物語の中の人

田中

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1巻

1-1

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   プロローグ


 彼は魔法使いだった。
 彼は優しい魔法使いだった。
 彼は冷酷な魔法使いだった。
 彼は最強の魔法使いだった。
 彼は最弱の魔法使いだった。
 彼は幸せな魔法使いだった。
 彼は不幸な魔法使いだった。
 彼は裕福な魔法使いだった。
 彼は貧乏な魔法使いだった。
 彼は強気な魔法使いだった。
 彼は弱気な魔法使いだった。
 様々な彼が語られた。
 そうして最後に、様々な彼は死んでいった。
 そう、彼の最期は、
 家族に囲まれ、
 あるいは仲間に囲まれ、
 あるいはひとりで、
 あるいは病気で、
 あるいは刺されて、
 あるいは食われて、
 あるいは焼かれて、
 死んでいった。
 そうして語り継がれる、魔法使いのお話。
 竜を倒す魔法使い。
 竜に倒される魔法使い。
 海を渡る魔法使い。
 海に沈む魔法使い。
 勇者を助ける魔法使い。
 勇者をはばむ魔法使い。
 空を飛ぶ魔法使い。
 地をめる魔法使い。
 人々をだます魔法使い。
 人々に騙される魔法使い。
 子供はせがみ、母親は語り、その子が親になり、子に聞かせ……
 幾年も続く物語。
 最後には死ぬ、魔法使いの物語。
 これまでの物語。
 これからの物語。



   第一章 魔法使いとお嬢様


「外へ行こう」

 鬱蒼うっそうと木々が生い茂り、動物の鳴き声が木霊こだまする森のさらに奥深く。
 一人の男がそう決意した。


 その森には不気味な噂があった。
 いわく、悪魔が住まい、迷い込んだ者を食べてしまう、と。
 そんな噂も手伝い、近くにある村の住人ですら、そこを「悪魔の森」と呼び、奥に足を踏み入れようとしなかった。
 しかし実際には悪魔などおらず、一人の人間が住んでいるだけである。
 その人間は、老いることを拒絶した魔法使いであり、名を「リヒード」という。
 はるか昔に不老になったリヒードは、世界を旅し、やがてこの森に行き着いた。そして塔を建て、そこにもって日夜、読書に没頭していたのだ。
 その年数、ざっと二百年ほど。
 そんなリヒードが、とうとう引き篭もり生活に終止符を打ち、外へ出る決心をしたのには理由がある。
 魔法というものに異常なまでに執着しているリヒードは、引きもる前にあらん限りの財力を使って魔法関連の書物を買い漁ったのだが、それを全て読み終えてしまったのだ。――より正確に言えば、本に書かれた魔法を全て習得してしまったのだ。
 普通の魔法使いであれば、魔法を一つ覚えるのにもそれなりに時間がかかるのだが、リヒードは普通ではなかった。
 新しい魔法を生み出す才能は皆無だが、実際に見たことのある魔法や、書物などに詳細に記されている魔法ならば、たとえそれが難解なものであっても短時間で習得することができる。
 その才能を活用して、買い溜めた魔法書を読み、習得し、試し、満足するとまた新しい本を読むということを二百年近く続けてきたリヒードであったが、本が尽きて一ヶ月。二百年より長く感じられる一ヶ月を経て、とうとう外出する決心をしたのだった。
 なにせ二百年間も篭もっていたので、今やリヒードにとって外は未知の世界である。
 使い魔はいたが、外の情報はほとんど入ってこなかった。そのため、心を決めるまで時間がかかったのだ。
 その気になれば魔族の王すら軽くひねることができる力を持っているのだが、根っこの部分ははるか昔から変わらず、変なところで臆病だった。
 そんなリヒードであったが、新しい魔法を覚えるという大きな目標と、少しの人恋しさもあって、重すぎる腰を上げたのだ。


「目が! 日の光がこんなにまぶしいなんて!」

 塔を出て鬱蒼うっそうとした森を歩き、ほの暗い世界と明るい世界との境界線を越えた瞬間、リヒードは目を押さえ、うずくまる。
 塔では魔法の明かりを頼りにしていたし、森はずっと薄暗かった。そこで過ごした二百年という歳月が、リヒードに日の光を忘れさせていた。

