21 / 78
エリアス作戦開始!
しおりを挟む
「これで、足りるでしょうか?」
金貨が入った小袋をルーレシアでは極めて平均的な容姿の茶目、茶髪の少女、ベッキーに手渡す。
「なんせ、命がけの仕事だからねぇ」
「ええ。ですが、これだけあれば、充分でしょう?」
確かに情報提供だけなのに破格の額だ。
「で、何をすればいいんだい?」
「金髪で青い目の少女が城内に閉じ込められているかどうか、探ってきて欲しいんです」
「臨時の名炊きに呼ばれただけだから、たいした情報は集められないと思うけど?」
「あなたのポジションが一番重要なんですよ。どこにいたって食事は必要でしょう?宮廷に出す食事と違うもの、運ばれる場所が違うものがあれば、教えてください」
「よくわかんないや、どういうこと?」
「例えば、王太子の名前で余分に作られる食事とか、そういうのがあれば目を光らせて、できればその食事を運ぶ役目の者が誰か突き止めてもらえばよい」
「わかった。それぐらいならできる。週末は休みだから、その時にまとめて報告でいい?」
「ええ。あと、できれは城の間取りや城によく出入りする商人や行商の名前がわかれば、余分のお金も出しますよ」
「わかった。どこまでできるかわからないけれど、やってみる」
「ありがとうございます」
ルーレシアでは極めてありきたりな、凡庸な容姿の娘がニッカリ笑う。印象に残ることのない容姿は、本人が意図していないにも関わらず、諜報活動にぴったりだ。臨時採用ということは、本人に降りかかる危険性も低い。
エリアスは、目の前で、肉とスープを平らげる娘を見て微笑んだ。
セシリア様が城内にいるという証拠さえ、掴めばあとは商人のふりをして城に入り込めば良い。
相変わらず、ハインリッヒが出歩いている噂は聞かない。
あれだけ好色な男が花街に顔を出さないなんでありえない。
「これ、家族の分も持って帰っていいかな?」
「ええ。4人前持ち帰り分のオーダーお願いできますか?」
町人で賑わう庶民の台所ともいえる「マーサの庭」のふくよかな女将に声をかける。
「あいよ!父ちゃん!テイクアウト4丁!」
「おうさ!」
大将は台所での調理担当、カウンター式なので、客と会話できるのだが、口よりも手を動かす方が得意な男だ。
「これだけあればも母さんも良くなる。それにしても兄さん、お金持ちだねえ。貴族かなんかなの?」
「残念ながら、私は、主人の言い付けで、探しているだけです」
「へえ。じゃあ、あんたのご主人様が貴族なんだ?ならその人も貴族のお姫様?」
エリアスは曖昧に微笑みを浮かべた。
嘘はついていない。
セシリア姫ならエリアスに自分を探して救い出せというだろう。
「それなら余計怖いよねえ。(あの方の)噂は色々あたいらのところでも聞いてるから。酷い事とか好きらしいし、やばいよ、すごい」
「ええ。だから一刻も早く様子を知りたいんです」
「わかった!あたいに任しといて!」
ベッキーはソバカスだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。
◇ ◇ ◇
それから数日してベッキーから連絡があった。
マーサの庭で落ち合って、いつものようにベッキーの食べたいものをオーダーすると、茶色の瞳をキラキラさせて、興奮気味に茶色の髪の少女が口を開いた。
「やっぱり、お兄さんいったとおりだったよ!」
詳しく話を聞いてみると、やはり王太子の夜食や間食という名目で、宮廷の料理とは余分に食事が作られていた。それは宮廷料理よりはるかな質素なもので、スープやパン、サラダに加えて、手でつまめるものが中心。そして、その習慣がここ最近になって始まったものだということだった。
「でね、あたいがなんとその手伝いの担当なんだよ!宮廷料理を作るのが手いっぱいらしくてさ、でも夜食や間食は庶民の娘でも作れそうなメニューだからさ、人手が足りなくて、それで雇われたみたい」
「ええ。で、それを給仕するのは誰なんですか?」
