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プロローグ
第2話 一般的に見れば壮絶な生い立ち
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果たして、俺が一体何年その地獄にいたのか、俺が生まれたのがどこなのかは知らない。
物心ついた時には師匠に育てられていて、【荒れ地】の中をさまよっていた。
【荒れ地】とは魔法戦争の主戦場になった場所で、魔力の残留物と、壊れた魔道具と、そして、奇妙に変化した魔物たちによって支配された土地のことを指す。
めまぐるしく気候と気温が変わり、さっきまで真夏みたいに肌が焼けそうだったのに、今は雪が降って地面が凍っているなんてことがざらにある。
当然子供を育てる環境には向かないのだけれど、師匠は俺をそこで育てた。
虐待だと思う。
温室で育ちたかった。
俺の魔力が安定するまでは、「魔力のためだ」と言われ苦くて喉が痛くなる訳のわからないものをガンガン食わされて、体を引きつらせて死にそうになり、走り回り、剣を振り、泥のように眠る生活が続いた。
師匠の作った住処は【荒れ地】にあっても外の気候に影響されず魔物も入ってこないよう魔道具が常に動いている場所で「ここから出たら死ぬぞ」と口酸っぱく言われていた。
事実、窓の外で魔物が一瞬で体を切断されて死ぬのを見たのは一度や二度ではない。
そう考えれば温室で育ったようなものではあるがそれは相対的なものであり、はじめから【荒れ地】を選ばなければいいだろ、なに考えてんだ。
師匠はアホだった。
見かけ四十半ばのエルフの男だったけれど、本当の年齢は知らない。
あらゆることを知っていて、でも、アホだった。
知識があるのとアホさ加減とは別物だ。
俺はその適当さで何度死にそうになったかわからない。
外に出ることを許されたのは十二歳(師匠がそう言っていた)の頃。
出ることを許されたというか、放り出された。
魔力を蓄え、ある程度身を守る魔法を学んだ俺は、突然首根っこを掴まれて外に放り出され、
「今日の夕食を狩ってこい」
そう言われた。
気候から体を守るので精一杯。
師匠からもらった剣を震える手で持ってあたりを見回す。
俺を襲おうとした魔物がもっとでかい魔物に一瞬で切り裂かれる。
空をバサバサと巨大な翼が通り、地中からいきなり鋭い牙が顔をだす。
突然、背後から飛びかかってきた魔物を転げるようにして避け、俺はなんとか急所を突き刺した。
魔物が死んだ瞬間、体が崩れ落ちていくつかのアイテムがその場に残る。
ドロップと呼ばれる現象で、ダンジョンから溢れた魔物を倒すと起きる。
出てきたのは魔石と爪、頑丈な革、それから肉だった。
俺は慌てて回収して家に戻ったのを覚えている。
そんな、歴戦の兵士が裸足で逃げ出す(逃げ出したら死ぬけど)レベルの教育を受け、一人前だと認められたのは十五歳の頃。
ある朝師匠は俺を呼んで、
「もう教えることはない」
とか今までちゃんと教えてきた風なことを言った。
最近は外に追い出して夜になったら帰ってこいと言うばかりであなたからほとんど教わってませんけれど。
「好きに生きなさい」
結局最後まで何をしたかったのかわからない。
俺を育ててどうしたかったんだろう。
俺はずっと何か使命を負わされるものだと思っていた。
例えば、伝説の魔物を倒すために俺を育てたんだ、とか。
例えば、師匠は誰かを恨んでいて、そいつを殺すために訓練したんだ、とか。
例えば、簒奪《さんだつ》された君主の地位を求めて、俺連れて一緒に攻め入り、王として舞い戻る、とか。
そんな使命を考えては、そのためなら頑張れる、そのために頑張らなきゃいけないんだと自分を説得して、【荒れ地】と師匠の理不尽に耐えてきた。
なのに、
そんなこともなく、ただポーンと外に放り出された。
まじかよ。
しかも、直後に荷物をまとめて出てきた師匠は、思い出の住処を破壊した。
十五年間魔物の攻撃にも恐ろしい気象の変化にも耐え続けた住処は一瞬で灰になってしまった。
師匠は俺に近づくと足下に袋を投げた。
それは俺が今まで外に出たときに集めていた宝物たち。
いつか売ろうと思っていた宝物たち。
「よし、お前はあっちに行け。俺はこっちに行くから。じゃあなシオン」
そう言って師匠は見たことのない速度で走り去った。
一人取り残された俺は空を見る。
朝日が目にしみる。
なんでもかんでも好き勝手やってんじゃねえよ!