「むぅ。いっそ日よけに雲でも作るか……」

 リヒードは、手をかざして忌々いまいましそうに天を仰ぐ。
 今、彼が立っているのは、リヒードの塔の領域と普通の森との境界である。
 そこを境として、あきらかに生えている植物の大きさ、種類などが違う。そして、差し込む光の量も段違いであった。

「はて。何か変な魔法でもかけたかな?」

 光に目が慣れてきたリヒードは、まったく種類の違う木々を見比べる。
 リヒードの記憶には既にないが、引き篭もり期間中に試した魔法の影響で塔の周辺だけ生態系が変わってしまっているのだ。しかもリヒードは塔を建てた時に、自分で勝手に領地と定めた場所に結界を張っていた。生態系が綺麗に分かれているのは、魔法がその結界にはじかれただけのことである。
 しかし、それらのことをすっかり忘れているリヒードは、神妙に一つ頷くと、悩むことを放棄する。

「とりあえず、行くか」

 探査魔法で人の集落を見つけたリヒードは、その方角に向かって歩を進めようとした。
 しかし、その瞬間、森の中をあわただしく移動する集団を感知し、踏み出そうとした足を止める。

「ふむ?」

 様子のおかしいその集団に、首を傾げるリヒード。
 最初は狩りでもしているのかと思ったのだが、その集団が一人を取り囲み、魔法の気配を漂わせ始めたのだ。

「これは……」

 リヒードは、囲まれた人物が集団に襲われそうになっていることに気づくと、その方向目がけて一直線に走り出す。
 魔法に並々ならぬ執着を持っているリヒードは、その言動から変人や狂人扱いされることも多いのだが、目の前で危険な状況におちいっている人を放っておけるほど冷酷でもないのだ。
 リヒードの足がかすかに光ったかと思うと、走る速度が一気に上がり、その集団との距離がぐんぐん縮まっていく。
 そうしてまさに、小さな影に魔法が降り注がんとしていたその瞬間、ひとつの大きな影が割り込んだ。
 魔法はその大きな影に着弾し、はじけ、土煙つちけむりが上がる。
 何が起こったのかわからず、呆然とする小さな影とそれを囲む男たち。その視線の先には、大きな杖を持ち、ローブをまとった、まさに魔法使い然とした男が立っていたのだった。


「な」

 誰が上げた声だったのか。小さな影か、はたまたそれを囲んでいた男たちか。
 その声に反応するように、男たちが臨戦態勢になる。
 だが、仲間の魔法が防がれたことに、身構えた男たちは驚きを隠せずにいた。
 それは、リヒードに守られる形となった小さな影も同じだ。
 小さな影の名は、ミケーネ・ミカルーネ。
 ミケーネは、このあたり一帯を統治する領主の娘である。容姿端麗ようしたんれいで小さいころから子供らしからぬ賢さを見せ、また魔法の才に秀でていた。
 ミカルーネ家には他に男児が三人いるのだが、上二人はあまり素行がよくなく、三男は引きもりがちであるために、ミケーネの優秀さがより際立きわだつ形となっていた。
 そして、ついにミケーネの父は、好き放題している息子たちに、ミケーネを跡取りにすると言った。
 父からすれば、それを聞いてふんしてほしいと願ってのことだったが、どら息子たちは違う方向に努力した。
 その結果が、今の状況である。
 長期休暇で王都の魔法学校から帰ってきたミケーネは、領地の東にあるお気に入りの森へ出かけた。そこを兄が雇ったならず者たちに襲われ、殺されかかったのだ。
 そこに割って入ったのがリヒードである。
 しくも、物語の王子のような役柄を演じることになったリヒードであったが、その心情はそんなに生易なまやさしいものではなかった。
 リヒードは、杖をかざすと静かに口を開く。

