【荒れ地】で育った嫌われ者のDランク冒険者は拾遺者《ダイバー》として今日も最下層に潜る

嵐山紙切

文字の大きさ
4 / 52
第一章 ライラ・マリー編

第4話 シオン・スクリムジョーは嫌われている

しおりを挟む
【荒れ地】から出てから四年の歳月が流れ、十九歳になった俺は、倒したゴブリンの魔石を持ってギルドに戻る。
 
 昨日はダンジョンで無謀なことをして死んでた奴がいたが、今日はいなかったな。
 
 ここ数日は稼ぎが悪い。

 そう思いながら、開け放たれたドアをくぐり抜け建物に入った。

 瞬間、話し声が消えて、ほぼほぼ全員が俺を睨む。

 それは冒険者だけではなく、受付も奥で働くギルド職員も、なんなら依頼を出しに来た街の住人もそうだ。

 相変わらずの嫌われっぷりだな。
 何でだろうな。
 まあ良いけど。
 
 今週のノルマである魔石十個を鑑定してもらうために受付に並ぼうとすると、いきなり一人の若いの冒険者が俺の前に割り込んできて、俺を見上げ、睨みつけてくる。
 
 多分駆け出しで、十六とかそのくらいの男だ。
 首に真新しい鉄の冒険者証がぶら下がっている。

 
「なんだ?」

「お前……お前、アイツの盾を剥ぎ取って売りやがったな! 昨日見てたんだよ売るところを!」


 アイツって誰だよ。
 そしてお前も誰だよ。

 昨日売った盾ってことはアレだな。
 無謀な奴だな。
 
 そう俺は思い出しつつ、


「売ったかもなあ。で、それの何がわりぃ? 他の冒険者だってやってるだろ? ダンジョンで死んだ冒険者の持ち物は好きにしていい。それはギルドでも言われてる。何が問題だ?」

「お前に売られるってことが問題なんだよ! お前は依頼を受けるわけでもなく、魔物を討伐するためにダンジョンに潜るわけでもない。お前の目的は装備を剥ぎ取って売ることだけだ!」


 騒ぎを聞きつけて冒険者たちが加勢をするように俺たちの周りを囲み始める。
 俺に加勢する奴は当然いないけれど。
 全員俺を睨んでいる。

 仲間を得た若い冒険者は怒鳴る。


「いいか、冒険者ってのは、村や街を守るために戦ってんだ! ダンジョンから魔物が溢れないように必死になって戦ってんだ!」


 そうだ! という賛同の声。


「なのに、お前は、俺たちに寄生して、死んだ俺たちの持ち物を奪うことしか考えていない! 魔物を倒すのだって、どうせゴブリンから武具を奪うときくらいだろうが! お前は寄生虫だ!」


 また、賛同の声が上がる。


「アイツはお前を嫌ってた。そんな奴に装備を奪われるなんて……アイツが浮かばれねえだろうが!」

「何言ってんだ、お前」


 俺の何が悪いのかさっぱり解らん。


「俺はギルドの規定に反してねえ。冒険者証は持ってるし、ノルマは果たしてるし、ダンジョンで死んだ冒険者の装備品を奪っちゃならねえって規定はねえ。装備品をゴブリンやら他の魔物に奪われて使われるくらいなら、俺が奪った方が危険が少ねえからな。理解したか、ガキ」

「ガキ……だと……! 俺はガキじゃねえ! それに、お前は規定に違反してるだろうが! 魔物除けをダンジョンの中で使ってる!」

「使ってねえよ」


 持ったことねえから使い方も解らねえ。


「証拠でもあんのか?」

「いまはない。でも見た冒険者がいる。ダンジョン内に発動したままの魔物除けが転がってて、確認したらその日お前がダンジョンに入ったんだと解ったって話も聞く」

「噂、だろ?」

「証言だ! お前よりずっと尊敬できる冒険者たちのな!」


 ギルド内のささやき声が大きくなる。
 私も、僕も、俺も、その話を聞いたことがある、そんな声が聞こえてくる。
 
 若い冒険者はそれを援護に俺を指さして、


「お前はこの冒険者ギルドに害をなす! それどころか街にさえ悪影響だ! 邪魔なんだよ! シオン・スクリムジョー! お前がいるだけで士気が下がる! 出てけ! ギルドからも街からも出てけよ!」


 大きな賛同の声。
 皆、元気だな。

 自分では言えねえことをこんなガキに言わせてんのか。
 恥ずかしくねえのかな?

