですが、それよりも娘である私の幸せを優先するとおっしゃっているのです。

 私は胸が熱くなって思わず涙が溢れそうになりました。

「お父様、お母様、ディーンお兄様ありがとうございます。どうしても、また困った時には相談させてくださいね。もう少し様子を見てみますから。」

 三人とも私の意思を尊重してくださるようなので、私が何か言わない限りは急な婚約破棄などはないでしょうが、私にとっては随分と気の持ちようが違うのです。



 

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