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セシルとしての人生
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「どうして…」
「私にもわかりません」
日頃から突然の事態の対処に慣れていたセシリアだったが、上手く頭が回らない。
「ガートランドから十分に離れてからヘルガに書簡を出して、問い合わせましょう」
「そっ、そうね。ヘルガが何とかしてくれるわ」
しばしの沈黙が続く。
「でも、この姿なら、私だって、気づかれる心配はないわね」
「王都を出たとはいえ、郊外でも、近隣の諸国では姫様のお顔は知られておりますから、少年の姿のままなら移動には最適ですが…」
「エリアスがわからないことを考えても仕方ないわ。とりあえず食事を取る事にしましょう」
「はい。ここは平民しか寄り付きませんので、姫様のお口に合うかわかりませんが」
「人目につかないところの方がいいわ。味の方は食べてみないとわからないし」
「そうですね。では、ここでよろしいですか?」
「ええ」
食事処は小さく簡素な建物だったが、地元の平民によく利用されており、繁盛していた。
「わあ、たくさんの人!人気があるのねぇ」
「ええ。旅の途中に立ち寄った際に見つけたのですが、なかなか美味しかったですよ」
「そうなの。じゃあ、エリアスが美味しいと思ったものを私も食べてみたいわ」
「了解致しました」
ふくよかな体つきの店の女将に数品を注文して、やっとエリアスはいつもの調子に戻った。頼んだ品は地元の野菜や山菜がたくさん入ったスープと麦パンそしてこの地の特産であるラトルという果実が出てきた。
「わあ、こういうお料理は初めてだわ」
「粗末なお料理で申し訳ありません」
「これからはこういうお料理にもどんどん慣れていかなくっちゃいけないから、大丈夫よ」
セシリアはスプーンでスープをすくって口にする。
「美味しい!」
彼女の言葉にエリアスが微笑む。
「それは、ようございました」
「さすが、エリアスね!」
セシリアは丁寧が仕草でスープとパンを口に入れると、エリアスも食事を始めた。
「これから夕暮れまで、馬を飛ばしてそれから宿を取る事になります。明後日には山を越えて、セルフィード公国に入ります」
「セルフィードまで来れば、ヘルガに連絡できるかしら?」
「はい。セルフィードに馴染みの商人がおりますので、ヘルガの気に入りそうなものを届けさせる事にして、
そこに書簡を忍ばせましょう」
「大丈夫なの?」
「ええ。ヘルガの母国の言葉で記載しますから、ガートランドの国の者にはわかりませんよ」
「エリアスはヘルガの国の言葉も話せるの?」
エリアスはセシリアに向かって微笑むと静かに頷く。
「お辛いと思いますが、あとしばらくご辛抱ください」
「ありがとう。エリアス」
食事を終えてから、エリアスはセシリアのための衣装を買い上げた。城で仕入れてきた小姓の衣装よりもさらにシンプルで、馬に乗りやすく、セシリアの皮膚を保護する厚手のシャツと足首まで覆う動きやすいパンツで、同じようなデザインのものを数点、膝まで隠れる男でも女でも大丈夫な子供用の夜着を選んで、少年用の下着も何点かその中に忍ばせて、セシリアの乗る自身の馬にくくりつけると、彼が乗るための馬を選ぶために馬商に足を伸ばした。その中で一番頑丈で、長距離の旅に適した黒馬はないかと尋ねる。
「二人乗りで旅するよりも、2頭の方が馬の負担も少なく、より早く目的地に着けます。セフィールドに一刻も早く入国したいですからね」
「そうね」
陽気な馬商の主人がセシリアに声をかける。
「旅は初めてかい?」
「ええ」
「最初見たときは女の子かと思ったけれど、あんたの弟さんは綺麗な顔してるねえ」
いかつい体格にヒゲの主人の言葉にセシリアは顔を赤らめる。
