ティルナノーグの扉

Erie

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戴冠式

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戴冠式でのアルフォンソ様は、国王の名に相応しい威光と威厳を放っていた。

私がテレビで見るような普通の人間の戴冠式と同じような、司祭のような人が祈りを捧げ、王冠をアルフォンソ様の頭にのせるというところは同じなんだけど、やはり、魔族の住むところの戴冠式だと実感したのは、「魔光」と呼ばれる王族の魔力の源の継承も行われることだ。

王冠を頂いて、王の名を名乗った後、王宮の真ん中に置かれている古代の水晶のようなものから、「魔光」が出て、古の力を新しい王に注ぎ込む。初代からの力を受け継いで、王家も国も護っていくための儀式、それが戴冠式の本来の目的なのだという。

司祭と新王が詠唱を唱えると、中央の魔法陣に置かれた水晶から、光が溢れ始める。

それは私が想像していた黒いエネルギーみたいなものではなく、紫の美しい光だった。

魔界の王は代々このオーラを見にまとい人々を導くのらしい。それは大いなる全てと繋がっており、国に幸せと繁栄をもたらすのだ。光はアルフォンソ様の体を包んで、漆黒の髪と紫の瞳が一層鮮やかさを帯びていく。

式に出席していた有力貴族の魔族たちはそのとてつもないエネルギーを感じ取り、魔力酔いを起す者や倒れる夫人などもいたが、アルフォンソ様は涼しげな顔で、光を一身に受けている。

「アルフォンソ王に栄光あれ!」

「魔界の栄光あれ!」

「新王に乾杯!」

さすが魔族の住む国だけあって、式の最中に乾杯を始める者たちもいて、自由な雰囲気だ。

「いよいよ、この日が来たんですね」

「ええ」

「次代も平和な時代になることでしょう。アルフォンソは意味のない戦を嫌いますから」

笑顔で冠をいただくアルフォンソ様を見て、ティルナノーグの妖精王がいう。

二人とも威厳がある。やっぱり王族なんだなあ。

ティルナノーグの妖精王、マナナンも王冠と戴冠式用のきらびやかな衣装に身を包み感慨深そうにアルフォンソ様を見つめている。

「あれから、大丈夫でしたか?」

「ええ。アルフォンソ様は良くしてくださっています。あまり情報がないので、禁断の書庫にも連れて行ってくださって、いくらかの情報を得ることができました」

私も侍女のサテラに思いっきり着飾らせてもらって、新王の瞳と同じ私の瞳に映えるようにと、紫のシフォンのドレスに、同じ色の髪飾りを纏い、胸飾りもつけさせてもらって、どこの貴族のお姫様ですか?みたいな格好になっている。ちなみにこちらの貴族の普段の正装は黒を基本にしたダークカラーだ。なので、華やかな格好は特別な宴の時のみらしい。

「やはり宴には華やかな装いが一番ですね。どことなく、彼と格好が似ているのが気になりますが、とても美しいですよ」

「ありがとうございます」

「魔華のことでいろいろあってあなたとは離れ離れになってしまいましたが、あなたのことをもっと知りたい、あなたの力になりたいと思っています。私にとってあなたはとても大切な存在なのですよ」

溜息の出るような美形の王様に真顔で告白まがいのセリフをいわれて赤くなってしまう。

「だから、私の方でも色々調べているのですよ。魔華のことを」

「えっ?」

「もちろん、私の国にはほとんど情報がないので、あなたが元いた異世界に住む妖精たちから聞き出しているのです」

「そうなんですか?」

「ええ。それで、少し面白いことがわかったのです」

「面白いこと?」

「私の世界は元々、口伝でいろいろなことを伝えることが普通でした。それで王家に伝わる古い予言とあなたの世界の妖精たちが伝えている予言が似ていることに気づいたのです」

「遥か彼方から現れし乙女、古の力を用いて、幾千もの時空間を渡り、暁の明星を抱かん。これがイギリスの妖精国の予言。魔が栄光の冠を抱く時、遥か彼方から現れし華の乙女、妖精国の新しい光とならん、これが我が国で言い伝えられている口伝です」

