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五十五話 「取引」
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新しい武器によって以前よりも遥かに効率良くダンジョンを進むことが出来ていたアッシュ達はちょうど中間地点辺りまで来ていた
ここに来るまで一度も休憩を挟まなかったが、今のところ疲労は全く感じられない
新しい武器によって戦闘時間が短縮されたのもあるが、ヴォルフから貰ったブーツのお陰が大きいだろう
『ベル、強い魔力の反応とかは感じない?』
『どれも似たり寄ったりな魔力ばっかりでさっぱりだなぁ』
『そっか・・・ここら辺まで来れば何かしらの手がかりはあると思ったんだけどな』
ここに来るまでの間もダンジョンボスに繋がる手がかりかないかと探したがそれらしいものはない
誰か知ってる者に情報料を払って教えてもらった方が手っ取り早いんだろうが、それだと自分達の探索力が身につかないのでその方法は最終手段ということになっている
とりあえずこれまで通り中央に向かうこにし魔物と戦いながら森の中を歩いていくと、少し先から人の声のようなものが金属音と共に聞こえてきた
少しずつ近寄っていき茂みの中から様子を窺ってみるとそこでは他の冒険者と魔物が戦いを繰り広げていた
『邪魔になっちゃうから別の道から行こっか』
『そうだね・・・ん?あの子は・・・』
戦闘の邪魔にならないよう避けながらそのパーティの戦いを見ていると、ふと面識のある人物が目に入ってきた
それは以前鉱山で採掘作業をしていた時に少しだけ言葉を交わしたあの獣人だった
『アッシュ君あの奴隷の子の事知ってるの?』
『う、うん。前罰として採掘作業してことがあったでしょ。その時にちょっとね』
ダンジョンを攻略した証である紋様が手に刻まれていたのを見た時から冒険者なのだろうとは思っていたがパーティに加入していたのか
だが他の冒険者を見ていると違和感を覚えた
魔物と戦っているのは獣人のみで他はその様子を眺めているだけ
蜘蛛の魔物一体だけのようなので一人でも対処はできるだろうが、一切の加勢がないのは変に思えた
獣人は多少苦戦しつつもどうにか魔物を倒し終える
それに対しパーティメンバーの一人が突然罵声を浴びせた
『倒すのがおせーんだよこの役たたず・・・がっ!』
『うぐっ!』
『ほら、早く立てよ』
無抵抗の女性を相手に男は腹に蹴りを食らわせ、獣人は吹き飛び樹に衝突する
ニヤついた表情を向けてくる男に対し獣人は鋭い眼光を向けた
その態度が気に食わなかったようで男は更に暴行を加える
『なんだその反抗的な目は!獣人風情が盾突きやがって!その首輪がある限りお前は俺達の言う事を聞くしかないんだよ!』
『がっ・・・!あぐっ・・・!』
反撃しようと思えば簡単にできただろう
だがそれは獣人のつけている首輪がさせてくれなかった
あの首輪は"隷属の首輪"と言われており奴隷を購入した際に所有者の血をその首輪に垂らすことで所有者の命令に絶対服従しなくてはならなくなる
あまりにも理不尽な暴力、相手の気が済むまで痛みに耐え続けなければならない獣人
抵抗することすら許されず一方的に傷を与えていくその行為があまりにも酷くて見ていられなかったアッシュは、考えるよりも先に体が動いていて気づけばその男の前に立っていた
『なんだ?こっちは今取り込み中なんだが』
『あの、そういう事するのやめませんか?いくら奴隷だからといってそんな事するのは違うんじゃないですか』
『なんだお前?俺の奴隷をどうしようが俺の勝手だろう・・・が!』
そう言って再び獣人に手を上げようとする男の腕をアッシュは鞭で絡め取り阻止する
その行動が癇に障った男が声を荒げた
『てめぇ何しやがる!』
『おいちょっと待て。あいつって例の・・・』
パーティの一人がアッシュの正体に気づき、それを男にも伝えると全員後ずさりした
アッシュに・・・というよりもこれはベルにビビっているのだろう
これで少しは話を聞いてくれるかと思ったが、それでもなお獣人に危害を加えていた男は反発してきた