「この子はあまり家から出たこともなく、この通りあまり世間に出たことがないので、よく女の子に間違われるんですよ。鍛えるために色々連れて回るつもりなんですよ」
「そうかい。坊ちゃんが旦那のような立派な騎士様になるつもりなら、世間を知らなくっちゃやってけないねえ」
「そうなんですか?」
「おうよ!男と生まれたからには、やはりそれぞれの使命がありますがね。私共のような商人は馬のことを学んでそれを売るための知識を世間様から勉強させてもらってますが、騎士様も様々な土地を巡って情勢のことを知らないといけない聞いております」
「へえ」
セシリアが上目遣いにエリアスを見上げる。
「ええ。剣の腕だけでは主人をお守りすることはできませんから。では、この馬を一頭」
エリアスはテキパキと一番頑丈そうな黒馬と馬具も同様に選んだ。
「へい!旦那、毎度、ありがとうございます!」
賑やかな声に見送られながら、馬商を後にした。二人乗りの時には気づかなかったが、少女の体ではなく少年の体での乗馬はいささか勝手が違って、少し戸惑ったが、コツを掴むとエリアスの駆る黒馬のスピードについて行くことができるようになった。長い乗馬に慣れないセシリアのために、途中の休憩を入れるために見晴らしのいい場所に腰をつける。
「姫様のお名前ですが、どうしましょうか?」
「セシルとか、どうかしら?これなら男の子の名前でもおかしくないでしょう?乳母がね、小さな頃にそう呼んでくれてたの」
「そうですか。では、そのようにいたしましょう」
「やっぱり男の子ってわかるものなのねえ」
「商人は色々な人を見ていますからね」
「エリアスの弟っていう設定でおかしくないかしら?」
「その方が怪しまれません。実際に私には弟が3人いますし」
エリアスの言葉にセシリアは目を丸くする。
「知らなかったわ」
「ガートランドにも幾度か社会勉強のために来たたことがあります」
「お城にも来たの?」
「いえ。主にガートランドの街巡りをしただけです」
「ずっと病弱であまり外に出たことがないので人見知りをするかと思い、お城には登城させませんでした」
「そうなの。エリアスの弟さんなら綺麗な子なんでしょうねえ」
「セシリア様ほどではありませんよ」
「エリアスったら」
エリアスの言葉に顔を赤らめて、それをごまかすかのように会話を続ける。
「でもそうなら、その言葉遣いはやめた方がいいんじゃないかしら?」
「それは、大丈夫です。私は誰に対してでもこの話し方にするようにしておりますから」
「弟さんにも?」
「ええ。良い手本になるでしょう?」
「そうねえ」
「姫様の方こそ男言葉をお使いになられた方がいいかと存じます。そのままでは衆道を嗜む者に目をつけられてしまいます」
「衆道?それはどのような?」
「同じ性別同士で愛し合う者たちのことです」
「まあ!そのようなことが可能なの?」
「はい。大切なセシリア様をそのような危険に置くことはできませんので」
「エリアスは?そのっ…」
「私は女性のみにしか興味はありません。それも姫様限定ですから。騎士たちの中にはそういう趣味の者たちや人買いがいるので知識として知っていおりますが」
「まあ、そうなの」
「はい。なので姫様の純潔はエリアスがお守りしますので、ご心配なく」
「ありがとう」
エリアスの言葉に少しがっかりしたセシリアだったが、閨の知識が欠けているために純潔を守るという意味を理解していない。エリアスが愛の言葉をセシリアに囁いた時の熱い口づけはねやの知識の部分に入るのかもしれないが、そのあとは「殿方に全てお任せすれば良いのです」という閨の教育しか受けていないので、さっぱりわからない。そのため同じ性別同士でも男女のように閨で愛し合うことができる「衆道」についても嫌悪感を抱かなかった。
「では、小姓の子が使っていた言葉遣いをすることにするわね」
「はい。お願いします」