「さて、もしこのお嬢さんに非があるとしても、男が複数で少女を囲むというのはいかがなものかな」

 落ち着いた口ぶりとは裏腹に、その目はぎらついており、まるで獲物を狙う獣のようである。
 対して、ならず者たちは突然の乱入者に戸惑う。

「おい、どうする!?」
「どうするも何も、見られちまったんだ。仲良くあの世にってもらうしかないだろう!」

 そう言うが早いか、ならず者の一人がリヒードに襲いかかった。
 しかし、眼前に迫る刃にリヒードが慌てることはなく、むしろ愉悦にゆがんだ顔で杖を振るう。
 たったそれだけの動作で、襲いかかろうとしていた男が崩れ落ちた。
 一連の出来事に他のならず者たちは呆けていたが、すぐに目の前にいる男の恐ろしさに気づき、逃げ出そうとした。
 しかし、既に彼らには、リヒードの魔法が迫っていた。
 杖の先から出た怪しげな光に包まれたならず者たちは、悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ちる。

「く、くふふ」
「ひっ」

 リヒードは己の魔法の成果に気持ちの悪い笑い声を上げながら小躍こおどりし、ミケーネは目の前の青年の端整な容姿と突然の奇行との落差に短い悲鳴を上げる。
 リヒードがならず者たちにかけた魔法は、記憶を読み取るものであった。
 かけられた者は精神に負担がかかり、しばらくの間目を覚まさないが、それ以外は無害の、いたってクリーンな魔法である。
 なぜそんなものをかけたかといえば、とても簡単なことだ。
 ならず者たちの、魔法についての記憶を読み取るためである。
 先ほどならず者たちが使った魔法は、二百年引きもっていたリヒードにとって未知のものであった。
 己の知らない魔法と出会ったリヒードは、歓喜のあまり気持ち悪い行動に出てしまったのだ。
 少女の短い悲鳴に我に返ったリヒードは、振り返り少女をじっと見る。

「ふむ……どういたしまして?」
「え、ええっと、ありがとうございます?」

 魔法使いと少女のなんとも頼りないファーストコンタクトであった。


 気を取り直したリヒードは、とりあえず自己紹介しようと咳払いをする。

「僕はリヒード…………魔法使いだ!」

 自己紹介といっても、近年とりたてて活動をしていないリヒードは困ってしまい、結果として何故か胸を張って見ればわかるようなことを言う。

「それは、えっと、はい、わかります」

 ミケーネの戸惑ったような態度に、リヒードはろくに自己紹介もできずに少女を困らせてしまったと肩を落とす。

「え、えっと、人には言えないこともあると思いますから!」

 落ち込んだリヒードを見て、ミケーネがフォローを入れる。
 言えないことではなく、言えることがないリヒードは、しかし少し気を取り直し、ミケーネに自己紹介をうながすことにした。

「うむ。ところで、よければ名前をうかがってもいいかね?」
「あ、すみません。私はミケーネ・ミカルーネと申します。このあたり一帯の領主をしているミカルーネ家の者です。今は魔法学校の休暇で帰省中だったのですが……」

 語尾を濁し、倒れ伏す男たちに不安げな視線を向けるミケーネ。しかしリヒードはそんな少女の様子には気づかず、自己紹介の一箇所に激しく食いつく。

「魔法学校!? 素晴らしい! そんなものがあるのか!」

 リヒードの叫びに、ミケーネがぎょっとしたようにる。

「あ、あの?」
「外に出た甲斐があるというものだ!」
「えっと?」
「随分と魔法の体系も違うようだし、楽しくなってきたぞ! むふふふふ」
「……」

 一人違う世界を見ている目の前の青年を、一瞬放置してしまおうかとも考えたミケーネだったが、彼が命の恩人であることを思い出し、とりあえず礼を述べる。

「先程は助けていただき、ありがとうございました」

 トリップしているリヒードを完璧に無視して、綺麗なお辞儀をするミケーネ。

「お礼はいいから魔法を教えてくれ! あと魔法学校とやらに連れていってくれ!」

 礼の言葉に反応して現世に帰ってきたリヒードは、上体を起こしたミケーネの肩を掴み、激しく前後に振りながら本能のままに願いを述べる。

「わ、わ、わ、わかりましたから、振らないでくださいぃぃぃ」

 激しくシャッフルされたミケーネは思考能力を奪われ、簡単に了承してしまう。
 その返答を聞いたリヒードはぴたりと動きを止めると、また奇妙な笑いと小躍こおどりを披露した。