俺は十五歳なのにその場で「いやいや」をした。
地面に寝転がって手足をばたつかせる。
感情がごっちゃ混ぜになった結果そうするしか思いつかなかったというのもある。
俺を育てて凶悪な魔物を倒したかったんじゃないのか!
誰かに復讐したかったんじゃないのか!
国を乗っ取りたかったんじゃないのか!
毎日の修行(外での放置)が辛すぎて、そこから心を守るために自分の中で作り上げてきた「宿命」という名の城が崩れ去ってしまった。
俺は宿命づけられているから師匠はこんなに俺を辛い目に遭わせるんだと考えてきたのに!
俺はどうしたらいいんだ。
灼熱の日差しが陰り、雪が降ってきた。
このままでは埋もれてしまうので立ち上がり、宝物が入った袋を引っつかんでとぼとぼと歩き始める。
この頃になると五日夜通しで歩いても、生きていけるようになっていた。
で、かなり長いこと歩いた先で、兵士が数人死んで白骨化しているのを見つけた。
冒険者かもしれない。
そこでようやくかつて考えていたことを思い出した。
そうだ、俺、金持ちになろう。
師匠も「金持ちはいいぞぉ」と言っていた。
金があれば何でも買えるらしい。
きっと愛も宿命も買えるだろう。
好きに生きなさいと言われてしまったんだ。
好きに生きてやろう。
俺はその兵士たちから高価そうな武器を取り、懐に入っていた幾ばくかの小銭をくすねた。
金だ!
これこそ、この世の全てだ!
金があれば何でも買える!
かつてミスリルを手に入れようと鉱山に踏み込んだ連中がいたが、結局一番儲かったのは鉱山に入った奴ではなくそいつらにツルハシを売った連中だった。
俺は死んだ冒険者あるいは敗走した冒険者や兵士の落とした道具を拾って売ってやる。
俺は歩き続けて、ついに【荒れ地】の外へと足を踏み出し、
拾遺者になった。
物心ついた時には師匠に育てられていて、【荒れ地】の中をさまよっていた。
【荒れ地】とは魔法戦争の主戦場になった場所で、魔力の残留物と、壊れた魔道具と、そして、奇妙に変化した魔物たちによって支配された土地のことを指す。
めまぐるしく気候と気温が変わり、さっきまで真夏みたいに肌が焼けそうだったのに、今は雪が降って地面が凍っているなんてことがざらにある。
当然子供を育てる環境には向かないのだけれど、師匠は俺をそこで育てた。
虐待だと思う。
温室で育ちたかった。
俺の魔力が安定するまでは、「魔力のためだ」と言われ苦くて喉が痛くなる訳のわからないものをガンガン食わされて、体を引きつらせて死にそうになり、走り回り、剣を振り、泥のように眠る生活が続いた。
師匠の作った住処は【荒れ地】にあっても外の気候に影響されず魔物も入ってこないよう魔道具が常に動いている場所で「ここから出たら死ぬぞ」と口酸っぱく言われていた。
事実、窓の外で魔物が一瞬で体を切断されて死ぬのを見たのは一度や二度ではない。
そう考えれば温室で育ったようなものではあるがそれは相対的なものであり、はじめから【荒れ地】を選ばなければいいだろ、なに考えてんだ。
師匠はアホだった。
見かけ四十半ばのエルフの男だったけれど、本当の年齢は知らない。
あらゆることを知っていて、でも、アホだった。
知識があるのとアホさ加減とは別物だ。
俺はその適当さで何度死にそうになったかわからない。
外に出ることを許されたのは十二歳(師匠がそう言っていた)の頃。
出ることを許されたというか、放り出された。
魔力を蓄え、ある程度身を守る魔法を学んだ俺は、突然首根っこを掴まれて外に放り出され、
「今日の夕食を狩ってこい」
そう言われた。
気候から体を守るので精一杯。
師匠からもらった剣を震える手で持ってあたりを見回す。
俺を襲おうとした魔物がもっとでかい魔物に一瞬で切り裂かれる。
空をバサバサと巨大な翼が通り、地中からいきなり鋭い牙が顔をだす。