セシリアの素直な言葉に安堵したエリアスは
「さあ、先を急ぎましょう。夕刻までに宿に着くようにしないと危険ですから」
と馬を走らせた。
「私にもわかりません」
日頃から突然の事態の対処に慣れていたセシリアだったが、上手く頭が回らない。
「ガートランドから十分に離れてからヘルガに書簡を出して、問い合わせましょう」
「そっ、そうね。ヘルガが何とかしてくれるわ」
しばしの沈黙が続く。
「でも、この姿なら、私だって、気づかれる心配はないわね」
「王都を出たとはいえ、郊外でも、近隣の諸国では姫様のお顔は知られておりますから、少年の姿のままなら移動には最適ですが…」
「エリアスがわからないことを考えても仕方ないわ。とりあえず食事を取る事にしましょう」
「はい。ここは平民しか寄り付きませんので、姫様のお口に合うかわかりませんが」
「人目につかないところの方がいいわ。味の方は食べてみないとわからないし」
「そうですね。では、ここでよろしいですか?」
「ええ」
食事処は小さく簡素な建物だったが、地元の平民によく利用されており、繁盛していた。
「わあ、たくさんの人!人気があるのねぇ」
「ええ。旅の途中に立ち寄った際に見つけたのですが、なかなか美味しかったですよ」
「そうなの。じゃあ、エリアスが美味しいと思ったものを私も食べてみたいわ」
「了解致しました」
ふくよかな体つきの店の女将に数品を注文して、やっとエリアスはいつもの調子に戻った。頼んだ品は地元の野菜や山菜がたくさん入ったスープと麦パンそしてこの地の特産であるラトルという果実が出てきた。
「わあ、こういうお料理は初めてだわ」
「粗末なお料理で申し訳ありません」
「これからはこういうお料理にもどんどん慣れていかなくっちゃいけないから、大丈夫よ」
セシリアはスプーンでスープをすくって口にする。
「美味しい!」
彼女の言葉にエリアスが微笑む。
「それは、ようございました」
「さすが、エリアスね!」
セシリアは丁寧が仕草でスープとパンを口に入れると、エリアスも食事を始めた。
「これから夕暮れまで、馬を飛ばしてそれから宿を取る事になります。明後日には山を越えて、セルフィード公国に入ります」
「セルフィードまで来れば、ヘルガに連絡できるかしら?」
「はい。セルフィードに馴染みの商人がおりますので、ヘルガの気に入りそうなものを届けさせる事にして、
そこに書簡を忍ばせましょう」
「大丈夫なの?」
「ええ。ヘルガの母国の言葉で記載しますから、ガートランドの国の者にはわかりませんよ」
「エリアスはヘルガの国の言葉も話せるの?」
エリアスはセシリアに向かって微笑むと静かに頷く。
「お辛いと思いますが、あとしばらくご辛抱ください」
「ありがとう。エリアス」
食事を終えてから、エリアスはセシリアのための衣装を買い上げた。城で仕入れてきた小姓の衣装よりもさらにシンプルで、馬に乗りやすく、セシリアの皮膚を保護する厚手のシャツと足首まで覆う動きやすいパンツで、同じようなデザインのものを数点、膝まで隠れる男でも女でも大丈夫な子供用の夜着を選んで、少年用の下着も何点かその中に忍ばせて、セシリアの乗る自身の馬にくくりつけると、彼が乗るための馬を選ぶために馬商に足を伸ばした。その中で一番頑丈で、長距離の旅に適した黒馬はないかと尋ねる。
「二人乗りで旅するよりも、2頭の方が馬の負担も少なく、より早く目的地に着けます。セフィールドに一刻も早く入国したいですからね」
「そうね」
陽気な馬商の主人がセシリアに声をかける。
「旅は初めてかい?」
「ええ」
「最初見たときは女の子かと思ったけれど、あんたの弟さんは綺麗な顔してるねえ」
いかつい体格にヒゲの主人の言葉にセシリアは顔を赤らめる。
「この子はあまり家から出たこともなく、この通りあまり世間に出たことがないので、よく女の子に間違われるんですよ。鍛えるために色々連れて回るつもりなんですよ」