「我が世の春が来た!」

 大きな杖を天に掲げ、奇声を上げるリヒードは、まさしく危ない人であった。
 ミケーネはそんな危ない人と若干じゃっかん距離を取り、ようやく周囲の惨状さんじょうに目を向けた。

「あ、あの。リヒードさん。とりあえずこの人たちをどうにかしませんか?」
「ふむ」

 ミケーネの声に、正気を取り戻したリヒードは、顎をさすりながら考える仕草をする。
 少しして杖を一振りすると、男たちはまるでマリオネットのごとく、かくかくと動き出し、上着を脱ぎ出した。そして、その上着で互いの両手を拘束し始める。全ての男たちの手が即席の手枷てかせによって結ばれると、リヒードは満足そうに頷き、ミケーネに視線を向けた。

「どうだ!」
「え!? あ、はい! すごいです!」

 一瞬、理解が追いつかなかったミケーネだが、すぐにリヒードの魔法の凄さを理解する。とても杖の一振りでできるようなことではないのだ。
 しばしその賞賛の声に酔いしれたあと、リヒードは、男たちの記憶を読み取ったときに知った、個人的にはどうでもいい事柄を思い出し、ミケーネに質問する。

「して。こいつらどうするかね? 雇い主もわかるが」
「え!? えっと……」

 ミケーネは一瞬驚き、押し黙る。
 瞳を揺らすミケーネをじっと見ていたリヒードだったが、すぐに口を開く。

「ま、君の好きなようにするがいいさ」
「え、あ……はい」

 リヒードのさして興味なさそうな態度に、ミケーネは肩透かたすかしを食らった。きっと詳しい事情を聞いてくるに違いないと思っていたのだ。
 ミケーネは、何故自分が襲われたか、誰が男たちを雇ったのか、ある程度推測できていた。
 しかし、その事実は両親を悲しませることになる。
 親にレールを敷かれ、その上を決められた速度で歩むことしかしてこなかったミケーネには、どうすればいいのかわからなかった。
 ミケーネにとって、広大な領地を有する自分の家は窮屈なものであった。
 やるべきことは全ては両親に決められ、それを忠実に実行する人生。
 着る物、食べる物、付き合う友達、読む本、ありとあらゆる物が決められた人生。
 それを嫌って兄三人は、両親に反抗した。
 しかし、ミケーネに反抗する勇気はなかった。
 兄たちが両親の期待を裏切るたびに、母の泣く姿を見てきた。
 そうして、「あなただけは、ああはならないでね」と言われ続けたのだ。
 だから彼女はただ歩む。
 決められた道を決められた速度で。
 魔法学校への入学も両親に決められたものだった。
 しかしミケーネはそのことを喜んだ。
 彼女が自分の人生を自覚してから初めて、与えられたものへ心から歓喜した。
 魔法使い――それは昔読んだ数多くの絵本に出てくる憧れの存在であった。
 その魔法使いになるための学校に通えると思うと、ミケーネは嬉しくて仕方なかった。
 両親としては、王都で教養をつけさせ、貴族としての人付き合いを覚えさせようとしただけだったのだが、喜ぶ娘の姿を見て、自分たちの決定が間違いではなかったのだと実感した。


 そうして入った王都の魔法学校だったが、しかしミケーネの憧れはすぐに霧散むさんする。
 各地の領主、王都の有力者、大商人、そんな親を持つ子供たちの社交場、それが魔法学校であった。
 もちろん、魔法について学び、切磋琢磨せっさたくまする場所でもあったが、教師の中には露骨に生徒の家柄を気にする者もおり、生徒同士もまた家柄を基準として関係を築いていた。
 ミケーネも、大領を持つ領主の娘ということで、様々な人間がすり寄ってきた。
 ミケーネは勉強もそこそこに、丁寧に彼ら、彼女らの相手をした。
 両親にそうするように言われていたからだ。
 結局親元を離れても、その意思に縛られてしまったミケーネは、ただただ失望した。
 今回、長期休暇で久しぶりに実家に帰ってきたので、学校生活で疲弊ひへいした心身をいやすためにお気に入りの森へ出かけたのだった。