『これは俺達が買った奴隷だ。俺らの所有物をどうしようが勝手だろ。それにな、コイツはこうされて当然なんだよ。知ってるか?コイツは人を殺したんだよ』
『人を・・・?』
その言葉を聞き当の本人である獣人の方に目を向けると彼女は顔を背けた
男が適当についた嘘かもしれないしそれを証明できるものはない、しかしその逆もまた然り
その様子を見た男は一転、得意気な顔になりアッシュ達にこの場から去るよう告げた
『分かったか?コイツはこうされるに値する理由があるんだよ。分かったらさっさと消えな』
『ま、待って下さい』
『なんだよ?まだ文句あるのか?』
自分がこれから何を言おうとしているのかと自問したが、やはり目の前で傷つけられている人を見て放っておくという答えは出せなかった
たとえそれが奴隷であろうと獣人であろうとだ
『僕が・・・僕がその人を買います』
『アッシュ君!?』
アッシュの言葉を聞いたアレッサが驚きのあまり声を上げる
相手側はというと全員が呆けた顔になった
自分自身でもこんな事を自分で言うことになるとは夢にも思わなかったが、今更引き返すわけにはいかない
『いくらだったんですか?ちゃんとお支払いしますよ』
『お前・・・正気か?コイツは金額百枚、つまり聖金貨一枚だぞ。そんな大金ポンと用意出来るわけ・・・』
そう言い放つ男にアッシュは男が払った額の倍、聖金貨二枚を目の前に出した
ベルに特訓してもらった時に魔石やドロップアイテムをこれでもかと集めた結果、これだけのお金が今手元にあった
元はこれで装備を買う予定だったがヴォルフの計らいで使い道がなくなり貯金に回していたお金だ
何の相談もせずにこんな事をしてきっとあとでアレッサに大目玉をくらうだろうな
『ちょっと仲間達と話し合う時間をくれ』
聖金貨を前にして目の色が変わった男は仲間達とどうするかと話し合いを始めた
それから待つこと数分、男がこちらに向き直り結論を述べた
『いいぜ、その案に乗ってやる』
『じゃあ奴隷商の店に行きましょうか』
こうして取引が成立し、獣人をアッシュの所有物とする為に男達のパーティと共に隷属の首輪をつけた奴隷商の元に足を運ぶこととなった
ここに来るまで一度も休憩を挟まなかったが、今のところ疲労は全く感じられない
新しい武器によって戦闘時間が短縮されたのもあるが、ヴォルフから貰ったブーツのお陰が大きいだろう
『ベル、強い魔力の反応とかは感じない?』
『どれも似たり寄ったりな魔力ばっかりでさっぱりだなぁ』
『そっか・・・ここら辺まで来れば何かしらの手がかりはあると思ったんだけどな』
ここに来るまでの間もダンジョンボスに繋がる手がかりかないかと探したがそれらしいものはない
誰か知ってる者に情報料を払って教えてもらった方が手っ取り早いんだろうが、それだと自分達の探索力が身につかないのでその方法は最終手段ということになっている
とりあえずこれまで通り中央に向かうこにし魔物と戦いながら森の中を歩いていくと、少し先から人の声のようなものが金属音と共に聞こえてきた
少しずつ近寄っていき茂みの中から様子を窺ってみるとそこでは他の冒険者と魔物が戦いを繰り広げていた
『邪魔になっちゃうから別の道から行こっか』
『そうだね・・・ん?あの子は・・・』
戦闘の邪魔にならないよう避けながらそのパーティの戦いを見ていると、ふと面識のある人物が目に入ってきた
それは以前鉱山で採掘作業をしていた時に少しだけ言葉を交わしたあの獣人だった
『アッシュ君あの奴隷の子の事知ってるの?』
『う、うん。前罰として採掘作業してことがあったでしょ。その時にちょっとね』
ダンジョンを攻略した証である紋様が手に刻まれていたのを見た時から冒険者なのだろうとは思っていたがパーティに加入していたのか
だが他の冒険者を見ていると違和感を覚えた
魔物と戦っているのは獣人のみで他はその様子を眺めているだけ
蜘蛛の魔物一体だけのようなので一人でも対処はできるだろうが、一切の加勢がないのは変に思えた
獣人は多少苦戦しつつもどうにか魔物を倒し終える
それに対しパーティメンバーの一人が突然罵声を浴びせた