予言なんてみんな似たような口調だから似ていると感じるのでは?とリナは思ったが、普段は冷静な妖精王が興奮しているので、頷くことにしておいた。

「この予言はリナ、あなたのことだと思うのですよ。あなたは私だけでなく我が国に光を与える特別な存在なのだと思うのですよ」

「でも、魔華の力はそういうものではないのでは、破滅に導くものなんでしょう?」

「魔華を受けたのは魔族のだけで、ヒトではありませんでした。あなたは異世界人です。なので、効力が違うという可能性もあります。あなたの力になりたいのはアルフォンソだけではありません。私も同じように、いえ、それ以上にあなたの力になりたいと思っています」

彼の真剣な想いが心に響く。だけどなんて言葉を返していいのかわからない。

「あなたの、花や植物に対する優しさ、違う世界に来ても自分を失わずに笑顔でいるところを好ましいと思っていましたが、アルフォンソの元に行ってしまってから、あなたの存在を好ましいという以上の気持ちを持っていることに気づきました。多分、あの日、あなたに初めて会った瞬間から抱いていた気持ちだったのでしょう」

「えっ」

「だから、助けるためとはいえ、我が国に連れて来てしまった。無意識の行動だったとはいえ、リナには申し訳ないと思っています」

「いえ、あの、でも、それで助かったんだし、異世界だけど、みんなには良くして貰ってるし!気にしてません」

これはやっぱり、告白されてるよね?一目惚れされてるよね?

告白なんて一度もされたことがないからどういうリアクションを返していいのかわからない。意味もなくテンパってしまう。真っ赤になってアワアワしている私を見て静かに微笑んだ妖精王は言葉を続けた。

「大丈夫ですから。私があなたを守ります」

妖精王が指を鳴らすと、フワッと白い花が現れて、私の髪飾りとドレスの装飾の一部になった。

「あなたをアルフォンソだけに着飾らせるのは勿体無い。綺麗ですよ。花の女神のようです」

「ありがとうございます」

戴冠式の真っ最中だというのに妖精王の口説きにあって、気がついたら、魔力の継承もとっくに終わり、アルフォンソ様は国賓の他の王族の方々と談笑しているところで、私と、妖精王に目を止めると、私たちのところにやって来た。

「新王、この度は、王位継承おめでとうございます」

「おめでとうございます」

私と妖精王が挨拶すると、

「夫婦みたいな挨拶してんじゃねえ!」

と突っ込まれた。

「俺の女らしい格好をと頼んだつもりだったのに、何故お前の手垢がついている?」

と、返礼の挨拶そっちのけで、王様になってもアルフォンソ様らしい自由さそのままにいう。

「あなたの女ではありませんよ。リナは魔華のためにゲストとしてそちらのいるだけですから」

「俺が王になった以上、立場は対等だからな!」

「魔華のことならこちらでも調査中です。ああ、ヌーベルンゲン侯爵がこちらに来られますよ?王?」

アルフォンソのことをよく思っていない宰相の親、ヌーベルンゲンがでっぷりとした体を揺さぶって近づいてくる。

「とりあえず、リナは渡さないからな。リナ、また後で」

アルフォンソ様はまだ話し足りない様だったけれど、その場を離れると、近くにいた隣国の王に話しかけることで、

嫌味貴族との接触を避けたのだった。

「貴族って大変そうですね」

「ええ。時に魔族のいる世界は足の引っ張り合いが激しいですからね。表面は王の力のせいもあり、穏やかそうに見えますけれどね」

そういうところは私のいた世界とあまり変わりないんだなとうっすら思う。

「来週、キャルーナのほとりに行きましょう。魔力緩和の威力があります。城にひきこもって、文献とにらめっこも疲れるでしょう?ほとりのそばにはたくさんの可愛らしい動物もいます」

「動物?」

「あなたの世界でいうユニコーン、可愛らしい子猫みたいなものなどいろいろいます」

「猫?きゃー!!!行きたい!行きます」

私は猫好きだ。というより可愛い動物全般大好きだ。思わず「初デート」の誘いっぽいものを一つ返事で受けてしまった。

「では、その時までに職務を片付けておきますので。リナの好きなものや美味しいものを持って行きましょうね」

クスクス笑う妖精王の隣で真っ赤になりながら、戴冠式を終えたのだった。








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