レポート地獄の女子大生と野球拳アプリ

こころ さづき

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前編 レポート地獄と謎のアプリ

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「あー、もう!なんでレポート全然終わんないの!」

 大学一年生の美咲は、肩まで伸ばした茶髪と大きな瞳が印象的な、明るく愛らしい女の子だ。華奢な体から溢れるような豊かな髪は、いつも綺麗に整えられている。おっとりとした天然な性格で、困ったことがあるとすぐに表情に出るのも愛嬌。その天真爛漫な笑顔は、周りの人々を自然と笑顔にさせる、ひまわりのような存在だ。

 しかし、今日の美咲は違った。締め切りが明日に迫ったレポートは未だ白紙。大学の空き教室で一人、頭を抱える彼女の茶髪は乱れ、いつも輝いている瞳には焦りと疲労の色が濃い。華奢な体から溢れるような豊かな髪も、今日ばかりは力なく、項垂れているように見えた。普段の明るい笑顔は影を潜め、その可愛らしい顔立ちには、悩める乙女の憂いが帯びていた。

「美咲、何してんの?」

 親友の由佳が、分厚い本を抱えてやってきた。さらさらの黒髪ロングヘアが美しい、美咲とは対照的にクールな雰囲気の美人だ。いつも冷静沈着で、成績も優秀。美咲にとっては、頼れるお姉さん的存在である。

 しかし、今日はその表情に、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「見ての通り、レポート地獄。由佳は?」

「私はとっくに終わらせたよ。今日は追加の資料探しに図書館へ行ってたの」

 涼しい顔で答える由佳に、美咲はさらにため息をついた。

「いいなぁ、要領よくて。私、ほんとダメダメで……」

「そんなことないよ。美咲はいつも一生懸命じゃん。…ねえ、ちょっと息抜きしない?この教室、他の人来なさそうだし」

 由佳がニヤリと笑う。その笑顔には、何か企んでいるような、悪戯っぽい光が宿っていた。彼女は時々、こういう突拍子もないことを言い出すことがある。

「え、息抜きって…何するの?」

「ふふふ…私の秘密兵器を持ってきたの!」

 そう言って、由佳はバッグからスマートフォンを取り出した。

「何それ?」

「実は、最近ハマってるアプリがあって。これなんだけど」

 由佳はスマホの画面を見せる。画面には、ポップなデザインのアイコンが表示されている。

「何これ。レトロなじゃんけんゲーム?」

「そう!これね、Bluetoothで対戦できるんだよ。負けたら一枚脱ぐ、野球拳なの」

 由佳が、楽しそうに笑いながら言った。

「はぁぁぁぁ!?」

 美咲は驚愕のあまり、大きな声を出してしまった。幸い、他に人の気配はない。美咲は慌てて口を押さえ、由佳を睨みつけた。

「ちょ、ちょっと由佳!何考えてるの!?ここで何言い出すの!?」

「だって、美咲、全然レポート進んでないんでしょ?だったら、ちょっと刺激的なゲームで脳を活性化させようと思って!」

「いやいや、そういう問題じゃなくて!」

「じゃあ、こうしよう。美咲が勝ったら、私が美咲のレポート、手伝ってあげる。その上、実はこのレポートに使えそうだったけど、最終的には使わなかった資料があるの。もし美咲が勝ったら、それ、あげるよ。もしかしたら、美咲のレポートのヒントになるかもしれないし」

「えっ…」

「でも、私が勝ったら…美咲、一枚脱ぐ。これなら、ただ遊ぶより真剣になれるでしょ?」

「…それって、結局私が脱ぐ前提じゃん!」

「そうだけど…美咲が勝ち続ければいいだけの話だし、お互い本気で勝負したら、きっといい気分転換になるかなって」

「うう…でも…」

 迷う美咲。レポートの進捗は絶望的。由佳の手伝いと、レポートのヒントになりそうな資料は、喉から手が出るほど欲しい。

 しかし、負けたら…。想像しただけで顔が熱くなる。美咲は、チラリと自分の服装を確認した。カーディガン、シャツ、そしてキャミソール。今日は重ね着をしているとはいえ、あまり回数は負けられない。

 美咲は少し心配になって由佳に確認することにした。由佳は美咲のよき相談相手であり、信頼できる大切な友人だが、時々、美咲には理解しがたい行動をとる時があるからだ。

「…由佳、それ、本当に普通のアプリなのね?変な仕掛けとかないよね?」

「もちろん!App Storeには無いから、これ、美咲のスマホにも入れてあげる」

 由佳はそう言って、自分のスマホに表示したQRコードを美咲に見せた。美咲は少し怪しみながらも、自分のスマホでQRコードを読み込み、アプリをインストールした。

 天然な性格の美咲は、危機感が少し足りないのかもしれない。

「…まあ、一回だけなら、いいけど…」

「よし、決まり!じゃあ、Bluetoothをオンにして、アプリを起動して」

 由佳の指示に従い、二人でスマホを操作する。美咲は、少しドキドキしながらアプリを起動した。由佳の瞳の奥には、強い意志のような光が宿っているように見えた。

「準備はいい?負けたら本当に脱いでもらうからね」

「わ、わかってるよ…」

 こうして、大学の空き教室で、二人の女子大生による、秘密の「野球拳」が幕を開けた。
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