「そうかい。坊ちゃんが旦那のような立派な騎士様になるつもりなら、世間を知らなくっちゃやってけないねえ」
「そうなんですか?」
「おうよ!男と生まれたからには、やはりそれぞれの使命がありますがね。私共のような商人は馬のことを学んでそれを売るための知識を世間様から勉強させてもらってますが、騎士様も様々な土地を巡って情勢のことを知らないといけない聞いております」
「へえ」
セシリアが上目遣いにエリアスを見上げる。
「ええ。剣の腕だけでは主人をお守りすることはできませんから。では、この馬を一頭」
エリアスはテキパキと一番頑丈そうな黒馬と馬具も同様に選んだ。
「へい!旦那、毎度、ありがとうございます!」
賑やかな声に見送られながら、馬商を後にした。二人乗りの時には気づかなかったが、少女の体ではなく少年の体での乗馬はいささか勝手が違って、少し戸惑ったが、コツを掴むとエリアスの駆る黒馬のスピードについて行くことができるようになった。長い乗馬に慣れないセシリアのために、途中の休憩を入れるために見晴らしのいい場所に腰をつける。
「姫様のお名前ですが、どうしましょうか?」
「セシルとか、どうかしら?これなら男の子の名前でもおかしくないでしょう?乳母がね、小さな頃にそう呼んでくれてたの」
「そうですか。では、そのようにいたしましょう」
「やっぱり男の子ってわかるものなのねえ」
「商人は色々な人を見ていますからね」
「エリアスの弟っていう設定でおかしくないかしら?」
「その方が怪しまれません。実際に私には弟が3人いますし」
エリアスの言葉にセシリアは目を丸くする。
「知らなかったわ」
「ガートランドにも幾度か社会勉強のために来たたことがあります」
「お城にも来たの?」
「いえ。主にガートランドの街巡りをしただけです」
「ずっと病弱であまり外に出たことがないので人見知りをするかと思い、お城には登城させませんでした」
「そうなの。エリアスの弟さんなら綺麗な子なんでしょうねえ」
「セシリア様ほどではありませんよ」
「エリアスったら」
エリアスの言葉に顔を赤らめて、それをごまかすかのように会話を続ける。
「でもそうなら、その言葉遣いはやめた方がいいんじゃないかしら?」
「それは、大丈夫です。私は誰に対してでもこの話し方にするようにしておりますから」
「弟さんにも?」
「ええ。良い手本になるでしょう?」
「そうねえ」
「姫様の方こそ男言葉をお使いになられた方がいいかと存じます。そのままでは衆道を嗜む者に目をつけられてしまいます」
「衆道?それはどのような?」
「同じ性別同士で愛し合う者たちのことです」
「まあ!そのようなことが可能なの?」
「はい。大切なセシリア様をそのような危険に置くことはできませんので」
「エリアスは?そのっ…」
「私は女性のみにしか興味はありません。それも姫様限定ですから。騎士たちの中にはそういう趣味の者たちや人買いがいるので知識として知っていおりますが」
「まあ、そうなの」
「はい。なので姫様の純潔はエリアスがお守りしますので、ご心配なく」
「ありがとう」
エリアスの言葉に少しがっかりしたセシリアだったが、閨の知識が欠けているために純潔を守るという意味を理解していない。エリアスが愛の言葉をセシリアに囁いた時の熱い口づけはねやの知識の部分に入るのかもしれないが、そのあとは「殿方に全てお任せすれば良いのです」という閨の教育しか受けていないので、さっぱりわからない。そのため同じ性別同士でも男女のように閨で愛し合うことができる「衆道」についても嫌悪感を抱かなかった。
「では、小姓の子が使っていた言葉遣いをすることにするわね」
「はい。お願いします」
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