「お嬢様!」

 リヒードとミケーネが、操り人形と化した男たちを引き連れて森から出ると、若い男女が二人駆け寄ってきた。

「アリュ! ハイフ!」

 女のほうはメイド服を、男のほうは簡素な鎧を身にまとっている。

「お嬢様! お怪我はありませんか!? 怪しい者が複数で森に向かったと村人に聞いて、急いで 来たのですが……」

 メイド服の女、アリュがぺたぺたと触ってミケーネの身体を確かめる。鎧を着た男、ハイフはミケーネの後ろに並ぶうつろな目をしたならず者たちを見て、すぐに、そばに立つ魔法使い風の男に目をやる。

「ありがとう、アリュ、大丈夫よ。ハイフ、この方は森で襲われた私を助けてくれたの、そんな顔はよして」

 ミケーネはアリュの肩を掴んで自分から引きがし、半ばリヒードを睨むようにしていたハイフをいさめる。
 そして、二人に森であったことを簡単に説明した。

「これは失礼しました。わたくし、ミケーネお嬢様の身の回りのお世話をさせていただいておりますアリュと申します。この度はお嬢様をお守りくださいまして、本当にありがとうございます」
「し、失礼した。お、おれ、私はミケーネ、お嬢様の身辺警護を担当しているハイフと申します」

 美しい礼をするメイドと、しどろもどろな騎士。
 リヒードは二人の様子を見て、しばし考える素振りをみせたかと思うと突然動き出した。
 目にも留まらぬ速さでアリュの腕を掴み、持ち上げると、そこからナイフが落ちて地面に突き刺さる。

「ほほう。最近のメイドは多芸なのだな」

 しばしアリュを観察したリヒードは、その手を放し、落ちたナイフを拾い上げた。そしてそれをアリュの手に収めると、一歩後ろに下がる。

「なんでメイドが護衛と一緒に来たのか、謎が解けた。それだけ腕がたつなら、護衛としての役目も全うできるのだろう」

 リヒードは、一人納得したという風に腕を組んでうんうんと頷く。

「アリュ! あなたという人は! 私の命の恩人に対してなんということを!」
「ふむ。まぁ、そこなメイドは君を大事に思っているからこそ警戒していたのだろう」

 怒るミケーネを、リヒードはたしなめて落ち着かせた。

「申し訳ございません、お嬢様」
「もういいわ。次からはないようにして」

 深々と頭を垂れるアリュ。リヒード本人が気にしていないこともあり、ミケーネはため息混じりに謝罪を受け入れた。

「さて、それで、いつ魔法を教えてくれるのだ!?」

 我慢できないといった風に声を上げるリヒードに、護衛二人が身構える。

「落ち着いてください。とりあえず家に戻って、その後にお教えいたします」
「ふむぅ。急ごうではないか!」
「それでは、そちらの暴漢たちはどういたしましょう」

 一人盛り上がるリヒードをおいて、アリュがうつろな表情のまま立ちつくす集団の処遇をたずねる。

「ここでハイフに見張っててもらって、私たちが町に戻ったら警備隊に知らせましょう」
「わかった、ました」

 ハイフがぎこちない敬語で返す。
 そのプランを聞いたリヒードは一つ頷くと、その大きな杖を軽々と振るって魔法を重ねがけする。

「これで当分意識は戻らないだろう。ついでに僕が魔法で近くの村まで連れていってやろう」
「あ、ありがとう、ございます」
「うむうむ。それでは行くとしようかね。さぁ! 急いで!」

 お礼を言うハイフを尻目に、一人盛り上がってミケーネの背中を押すリヒード。

「お、お嬢様になんということを!」

 それを見咎みとがめたアリュが声を荒らげるが、リヒードは気にもしない。
 魔法によって操り人形のように歩く男たちを率いて、一行は賑やかに村への道を進んだ。
 村で村長に事情を説明し、ならず者たちを空き家に押し込むと、ハイフを見張りに立てる。
 そうして一行はハイフを残して、馬車で町へ向かった。
 リヒードは、二百年前とは大きく変わった町の風景に興味を示し、ミケーネにあれこれと質問する。
 それに丁寧に答えるミケーネは少々疲れ気味だ。
 やがて町の中央にあるミカルーネ家の屋敷へと辿り着き、一行は馬車を降りた。


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