「それがね、あの方自ら取りにくるんだって。変でしょう?」
「ええ。確かに変ですね」
「でね、昨日のことなんだけど、いつもとは違う時間に来たの!その時に私が応対したんだけどさ、すごい怖かった。で、食事を渡したんだけど、その時に甘い香りがしたんだよね」
「甘い香り、ですか?」
「うん。香油の。お花の香り」
香油は貴族の男性もつけるが花の香りは明らかに女性のものだ。
「それは決定的ですね。で、どこに運ばれるんでしょうね?」
「それは、わかんないけど、普段、給仕の人たちが行くのとは全く反対の方向だったから、王宮じゃない。それにあの量なら女の子がいても十分賄える量だよ」
「そうですか。で、城に出入りしてる行商とか商人の名前はわかりましたか?」
「宮廷の料理関係の仕入れは、ダースト商会を使ってるって聞いたけど、他はわかんない。城に入ったら、調理場に直行で、その外に行くことはないからさ」
それなら城の間取りは難しそうだ。
「そうですか。また何か変わったことがあったら、教えてください」
エリアスはそういうと、金貨を1枚手渡した。
「まいど!」
少女がニッカリと笑って臨時報酬を受け取った。
やはり、セシリアはハインリッヒの城に密かに幽閉されているのだ。公に食事を造らせていないところをみると、彼女の存在は王太子にしか知られていない、と考えるべきだろう。なら、城内の部屋に軟禁されていたり、地下牢などに監禁されている確率はほとんどない。
王宮外の離宮のようなところにいるのだろうか?
だとすれば、城に侵入してから、兵士か何かとすり替わって救出するしかないですね。
ガートランドに及ばず大陸でも指折りの騎士といわれるエリアスにとってはそんなに難しいことではない。
作戦自体はいたってシンプルだ。
セシリアと気付かれることなく、連れ出す方法が必要なのだが。
セシリア様、今すぐ、お助けしますからね。
エリアスは、自分の食事も適当に切り上げると、ダースト商会に向かった。
金貨が入った小袋をルーレシアでは極めて平均的な容姿の茶目、茶髪の少女、ベッキーに手渡す。
「なんせ、命がけの仕事だからねぇ」
「ええ。ですが、これだけあれば、充分でしょう?」
確かに情報提供だけなのに破格の額だ。
「で、何をすればいいんだい?」
「金髪で青い目の少女が城内に閉じ込められているかどうか、探ってきて欲しいんです」
「臨時の名炊きに呼ばれただけだから、たいした情報は集められないと思うけど?」
「あなたのポジションが一番重要なんですよ。どこにいたって食事は必要でしょう?宮廷に出す食事と違うもの、運ばれる場所が違うものがあれば、教えてください」
「よくわかんないや、どういうこと?」
「例えば、王太子の名前で余分に作られる食事とか、そういうのがあれば目を光らせて、できればその食事を運ぶ役目の者が誰か突き止めてもらえばよい」
「わかった。それぐらいならできる。週末は休みだから、その時にまとめて報告でいい?」
「ええ。あと、できれは城の間取りや城によく出入りする商人や行商の名前がわかれば、余分のお金も出しますよ」
「わかった。どこまでできるかわからないけれど、やってみる」
「ありがとうございます」
ルーレシアでは極めてありきたりな、凡庸な容姿の娘がニッカリ笑う。印象に残ることのない容姿は、本人が意図していないにも関わらず、諜報活動にぴったりだ。臨時採用ということは、本人に降りかかる危険性も低い。
エリアスは、目の前で、肉とスープを平らげる娘を見て微笑んだ。
セシリア様が城内にいるという証拠さえ、掴めばあとは商人のふりをして城に入り込めば良い。
相変わらず、ハインリッヒが出歩いている噂は聞かない。
あれだけ好色な男が花街に顔を出さないなんでありえない。
「これ、家族の分も持って帰っていいかな?」
「ええ。4人前持ち帰り分のオーダーお願いできますか?」
町人で賑わう庶民の台所ともいえる「マーサの庭」のふくよかな女将に声をかける。