突然、背後から飛びかかってきた魔物を転げるようにして避け、俺はなんとか急所を突き刺した。
魔物が死んだ瞬間、体が崩れ落ちていくつかのアイテムがその場に残る。
ドロップと呼ばれる現象で、ダンジョンから溢れた魔物を倒すと起きる。
出てきたのは魔石と爪、頑丈な革、それから肉だった。
俺は慌てて回収して家に戻ったのを覚えている。
そんな、歴戦の兵士が裸足で逃げ出す(逃げ出したら死ぬけど)レベルの教育を受け、一人前だと認められたのは十五歳の頃。
ある朝師匠は俺を呼んで、
「もう教えることはない」
とか今までちゃんと教えてきた風なことを言った。
最近は外に追い出して夜になったら帰ってこいと言うばかりであなたからほとんど教わってませんけれど。
「好きに生きなさい」
結局最後まで何をしたかったのかわからない。
俺を育ててどうしたかったんだろう。
俺はずっと何か使命を負わされるものだと思っていた。
例えば、伝説の魔物を倒すために俺を育てたんだ、とか。
例えば、師匠は誰かを恨んでいて、そいつを殺すために訓練したんだ、とか。
例えば、簒奪《さんだつ》された君主の地位を求めて、俺連れて一緒に攻め入り、王として舞い戻る、とか。
そんな使命を考えては、そのためなら頑張れる、そのために頑張らなきゃいけないんだと自分を説得して、【荒れ地】と師匠の理不尽に耐えてきた。
なのに、
そんなこともなく、ただポーンと外に放り出された。
まじかよ。
しかも、直後に荷物をまとめて出てきた師匠は、思い出の住処を破壊した。
十五年間魔物の攻撃にも恐ろしい気象の変化にも耐え続けた住処は一瞬で灰になってしまった。
師匠は俺に近づくと足下に袋を投げた。
それは俺が今まで外に出たときに集めていた宝物たち。
いつか売ろうと思っていた宝物たち。
「よし、お前はあっちに行け。俺はこっちに行くから。じゃあなシオン」
そう言って師匠は見たことのない速度で走り去った。
一人取り残された俺は空を見る。
朝日が目にしみる。
なんでもかんでも好き勝手やってんじゃねえよ!
俺は十五歳なのにその場で「いやいや」をした。
地面に寝転がって手足をばたつかせる。
感情がごっちゃ混ぜになった結果そうするしか思いつかなかったというのもある。
俺を育てて凶悪な魔物を倒したかったんじゃないのか!
誰かに復讐したかったんじゃないのか!
国を乗っ取りたかったんじゃないのか!
毎日の修行(外での放置)が辛すぎて、そこから心を守るために自分の中で作り上げてきた「宿命」という名の城が崩れ去ってしまった。
俺は宿命づけられているから師匠はこんなに俺を辛い目に遭わせるんだと考えてきたのに!
俺はどうしたらいいんだ。
灼熱の日差しが陰り、雪が降ってきた。
このままでは埋もれてしまうので立ち上がり、宝物が入った袋を引っつかんでとぼとぼと歩き始める。
この頃になると五日夜通しで歩いても、生きていけるようになっていた。
で、かなり長いこと歩いた先で、兵士が数人死んで白骨化しているのを見つけた。
冒険者かもしれない。
そこでようやくかつて考えていたことを思い出した。
そうだ、俺、金持ちになろう。
師匠も「金持ちはいいぞぉ」と言っていた。
金があれば何でも買えるらしい。
きっと愛も宿命も買えるだろう。
好きに生きなさいと言われてしまったんだ。
好きに生きてやろう。
俺はその兵士たちから高価そうな武器を取り、懐に入っていた幾ばくかの小銭をくすねた。
金だ!
これこそ、この世の全てだ!
金があれば何でも買える!
かつてミスリルを手に入れようと鉱山に踏み込んだ連中がいたが、結局一番儲かったのは鉱山に入った奴ではなくそいつらにツルハシを売った連中だった。
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