『倒すのがおせーんだよこの役たたず・・・がっ!』
『うぐっ!』
『ほら、早く立てよ』
無抵抗の女性を相手に男は腹に蹴りを食らわせ、獣人は吹き飛び樹に衝突する
ニヤついた表情を向けてくる男に対し獣人は鋭い眼光を向けた
その態度が気に食わなかったようで男は更に暴行を加える
『なんだその反抗的な目は!獣人風情が盾突きやがって!その首輪がある限りお前は俺達の言う事を聞くしかないんだよ!』
『がっ・・・!あぐっ・・・!』
反撃しようと思えば簡単にできただろう
だがそれは獣人のつけている首輪がさせてくれなかった
あの首輪は"隷属の首輪"と言われており奴隷を購入した際に所有者の血をその首輪に垂らすことで所有者の命令に絶対服従しなくてはならなくなる
あまりにも理不尽な暴力、相手の気が済むまで痛みに耐え続けなければならない獣人
抵抗することすら許されず一方的に傷を与えていくその行為があまりにも酷くて見ていられなかったアッシュは、考えるよりも先に体が動いていて気づけばその男の前に立っていた
『なんだ?こっちは今取り込み中なんだが』
『あの、そういう事するのやめませんか?いくら奴隷だからといってそんな事するのは違うんじゃないですか』
『なんだお前?俺の奴隷をどうしようが俺の勝手だろう・・・が!』
そう言って再び獣人に手を上げようとする男の腕をアッシュは鞭で絡め取り阻止する
その行動が癇に障った男が声を荒げた
『てめぇ何しやがる!』
『おいちょっと待て。あいつって例の・・・』
パーティの一人がアッシュの正体に気づき、それを男にも伝えると全員後ずさりした
アッシュに・・・というよりもこれはベルにビビっているのだろう
これで少しは話を聞いてくれるかと思ったが、それでもなお獣人に危害を加えていた男は反発してきた
『これは俺達が買った奴隷だ。俺らの所有物をどうしようが勝手だろ。それにな、コイツはこうされて当然なんだよ。知ってるか?コイツは人を殺したんだよ』
『人を・・・?』
その言葉を聞き当の本人である獣人の方に目を向けると彼女は顔を背けた
男が適当についた嘘かもしれないしそれを証明できるものはない、しかしその逆もまた然り
その様子を見た男は一転、得意気な顔になりアッシュ達にこの場から去るよう告げた
『分かったか?コイツはこうされるに値する理由があるんだよ。分かったらさっさと消えな』
『ま、待って下さい』
『なんだよ?まだ文句あるのか?』
自分がこれから何を言おうとしているのかと自問したが、やはり目の前で傷つけられている人を見て放っておくという答えは出せなかった
たとえそれが奴隷であろうと獣人であろうとだ
『僕が・・・僕がその人を買います』
『アッシュ君!?』
アッシュの言葉を聞いたアレッサが驚きのあまり声を上げる
相手側はというと全員が呆けた顔になった
自分自身でもこんな事を自分で言うことになるとは夢にも思わなかったが、今更引き返すわけにはいかない
『いくらだったんですか?ちゃんとお支払いしますよ』
『お前・・・正気か?コイツは金額百枚、つまり聖金貨一枚だぞ。そんな大金ポンと用意出来るわけ・・・』
そう言い放つ男にアッシュは男が払った額の倍、聖金貨二枚を目の前に出した
ベルに特訓してもらった時に魔石やドロップアイテムをこれでもかと集めた結果、これだけのお金が今手元にあった
元はこれで装備を買う予定だったがヴォルフの計らいで使い道がなくなり貯金に回していたお金だ
何の相談もせずにこんな事をしてきっとあとでアレッサに大目玉をくらうだろうな
『ちょっと仲間達と話し合う時間をくれ』
聖金貨を前にして目の色が変わった男は仲間達とどうするかと話し合いを始めた
それから待つこと数分、男がこちらに向き直り結論を述べた
『いいぜ、その案に乗ってやる』
『じゃあ奴隷商の店に行きましょうか』
こうして取引が成立し、獣人をアッシュの所有物とする為に男達のパーティと共に隷属の首輪をつけた奴隷商の元に足を運ぶこととなった
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