「あいよ!父ちゃん!テイクアウト4丁!」
「おうさ!」
大将は台所での調理担当、カウンター式なので、客と会話できるのだが、口よりも手を動かす方が得意な男だ。
「これだけあればも母さんも良くなる。それにしても兄さん、お金持ちだねえ。貴族かなんかなの?」
「残念ながら、私は、主人の言い付けで、探しているだけです」
「へえ。じゃあ、あんたのご主人様が貴族なんだ?ならその人も貴族のお姫様?」
エリアスは曖昧に微笑みを浮かべた。
嘘はついていない。
セシリア姫ならエリアスに自分を探して救い出せというだろう。
「それなら余計怖いよねえ。(あの方の)噂は色々あたいらのところでも聞いてるから。酷い事とか好きらしいし、やばいよ、すごい」
「ええ。だから一刻も早く様子を知りたいんです」
「わかった!あたいに任しといて!」
ベッキーはソバカスだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。
◇ ◇ ◇
それから数日してベッキーから連絡があった。
マーサの庭で落ち合って、いつものようにベッキーの食べたいものをオーダーすると、茶色の瞳をキラキラさせて、興奮気味に茶色の髪の少女が口を開いた。
「やっぱり、お兄さんいったとおりだったよ!」
詳しく話を聞いてみると、やはり王太子の夜食や間食という名目で、宮廷の料理とは余分に食事が作られていた。それは宮廷料理よりはるかな質素なもので、スープやパン、サラダに加えて、手でつまめるものが中心。そして、その習慣がここ最近になって始まったものだということだった。
「でね、あたいがなんとその手伝いの担当なんだよ!宮廷料理を作るのが手いっぱいらしくてさ、でも夜食や間食は庶民の娘でも作れそうなメニューだからさ、人手が足りなくて、それで雇われたみたい」
「ええ。で、それを給仕するのは誰なんですか?」
「それがね、あの方自ら取りにくるんだって。変でしょう?」
「ええ。確かに変ですね」
「でね、昨日のことなんだけど、いつもとは違う時間に来たの!その時に私が応対したんだけどさ、すごい怖かった。で、食事を渡したんだけど、その時に甘い香りがしたんだよね」
「甘い香り、ですか?」
「うん。香油の。お花の香り」
香油は貴族の男性もつけるが花の香りは明らかに女性のものだ。
「それは決定的ですね。で、どこに運ばれるんでしょうね?」
「それは、わかんないけど、普段、給仕の人たちが行くのとは全く反対の方向だったから、王宮じゃない。それにあの量なら女の子がいても十分賄える量だよ」
「そうですか。で、城に出入りしてる行商とか商人の名前はわかりましたか?」
「宮廷の料理関係の仕入れは、ダースト商会を使ってるって聞いたけど、他はわかんない。城に入ったら、調理場に直行で、その外に行くことはないからさ」
それなら城の間取りは難しそうだ。
「そうですか。また何か変わったことがあったら、教えてください」
エリアスはそういうと、金貨を1枚手渡した。
「まいど!」
少女がニッカリと笑って臨時報酬を受け取った。
やはり、セシリアはハインリッヒの城に密かに幽閉されているのだ。公に食事を造らせていないところをみると、彼女の存在は王太子にしか知られていない、と考えるべきだろう。なら、城内の部屋に軟禁されていたり、地下牢などに監禁されている確率はほとんどない。
王宮外の離宮のようなところにいるのだろうか?
だとすれば、城に侵入してから、兵士か何かとすり替わって救出するしかないですね。
ガートランドに及ばず大陸でも指折りの騎士といわれるエリアスにとってはそんなに難しいことではない。
作戦自体はいたってシンプルだ。
セシリアと気付かれることなく、連れ出す方法が必要なのだが。
セシリア様、今すぐ、お助けしますからね。
エリアスは、自分の食事も適当に切り上げると、ダースト商会に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる