13 / 28
12話 「すれ違いの闇は深く」
しおりを挟む「くそっ!」
ヴィルシスは戻るや否や悔しそうに建物や物を蹴飛ばして悔しさを表に出した。
その蹴りの威力も周囲の物を吹き飛ばして建物に大きな穴をあけるほどの威力で、周囲の兵士たちを震え上がらせる。
かわいそうなことに彼に使える兵士たちはいつも彼の行動一つ一つに震え上がらなければならない。
「ティナはどうして俺を拒絶する!?昔は俺に寄り添っていてくれたのに!いつも俺のそばで笑っていたのに!それが今や……敵対勢力だと!?ふざけるな!」
さらに一人でいらだちを募らせるヴィルシスに兵士たちが恐怖に慄いているいるときだった。
「やれやれ。ストーカーが過ぎるくないか?さすがに気持ち悪い。追い回される彼女は大変だなぁ。まぁそれくらいお前を動かすような存在であることは認めるが」
「……それをお前が言うのか?」
「ふん。お前ほどではない」
そのヴィルシスをあざ笑うかのような言葉をかけたのは一人の魔導士。ヴィルシスからしたらこいつの存在は大っ嫌いだった。
なぜならティナと同じ服を着ている。しかも男で。ティナと同じ服を着ているということは相当な魔法使いであり、この国に数人いるかいないかの天才だということを証明することになるのだが。
「俺のほしい奴は、お前みたいなふしだらな性欲や自己満足のためだけではない。この国の戦力にも必ずなる。あいつを自分のものにするために俺は”禁断の方法”を編み出したからな」
「それのせいでその対象を手に入れられるどころか恨みを買って殺されそうになっているのにか?笑わせるな」
「そんな状態から自分のものにできるとなると楽しみで仕方ないね」
そんなこいつの自信を聞いていて馬鹿らしくなった。こっちはお前のような者の自慢話に付き合っている余裕は一切ないのだ。
俺はお前とは違う。”完全な意志をコントロールした”支配や自分の物にできるのでは意味がない。
お前にはだから俺のこのもどかしさがどうせ分からない。困ればコントロールすればいいというお前の考え方には一生分かりあうつもりなどないのだから。
今はあんな状態でもいつか一緒にあのころのように笑いあえる日が来るとまだ信じているのだから。
「どうしてこんなことになったのだろう……」
あのころに戻れるなら戻りたい。きっとあの時からティナは自分のもとから離れていってしまった。
そういえばあの時泣きじゃくりながら俺の腕にしがみついて何か言っていたっけ。
最愛の人のそこまで感情を表した言葉をなぜ覚えていないのだろう。
たぶんきっとそれは___
俺の中に何か恐れていたものがあるに違いない。それはおそらくは___。
そう。あの時だ。あの剣の使い方が異常なあいつ_エルヴィエが死んでからだ。
俺はメオンには模擬戦勝率8割くらいはあった。武器の得手不得手はあれど、勝てていることが大事だと思っていた。
しかし___エルヴィエにだけはどうしても勝てなかった。
武器の相性的にも俊敏に動く剣使いに大振りの斧は相性が悪いことだなんて誰でも知ってる。だからエルヴィエより弱いとか誰一人言わなかった。
でも、それでも_!