 出てけとか、失せろとか、冒険者証を剥奪しろとか、騒ぎは徐々に大きくなって、奥からギルドマスターが姿を現した。

 そのあたりで、


「まあまあ、みんな落ち着け」


 そう、よく通る声でいう男、
 Aランク冒険者、タイロン・トレッダウェイが仲裁に入った。


「皆の言うこともよーくわかる。シオンは村や街を守るために必死になっていないのも事実だし、魔物除けを使っている疑いもある。だがどうだろう。証拠もないのにそれだけで冒険者証を剥奪しろというのは横暴すぎやしないだろうか?」


 顔を真っ赤にしていた若い冒険者はタイロンの言葉に不満げに、


「それは……タイロンさんが優し過ぎるんですよ。あなたは人格者だからそう言いますけど、俺たちは……」

「では、この中でやむなくダンジョンの中で魔物除けを使ったことがある者は? 誰でも携帯しているだろう?」


 ギルド内が静まりかえる。
 若い冒険者ですら、その経験があるようで黙っている。


「ギルドの規定は『ダンジョン内では緊急時を除いて、魔物除けを乱用してはいけない』と言うもののはずだ。覚えているかな?」


 まるで教師のようにタイロンは冒険者たちに尋ね、彼らは頷く。


「ではもし、何か緊急事態があって魔物除けを使ったにもかかわらず、『お前は乱用したんだ』と言われて冒険者証を剥奪されたらどう思う?」
 

 若い冒険者が反論する。

 
「そんなことギルドがするわけが……」

「しかし君たちが今していることはそういうことだ。『証拠はないけれど、絶対魔物除けを乱用したはずだから、冒険者証を剥奪する』という前例を作ろうとしている。いまのギルドマスターは人格者かもしれないが、もし別の悪いギルドマスターが来たとして、その前例を引っ張り出されれば、次に冒険者証を剥奪されるのは君かもしれない」


 さすがに若い冒険者は唾を飲み込み黙りこくった。
 他の冒険者たちもタイロンの言葉に聞き入っている。
 口だけはうまい奴だよほんと、と俺は思う。

 タイロンはそこでパンッと手を叩いた。


「さあ、話はこれで終わりにしよう。魔物除けの件はこうして皆の前で釘を刺したんだ。もし誰かが今まで本当に乱用していたとしても、これからは気をつけるだろう」


 タイロンは俺を見るポーズをしてから、

 
「それから魔物除けは緊急時にはちゃんと使うんだぞ。命は大切にな」


 そうおどけて言った。
 笑い声がちらほら上がる。
 
 タイロンは俺を睨み続けている若い冒険者の肩を叩くと、


「乱闘を起こして罰を受けて、一ヶ月依頼を受けられなくなるなんてあほらしいだろ?」


 若い冒険者は言われてからも俺をじっと睨んでいたが、すぐに溜息をついて、


「解りました」


 そう言ってとぼとぼと歩き出した。





 ギルド内は通常業務に戻る。
 ギルドマスターがやってきて、タイロンの背を叩き「今回も助かったよ」とか「さすが皆の信頼を集めるだけある」とか言っている。

 他の冒険者もタイロンを尊敬の眼差しで見ているが、



 こいつらは、タイロンの秘密を知らない。
 こののことを知らない。
 魔物除けを使っている張本人だということを知らない。


 
 話すつもりもないけどな。
 
 どうせ誰も信じないし、
 それに、
 俺にとっては、どうでも良いことだから。

 金にならない無駄な労力を費やすつもりはない。
 あと、説得は苦手だ。
 説得じゃなくてケンカになる。

 俺は受付に並び、ノルマであるゴブリンの魔石十個を提出して、
 今週もDランク冒険者という肩書きを保持した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...