負けることが悔しかった。相性が有利でも勝てればすべてであると思っている以上、武器の相性が悪くても、どんな状況でも勝つ。
どんな状況でも勝てる__それがみんなを率いる者として絶対的な安心感を与えることも知っている。
だからこそどこまでも勝ちにこだわっている俺にとって____。
エルヴィエの存在はどこまでも憎たらしく、どこまでも羨ましく、どこまでもかけがえのない存在だった。
試合に負けて感情を表したりはするが、お互いに喧嘩や嫌いあうということはなかった。些細な事でも彼からアドバイスをもらったし、普通の男仲間としても楽しい時間を過ごさせてもらった。
だからこそ俺はティナと同じくらい奴がかけがえのない存在であり、いつか勝つと決めたライバルだった。
なのに。
「どうして死ぬことになったんだ!」
分かっている。俺が実力不足だったからだ。あいつのことをもっと知って事前にやつが戦いに行かなければいけないことも知っていればどんな刑罰があろうが援護に行ったし命がけで一緒に戦っただろう。
でもあの時の俺は参加することすらも出来なかった。
そしてエルヴィエは死んだ。
その時俺の中に失ったものは大きかった。
今まで目指してきたものが消えた。
大切な仲間が消えた。
それは俺が力不足で守ってあげられなかったから。何もかも俺の実力不足のせいだ。
だからこそティナだけは_愛している彼女だけは守らなくちゃという思いが俺を強くした。
それから俺は彼女のことを嫌い、嫌がらせや排除行為をしようとする人間をこれでもかとつぶした。少しでも怪しい行為や噂を聞きつけたら容赦なく手を下した。
女だろうと関係ない。彼女を守るためだったらなんだってする。
もうこれ以上大事な人を失うわけにはいかないのだから。
その思いは俺を容赦なく突き動かした。
「ああ……そうだ、ティナはああ言っていたな……」
彼女はそんな俺を泣きじゃくりながら俺の腕にしがみつきその行動をやめるようにこう言った。
”私の存在は不快を与えるものだということに変わりはない。それを受け入れて強く生きていくことはできるから……私のせいで今度はみんなが心だけでなくあなたによって痛みや苦しさまで私はみんなに味わせてしまうことになるからこれ以上は_”
人と接点を持つことに今までの過去からして恐怖で恨みすら覚えるはずなのに_
彼女はどこまでも優しく、強かった。
そしてその優しさはティナをいじめていた相手にだけじゃない。
それを力で、暴力で排除しようとする俺の手や心が汚れたり、その行為で苦しむのではないかと思いやってのことだった。
どうしてそこまで優しいのだろう。
あいつも優しかった。
その優しさは自分の身を危険にさらしているにもかかわらず。
だからこそ俺は守りたかった。もうこれ以上大切な人を失うわけにはいかないから。
だけどその思いは彼女にはいまだに伝わることはないらしい。
だったら分かってもらえるまでどんな手でも使って分かってもらうしかない。
優しい彼女はきっと俺に再び振り向いて笑いかけてくれる。
そう彼は信じているが、彼はすでに人として逸脱した行為を行っていることに、もはや自分の中に持っていた思いが暴走していると言うことにすら気がついてはいない。
そんなヴィルシスの姿と先ほど話していた魔道師の様子をわき目から見てほくそ笑む者がいる。
「くくく……。まさかこんなことになるとは。私のたった一つのもくろみがここまで私に大きくプラスに働くとは……全て私の手のひらの中で踊り続けている」
その者の企みは誰も知らない。
その者の起こした行動は一体何なのか。そしてその者の目的は___。
「私の作戦から大きく人生の変わった者が多いらしいな……。まぁ私の目標に影響を与えたかっただけなのだが。まぁ、その目的の達成のために君たちにはせいぜい私の中で踊ってもらおうからね」
クレマリー王国と小競り合いを起こし続けるエクラベル王国。腐敗と衰弱の果てにこの国がどうなったかは具体的に知る者はクレマリー王国にはいない。
だとしてもバリケリオス竜騎兵といい、竜騎兵の大群。かつての全盛期の勢いを取り戻しつつあるその理由は。
どうやら単純な問題ではなく、その真相はヴィルシスですら知ることではなかった。それくらい彼の中にはティナと失ったエルヴィエのことしか考えられなかった。
他のことに気を向ける余裕がないほどに思いつめていた。
それぞれの国の中で思いをめぐらせる者たち。
ただ、ひとつだけ違ったことがある。
クレマリー王国の傷心したセリアとティナには味方がいた。
数は少なくとも過去を知るもの、性格を良く知り寄り添えるもの、そして何よりも自分のもてるだけのものを全てぶつけて彼女達を救おうとする者。
だけれどもエクラベル王国の彼らにはそのような存在が全くいない。
この違いがどう出るのか。
そしてその結果さえもこの影でほくそ笑む者の計算どおりに物事が動くのか。
それも空と太陽は知っているのだろうか。
だが、今回ばかりは知らないかもしれない。
エクラベル王国はクレマリー王国と違って雷鳴がとどろき、土砂降りの大雨が降り注いだ。
思いは更に深まり悩み、怒り悲しみもどかしさを募らせてそれぞれの心を苦しめる。
その感情はしばしの国同士の停戦を誘った。
が、
それは嵐の前の静けさでしかないと言うことは言うまでもないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる